昨シーズンWリーグ連覇、皇后杯優勝と輝かしい戦績を収めた富士通レッドウェーブは、8年間に渡りアシスタントコーチとしてチームを支えた日下光がヘッドコーチに昇格し、新しいスタートを切る。ディフェンディングチャンピオンを指揮することになった日下に、初めて務めることになったヘッドコーチとしての心構え、チームビルディングを進めていく上で重要視していることについて語ってもらった。

「ともに成長できるようなコーチングをしていきたい」

──日下さんは仙台89ERS、京都ハンナリーズでプレーした後にコーチ業に転身。富士通レッドウェーブのアシスタントコーチとしてコーチングキャリアをスタートし、今シーズンよりヘッドコーチに就任されました。これまでに、どのような成長を遂げることができましたか?

選手を引退する時にバスケットの指導者になりたいという気持ちはありましたが、まさか自分が女子のコーチをするとは夢にも思っていませんでした。最初は女子バスケの雰囲気に戸惑いながら、指導者としてのあり方を修正していく作業を繰り返していました。アシスタントコーチを務めた8年の間に2人のヘッドコーチと関わり、彼らから多くのことを学んだことで、自分が目指すべきコーチ像を作り上げることができました。

──ヘッドコーチとして心がけていることはどのようなことですか?

まずは私が全部トップダウンで1から10まで教えるのではなく、ある程度余白を持たせることで選手たちが自ら考えて行動できるようなコーチングを目指しています。また、アシスタントコーチ陣にもこれまで以上に提案する機会を与えています。採用した提案を私から選手に伝えるときもあれば、アシスタントコーチ自身から伝えてころもあります。各自が「自分ごと」としてとらえられるよう、ともに成長できるようなコーチングをしていきたいと考えています。

──実際にヘッドコーチとして活動し始めたこの数カ月で、どのようなことを感じましたか?

アシスタントコーチとヘッドコーチではこうも違うんだなと。まずは自分で大きな決断をしなければいけないことが増えました。バスケットのことはもちろん、オフコートのことに至るまで、決断に降りかかる責任は役職が一つ変わっただけで大きく違うものになりました。例えば、トレーナーと相談し、試合に向けてのコンディションのピーキングをしながら練習のスケジューリングを決めることは、アシスタントコーチ時代にはなかったやり取りの一つになりますね。うまく対応しながらやっているつもりですが、まだまだ成長しないといけない部分です。

──毎日が決断の連続かと思いますが、反省することも多いでしょうか?

私ははめちゃくちゃポジティブ思考なので、自分で言うのもおかしいですがすっごく楽しんでいます(笑)。とは言えポジティブなだけでは絶対ダメなので、一番良くない状況に陥った時のことを想定しながら準備するというのが私のスタイルでもあります。今日(取材当時は韓国で開催された『2025 BNK金融 パクシンジャカップ』に参戦中だった)も例えば「3点負けていたらどうする?」ということを想定して、そのシチュエーションに対応できるプレーをメモしていますし、「ファウルトラブルになったらどうする?」ということも考えています。

──専用の練習施設を持っているWJBLのチームは、2部練習が当たり前で、さらに自主練習も長時間行う印象があります。どのように選手たちをマネジメントしているのでしょうか?

私はそれを変えようと思い、すでに実行に移しています。午前中はこれまでチーム全体で行っていたウエイトトレーニングや対人なしのワークアウトを、グルーピングして実施しています。そうすることで若手に必要なスキルを教えている時にベテランの集中力が切れることもなくなりますし、逆に若手たちが内容を理解できないままワークアウトに取り組むこともなくなっています。午後は全員で対人練習を含めたメニューを行い、長くても1時間半ぐらいに収めるようにしています。これまでに比べると練習時間を短くし、量よりも良い質を求めています。

「代表経験が多い選手の考えは尊重してあげたい」

──今シーズンはどのようなチームを目指しますか?

全員が同じ方向に進めるチームであるというところが、私が富士通レッドウェーブというチームの好きな部分の一つです。チームのために徹することができる選手が集まっているので、その中で個々の強みを生かせるチームにしていきたいと思っています。今課題なのは、苦しくなった時に自分たちのバスケットを見失ってしまうこと。ディフェンスから立て直し、そこからリズムを作っていくチームにしたいのですが、苦しい場面にそこが曖昧になってしまうことがあります。タイムアウトの時に「ディフェンスからね、ディフェンスから」と口酸っぱく伝えていますが、そういったカルチャーを築けるようにしていきたいです。

──富士通を筆頭に、日本代表選手を多く抱えるチームはカルチャーの構築も大変ではないでしょうか?

私は逆に助かっていて、代表経験が豊富な選手の考えは尊重してあげたいと思っています。例えば練習中に私が提案をした時に、キキ(林咲希)やアース(宮澤夕貴)、ルイ(​​町田瑠唯)に質問や自身が考える改善点など積極的に発言してもらえるような雰囲気作りをしています。「はいはい」とただ従うだけではチームは同じ方向に進めません。経験のある彼女たちが発言することによってさらに深い共通認識が生まれ、まわりの若手選手に良い影響を与えます。彼女たちがしっかりと発言してくれていることが、カルチャー作りの一端に繋がっています。

──先ほど宮澤選手に話をうかがう機会がありました。日下さんについて「常にポジティブな声掛けで成長を促す機会を与えてくれている」と言った反面、「たまには厳しく場を締めてほしい」とも言っていました(笑)。

はい、そうですね(笑)。私もそこは自分の課題の一つだと思っているのですが、どのように『怒るか』というよりも、どのように『指摘するか』だと思っています。多種多様な選手たち一人ひとりにどのように考えや思いを伝えていくか、というのは今シーズン私が壁にぶち当たる課題だと思います。戦術やチームビルディングだけでなく、自身のコーチングの引き出しという面でも成長できるシーズンにしていきたいと思っています。

──優勝を目指す上でのポイントはどこにあるでしょうか。

外国籍のレギュレーション変更はその一つです。他クラブがどのような手を打つのかは現時点ではわかりませんが、富士通は日本人メンバーに加えてテミ(ジョシュア ンフォンノボン テミトペ)がいます。彼女たちが中心メンバーになることは変わりなく、そこのプラスアルファとして新規外国籍選手が加入予定です(10月9日にアカトー オーサリテン エブリンの加入が発表された)。外国籍選手でバスケットを大きく変えるのではなく、彼女を私たちのバスケットに溶け込ませることを意識しています。

──最後に、全国のファンの皆さんにメッセージをお願いします。

試合会場で声を出してくださることも、画面越しで応援をしていただいていることも選手たちの力になっていますので、引き続き応援をお願いします。新しい体制ということで、良いことばかりではなく苦しい時もあるはずなので、そんな時こそ大きな声援を送っていただけると選手たちの力になりますし、チームの成長にも繋がると思います。ともに戦っていきましょう。