
サンロッカーズ渋谷が目指すバスケットについて語ったインタビュー前半を経て、後半は若手への期待と自身の役割についてに話題が移行。毎年、オフシーズンにも精力的な活動を続けるベンドラメ礼生は、さまざまな分野に触手を伸ばし、リーグ唯一無二の存在になりたいと語った。
ポテンシャルを持った若手の台頭にも期待
──ジャン・ローレンス・ハーパージュニア選手も代表に選ばれて、自信をつけてチームに戻ってきたと思います。彼とのチーム作りや関係性はどのように構築しますか?
僕が40分試合に出るということはないので、間違いなく彼が必要な時間帯というのは自然と生まれてくると思います。日本代表を経験して、彼も自信をつけて帰ってきているので、楽しみな部分もあるし、それに負けないように僕も切磋琢磨して成長できると思うとすごくワクワクします。お互いに高め合うためにも、JJ(ハーパージュニア)には僕を蹴落とすくらいのつもりで日々の練習や試合に臨んでほしいと思っています。そのような競争意識がきっとチームを強くしていくと思うので、JJだけでなくトロイ・マーフィージュニア、狩野富成にも期待をしています。
──昨シーズンからポジション表記をポイントガードから、ポイントガード兼シューティングガードに変更しましたが、ご自身のマインドで変わった部分があったのでしょうか?
いや、特にマインドが変わったというわけではないです。もちろん去年はサップ(アンソニー・クレモンズ)がいて、彼がボールを運んできてオフェンスが始めるスタイルだったのでシューティングガードとしての役割をすることもありましたが、今年は彼がいない分、ボールをもらったらオフェンスを構築する役割を担うと思います。僕の武器はドライブなので、得点にからむ瞬間というのは去年よりも間違いなく多くなると思うし、そういった中で素晴らしいチームメートをどうやって生かすか。それぞれの良さがあると思うので、それをしっかりと活かす組み立てを意識できたらなと思います。
──クラッチタイムも任されることが増えますね。
もちろんその時間帯は間違いなく来ると思うので、そこに対してしっかりと準備していきたいなと思ってます。
──60試合という長いレギュラーシーズンを戦っていく中で、バスケットの面で今シーズン大事にしたいことはありますか?
一つひとつの細かいところにはこだわりたいです。先ほど話したように、オフェンスがアップテンポになっても雑にならないことが重要です。別にキレイなバスケットがしたいわけではないですが、「ただ動く」のと「考えて動く」のでは全然質が違うと思うし、きちんと意図を持った上でフリーに攻められたら一番良いのかなと。頭も使うし、全員の意思疎通がないとタイミングも合わないのですごく難しいバスケットではあるんですが、それがハマった時はディフェンスをする相手も大変だと思うので、細かいところにこだわりたいです。それはルカ(・パヴィチェヴィッチ前ヘッドコーチ)から学んだことでもあるし、個人的にも一つひとつの動きの質を上げたいし、チームとしてもそこにフォーカスしてやっていきたいなと思ってます。
「そこにちゃんと愛情があるのかどうか」
──シーズンを戦い抜くために、オフシーズンはクリニックや写真展を実施するなど精力的に活動してパワーチャージをしている印象があります。何が原動力としてご自身を突き動かしているのでしょうか?
これだけ注目してもらえるのは現役である今しかないという思いがありますが、ただ単に僕の好奇心が強く、やりたいことがたくさんありすぎるっていうだけなんです(笑)。これに対して何かが突き動かすとか、そういうものはないです。
──なるほど。
……なかったんですけど、ただクリニックをやったり、ただ何かをするだけなら簡単です。今のプロ選手だったらたくさんの人に注目してもらえるし、グッズを売って、クリニックをして、なんとなくバスケを教えて、みんなが喜んでくれる。でも、それだと本当に意味がないなというのは考えるようになりました。そういった活動をする時に僕が一番に考えているのは、そこにちゃんと愛情があるのかどうか。『そこに愛はあるんか?』ってやつですね。それが一番大事な気がしていて。クリニックをするにも今の子どもたちが何を求めていて、本当に何が必要なのか、それを考えてためになるクリニックを開催するようにしています。
──地元の福岡で毎年開催している『L_Game & L_Camp』というイベントで、クリニックを行っていますね。
このクリニックは地味でつまらないクリニックだったと思いますよ。参加した子どもたちは僕が子どもの時よりも、小手先のドリブルとかは圧倒的にうまいんですよ。携帯で簡単にハンドリングの動画が見られてマネできちゃうので引き出しもすごくあります。でも、大会でのプレーを通して、その小手先のドリブルの披露の仕方が分かっていないというか、使うタイミングが分かっていないなと思いました。せっかくドリブルがうまいのに「そこで使わないの?」とか、逆に「今そこで使うの?」という場面が多く見受けられました。
このクリニックは大会を行ったあとに実施しているんですが、僕は大会で「彼らに何が一番足りないのか」という部分を見ます。そして、その後のクリニックで大会で感じたことをまずは伝えて、足りなかった部分に関してアプローチするという方法をとっています。今年は、ダッシュやジャンプからしっかり止まれない子どもが多すぎたので、ボールを持ってちゃんと止まる、ジャンプして着地する、ドライブして止まって切り返すなど、地味なことをずっと教えました。
最近は子どもたちにモテそうなドリブルとか、喜びそうなことを教えているスキルコーチが一部いますが、彼らが子どもたちにバスケットを上達してほしいからやってるのか、ただやっているのか、疑問に思うこともあります。バスケット選手としてプレーをする上で必要なことを考えた時に、僕はもっと大事なことは基礎にあると思っているので、そこに対して愛情を持ってやっています。そして、大会やクリニックの締めのあいさつで「これからプロ選手になったら『L_Gameのおかげでプロになれました』って言ってください」ってみんなに言い聞かせています(笑)。携わったイベントに参加した子どもたちからプロ選手が生まれたら、僕の一つのモチベーションになります。今Bリーグはこれまで以上の大きな影響力があるので、今のうちにもっともっとたくさんの人に見てもらって、刺激になれる存在になれたら良いと思って活動を進めています。
──ベンドラメ選手は清水太志郎さん(三遠ネオフェニックスアシスタントコーチ)が主催する宮崎のクリニックにも講師として参加されていますが、子どものころにこのクリニックに参加していた大森尊之選手がプロ選手になりました。
そうなんですよ。めちゃくちゃうれしかったですね!クリニックをやること、そして続ける理由というのはこういうことなのだと思います。宮崎はプロチームがなくてプロに触れる機会が本当に少ないので、Bリーグの認知の低さもすごく感じました。クリニックで得た熱量をぶつける環境も整備されていないし、「礼生さんの試合を観に行きたい」と思っても、宮崎から行きやすい距離でB1の試合が行われることはめったにない。求める環境がない分、僕たちが届けてあげたいと思っていますし、それが刺激になってプロが生まれたことはすごくうれしかったですね。

「バスケ界の松岡修造になりたい」
──オフシーズンに関わった子どもたちなどからエネルギーをもらい、オンシーズンを戦う原動力としているのですね。
そうですね。ありがたいことに今はみんなの先頭に立っていろいろな表現ができています。今は誰が何にチャレンジしても良い時代だと思うので、写真展やアパレルブランドなど、いろいろなことにチャレンジしています。それを見て「私も何か新しいこと始めよう」と思ってくれたらうれしいし、みんなの背中を押せるような存在でありたいなと思っています。あとはBリーグでもっととがりたいですね。「ちょっと変なやつ」で良いので、飛び抜けた存在になりたいなと思っています。
──マルチな活躍をしていて素晴らしいです。富樫勇樹選手とのポッドキャストも拝聴しています。
あれはただ好きにしゃべっているだけですけど(笑)。
──とはいえ、あのような選手主導型のコンテンツは今までなかったですし、とても良い試みだと思います。
そうですね。だから、メディアに出ていくことも僕にとってはすごく楽しいことだし、試合解説もすごく楽しくやらせていただいています。バスケ界の松岡修造になりたいですね(笑)。あそこまで吹っ切るのはまだ難しいですけど、「礼生の解説だからこっちで見ようかな」って言ってもらえるように、ちゃんと解説をしつつ、熱量もしっかり伝わるように伝えることができたら良いなと思ってます。
──最後に今シーズンに向けて、ファンへのメッセージをお願いします。
昨年とはまったく違うチームになると思います。どんなチームになるのか僕もまだ分からないですし、去年とはプレースタイルが真逆になると思いますが、そういった中で去年まで鍛えてきた質や細かいところにこだわって、すごく良いバスケットが展開できるんじゃないかなと思っているので、そこを楽しみにしてもらえたら良いなと思います。