男子日本代表

若手に経験を積ませられたのか、疑問の残る選手起用

男子バスケットボール日本代表の『FIBAアジアカップ2025』は、ベスト8決定戦でレバノンに73-97で敗れて終了した。これまでのアジアの勢力図を考えれば、前回大会準優勝国のレバノンに敗れたことは驚きではない。だが、第3クォーター序盤に20点差をつけられ、そのまま為す術なく敗れたのは大きな問題だ。

そもそも今大会の日本代表は、NCAA組を中心に代表経験の乏しい若手を多く招集して強化を積み重ねた。しかし、韓国遠征で2試合ともに敗れるなど思うような結果が出ない中、大会直前になって富樫勇樹、NBAサマーリーグに参加していた馬場雄大と富永啓生が合流。強化合宿で経験を積み上げてきた若いメンバーたちを実績十分な選手たちが支え、貪欲に勝利を求める布陣で大会に挑んだ。

しかし日本は、FIBAランキング71位のシリア、88位のグアムという、世界ランキングで大きな開きがあるチームにしか勝利することができず、厳しい内容で大会を終えた。

大前提として、オフシーズンを返上し、日本代表のために長い強化合宿を行った選手とスタッフには多大な敬意を示したい。だが、チーム作りの方向性、戦略には疑問が残った。

まず、トム・ホーバスヘッドコーチは大会の総括として「若い選手たちがこのような舞台を経験できたことはポジティブなこと」と語っているが、今大会にエントリーした若手たちは指揮官が強調するような経験を積めたのだろうか。

前回の『FIBAアジアカップ2022』では、河村勇輝、吉井裕鷹、富永啓生、西田優大、テーブス海、井上宗一郎と、当時23歳以下だった選手たちがそれぞれ1試合平均10分以上の安定した出場機会を得て、しっかり経験を積めた。しかし今大会、23歳以下でメンバー入りした狩野富成、ジャン・ローレンス・ハーパージュニア、金近廉、ジェイコブス晶の中で、安定した出場機会を得たのはジェイコブスのみ。他の3名の出場機会の大半は、大勝したシリア戦とグアム戦、そして大敗したレバノン戦で試合の行方が決まった時間帯になってからだ。

例えばホーバスヘッドコーチは、レバノン戦の試合後に「最後のハーパー選手、けっこうよかったです」とハーパージュニアを称えた。だが、ハーパージュニアがコートに立ったのは大差がついた後。彼をしっかりと評価するならもっと早い段階で起用するべきだった。

この試合で日本は、レバノンのガード陣に簡単にゴール下への侵入を許し、センターのジョシュ・ホーキンソンがゴール下に張り付かないといけない状況になってしまった。その結果として、相手センターのデドリック・ローソンに、ペイント付近で簡単にシュートを打たれた。

グループフェーズで調子の良くなかったローソンに24得点と大暴れを許したのは、マッチアップしたホーキンソンの責任ではなく、ガード陣の守備。ホーバスヘッドコーチには、ディフェンスを評価するハーパーをもっと早い段階…前半のうちから起用し、相手ガードにプレッシャーをかける姿を見せてほしかった。

富永啓生

個性の似た選手たちを多く揃えた弊害

また、大会を通して目立ったのはオンフェスのテンポの遅さだ。今大会を見ると、ベスト8進出のチームではガードだけでなくウイング、時にはビッグマンも、前が空いていたらどんどんボールプッシュし、ゴール下が空いていたらドライブを繰り出していた。日本はそういったプレーが少なかった上、ドライブを仕掛けてもボールを弾かれるなどフィニッシュに持ち込む力も不足していた。

さらに、オフェンスの再現性のなさも目立った。その象徴がレバノン戦、エースシューターの富永が相手の徹底マークにあい、3ポイントシュートをほとんど打てずに終わったことだ。

グループフェーズの試合を見たレバノンが、富永の3ポイントシュートを消しにくることは想定できたはずだが、チームとして打開策を見出せなかったのは痛かった。富樫も「富永にああいう守り方をされた時にどういう攻め方をするか、試合の中でアジャストしないといけなかった」と反省しきりだった。

これは「3ポイントシュート重視」という原理原則に固執した結果が生み出した弊害だ。今大会はハンドラーとしてプレーでき、かつゴール下に割って入る能力に優れたウイングが不足していて、チーム全体としてプッシュする力が欠けていた。河村、比江島慎といった個で打開できる選手がいない中、3ポイントシュート力が劣っていても縦に割っていける選手を入れておくべきだったのではないだろうか。

代表チームは所属チームでスタッツを残した選手たちによるオールスターチームではなく、チームコンセプトに合った選手で構成することが肝要。とは言え、Bリーグで結果を残した選手があまりにも選考にからんでいないのも気になる。今回のアジアカップも含め、国際大会は激しいフィジカル、普段とは違う環境でのプレーなど心身ともにタフさが問われる舞台。だからこそ質の高い外国籍選手が増え、年々レベルの上がっているBリーグでプレッシャーのかかる状況を乗り越え、チームを勝利に導いてきた経験を持つ選手たちの力を見たくもあった。

代表チームでの経験値が選手選考で優遇されるのも理解できる。だがここ数年は、Bリーグで結果を残してきた選手たちが合宿に呼ばれたと思ったらすぐに落選する、ベンチ入りしてもわずかな出番で終わるといったことが頻発している。このような選考の影響も手伝ってか、今大会で「新戦力」と言えるだけのプレーを見せたのはジェイコブスくらいだ。Bリーグで活躍する旬の選手が代表で十分なチャンスを与えられないのは、素直にもったいないと感じる。

トム・ホーバス

ワールドカップ予選突破への危機感

アジアカップを終えた日本代表が次に挑むのは『FIBAワールドカップ2027』のアジア地区予選。NBAでプレーする河村が引き続き代表活動に参加できないだろう今の日本は、予選突破を楽観視できない。全16チームが参加し、開催国のカタールを除く7チームに出場権が与えられる同予選のフォーマットは、一見すると大きなチャンスがある。だが、中国、韓国、チャイニーズ・タイペイと同組になった1次ラウンドで上位3チームに入れないかもしれない、という危機感を持たないといけない。

近年の日本はチャイニーズ・タイペイには好成績を残している。しかし、今回のチャイニーズ・タイペイは中国プロリーグCBAでプレーする複数の選手が合流し、NCAA1部のアイビーリーグで文武両道を貫くヒントン兄弟、新たな帰化枠のブランドン・ギルベックなど大幅な戦力アップに成功した。今大会ではフィリピンにアップセットを果たしてベスト8進出を決め、プレーの質は日本より明らかに上だった。

日本は11月28日にホーム、12月1日にアウェーでチャイニーズ・タイペイと対戦する。NCAAのシーズン中のためヒントン兄弟が出場する可能性は低いが、CBA組の中心選手が合流するとなればかなり手強い相手。ここで後手を踏むようなら、一気に1次ラウンド敗退の現実味が帯びてくる。

ホーバスヘッドコーチは、地区予選の展望を次のように話す。「勝つしかない。最初のチャイニーズ・タイペイは良いチームです。渡邊雄太選手やマコ(比江島)と代表でやりたい気持ちもあります。これからケガ人も出るかもしれないですし、誰を起用できるかわかりません。今回のチームは今回のチームで、次のワールドカップ地区予選では違うチームを作ります」

これは妥当な方針ではあるが、今回のアジアカップでは結果と育成を求め、そのどちらに対しても中途半端な成果しか残せなかったという印象が否めない。

ホーバスヘッドコーチのこれまでの功績は素晴らしく、若手の育成能力に長けていることは間違いない。だが、ワールドカップ予選では選手選考を含め、これまでのスタイルからの何らかのテコ入れ、アップデートが必要なはずだ。