文=小永吉陽子 写真=小永吉陽子、鈴木栄一

スピードと運動量でアピールする、成長著しい26歳

4月上旬から始まった日本代表の1次と2次の強化合宿にて、躍動感いっぱいにコートを動き回る選手がいた。トヨタ自動車のWリーグファイナル進出に貢献した水島沙紀である。

終了したばかりの昨シーズンは平均13.86得点(全体12位、チーム1位)、3ポイントシュートの成功率5位(39.08%)、スティール本数2位(2.09本)と個人スタッツが上昇。フリースロー部門では90.48%の高確率をマークし、初めての個人賞も受賞した。スタッツが示すように、初の代表候補に名乗りを上げたことは当然の結果だ。

今年度から日本代表の指揮を執るトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)は水島のプレーについて「ファイナルで対戦した時はシュートセレクションを直さなければと思うところがあり、代表でどれくらい使えるかは未知数だった」と明かしたが、実際に合宿が始まってみると「ディフェンスをよく見て攻めているし、思ったよりもよくやっている。スピードでいえば本川(紗奈生)と同じくらい速い」と手応えを感じている様子だった。

当の本人は初の代表候補選出に「選ばれてうれしい気持ちが一番ですが、うまい人たちの集まりなので不安な気持ちがあったし、練習は緊張しながらやっています。でもやるからには12人に選ばれたい。持ち味を出さないとヘッドコーチの目には留まらないので、得意のドライブインを見せたい」と意欲を見せ、コートを走り回っている。

教員を目指して大学進学後、日本代表入りした異色の選手

シーズン成績を見れば代表候補選出に異論はないが、異色の経歴を持つ選手である。水島は渡嘉敷来夢や岡本彩也花(JX-ENEOS)とともに桜花学園の同級生。不動のスタメンとして高校3冠を果たし、トッププレーヤーの道を歩んできた。高校2年次にはU-18代表の一員として初のアジア制覇にも輝いている。

だが、戦友たちがWリーグやトップレベルの大学に進学する中で、水島が選んだ進路は、当時関東大学2部の東京学芸大だった。

「体育教師になりたかったのと、小・中・高の教職が取れることで東京学芸大を選びました」と進学先を選んだ理由を明かすが、当時はWリーグという選択肢は全くなかったという。それだけではない。「このままWリーグに行ってバスケットをしてお給料をもらったら、お金の価値が分からないと思い、大学でアルバイトをしてみたかったし、就職する前に他の世界を見てみたかった」と語り、さらには「自分の力で大学を1部に上げたかった」と言う。

大学生活では中学と高校の教職免許を取ることができ、勉学については充実した生活を送ることはできた。しかし、バスケットボールのことで言えば、結果的には1部昇格はできず、入れ替え戦に出場する目標も果たせなかった。

「1部に上げたいと大口を叩いて大学に行きましたが、大学で勝てなかったことでもう一度、上の世界でやりたいという気持ちが出てきました。そこでトヨタから声をかけていただき、Wリーグでやろうと決意しました」と、大学2部からトップリーグへのチャレンジを決意。こうしてトヨタ自動車への入団が決まった。

トヨタ入団後、2年間はなかなか芽が出なかった。周りを見渡せば、かつての桜花学園やU-18の仲間たちはWリーグで頭角を現し、大学界ではユニバーシアードでベスト4に入る快進撃を見せ、日本代表ではアジア選手権やリオ五輪で輝いているメンバーたちばかり。焦りがなかったわけではない。

「大学とWリーグの一番の違いは体力とフィジカル」と痛感し、まずは身体作りから始まり、やっとの思いで付いていった練習が、今の走力あるプレースタイルにつながっていった。そして昨シーズンはコーチ陣とともに、1対1のスキルを身につけることから丁寧に練習に取り組み、着実に力をつけていったのだ。結果を出すのに3年かかった。

同僚のケガによって得たチャンスが自信につながった

この1年、自身が大きく飛躍した理由を、水島は冷静に分析する。

「オリンピックで栗原(三佳)さんがケガをしたことで私にスタメンが回ってきて、それで『私が頑張らなければ』という気持ちが大きくなったんだと思います。意識の面で変わったことが一番の理由です」

トヨタのエースシューターだった栗原が、リオ五輪中に右親指に剥離骨折のアクシデントを負ったことで、3年目の水島にスタメンの機会が巡ってきた。とはいえ、このチャンスは自分自身でつかんだもの。昨シーズンのトヨタがファイナルに進出したのは、ドナルド・ベックHCが求めるアグレッシブなディフェンスの考えが浸透したからであり、とりわけ、豊富な運動量を展開した水島がチームに新しい風を吹き込んだことも大きな要因だ。誰にも負けない運動量とスピード。これは残したスタッツ以上に水島がもたらした貢献であり、武器でもある。

「トヨタでスタメンになったことで自分自身の意識も変わり、自信もついてきました。今の目標はまずアメリカ遠征の15人に残ること。そして日本代表に残ること。がむしゃらに自分らしさを出していきます」

目下の課題は好不調の波をなくすこと。そのためには何よりも、トム・ホーバスHCが求めるチェンジング・ディフェンスを理解することだろう。トヨタの同期である近藤楓、本川紗奈生や篠崎澪など同世代でキャリアある選手たちがいる競争の激しいシューティングガードのポジションに、イキのいい水島のような存在が出てきたのは、日本代表の底上げになる。