「勝負というのはそんなに簡単には転がってこない」
熊本ヴォルターズはレギュラーシーズンを45勝15敗、西地区の1位、B2全体でも2位の成績でプレーオフへと進出した。東地区1位の群馬クレインサンダーズ、中地区1位の信州ブレイブウォリアーズはいずれもB1ライセンスを交付されておらず、熊本は昇格の権利を持つチームで最も成績の良いチームだった。「昇格しなければならない」の気持ちが強くあったのは当然である。ところが、1つ勝てば昇格が決まるプレーオフで、セミファイナルでは群馬に、3位決定戦では島根スサノオマジックに敗れ、またしても昇格はならなかった。
この3シーズン、いつ昇格できてもおかしくないチーム力を備えているはずが、どうしてもそこに手が届かない。チームのシンボルである小林慎太郎は、B1復帰を喜ぶ島根の姿を見届けた後、「これが勝負の難しさですよね、結局」と悔しさを隠そうとしなかった。「シーズン中、群馬には2勝しました。島根にも勝ち越しました。それでも勝負というのはそんなに簡単には転がってこない。難しさを痛感させられました」
群馬との試合で左膝前十字靱帯断裂の重傷から復帰した小林だが、島根との2試合では出場機会なしに終わった。自分を含めてケガ人が多かったこと、個人のレベルは上がったが組織力、チーム力を高めるための共通理解が足りなかったこと。小林は昇格を逃した原因を探りながら言葉を重ねていくが、確かな答えは出てこない。
「今日もコートで試合を見ながら、自分がいればなって」と小林は言う。「古野(拓巳)のシュートで7点差まで来て、そこから若い本村(亮輔)にノーマークのチャンスが来ました。若い選手が責任のある場面で打って、あの3ポイントが入っていれば4点差になっていたから、追いつけたかもしれない。彼もいろいろ考えると思うんですよ。でも、あの状況にさせてしまったのはチームだし、ひいては僕ですよね。申し訳ないなって、本当に。僕が打って責任は自分が取るって言えれば一番良いんですけど、それを見ながら今日は本当に複雑な思いで見ていました」
「6年キャプテンをやって、伝えたいものは伝わった」
自分に代わって主力としてチームを引っ張った古野と中西良太の涙を見て、自分も泣きそうになったという小林だが、結果がどうなっても泣かないと自分で決めたことを貫いた。「だから先週、復帰した時も負けた時も泣きませんでした。でも、あの2人とは長く一緒にやってきたし、ここでは語れないほど笑ったことも苦労もあります」
「あいつらと一緒にやってきた中では自分がリーダーとしてこのチームを引っ張ってきました。あいつらもまだ若い時にこのチームに来て、その成長を見ていたから、感謝と感動とうれしい気持ちでした。負けたことは全然うれしくないですけど、あいつらのその姿を見れたのが、僕はこのチームができて6年ずっとキャプテンをやって、伝えたいものは伝わったのかなと思います」
「中西なんて最初に来た時は痩せてて、なんもしゃべらんような感じで、前にも出て来ないし。古野も大学生の時から来てて、最初は20得点10ターンオーバーですよ。10アシストするけど10ターンオーバーする選手だったし、声も出さないし。でも今日はあれだけ身体を張って、声出して。最後は泣いている姿を見たらもう、親心ですよ。僕が思うチーム、組織におけるリーダーというものが少しずつ浸透していったんだなって。『慎太郎さんをB1に連れて行こう』って、僕がケガをした時にあいつらが送ってくれた言葉は嘘じゃなかったんだなって。その本当の気持ちが今日見れたことはうれしかったです」
「日本一の感動を熊本のみんなに届けなきゃいけない」
それでいて小林は、試合後に行われた最後のミーティングで、チームメートに厳しい言葉を投げかけたという。「僕が伝えたかったのは、プロチームである以上は結果を出さなきゃいけないということ。負けたらなんも意味はない」
「僕も含めて負けちゃいけない。島根を見てもらったら分かるように、あれが敗者であり、下を向いて泣いている僕たちは敗者なんです。残酷ですけど、スポーツだし結果がでるのは仕方がないこと。だからこうなっちゃいけないんです」
「1年目に6勝48敗しているシーズンから常々言ってますけど、僕の夢はこのチームを日本一にすることです。日本一にならないといけないんです。僕は何度も日本一にならせてもらった経験がありますけど、その時の感動とかお金じゃ買えないもの、心の幸せがついてくるんです。それをこの熊本のみんなに届けなきゃいけない。この仲間で達成しなきゃいけない。そうすることの過程の一つにB1昇格があるんです。そこを間違えちゃいけない」
本気で信じて、そこに向かって努力するからこそ結果が出る。過程も尊いが、プロであれば結果が必要だと小林は説く。「B1に押し上げることが目標みたいになってましたが、日本一を見てないからB1を逃してしまう。目標ってそのちょっとぐらい下に行っちゃうんですよ。僕たちも目標をやっぱり高く持たないと、低かったからB1に昇格できなかったと思います」
「僕は、今日でシーズンが終わってしまったみんなの顔を見て、あらためてそう思いました。B1昇格を、過程じゃなくゴールみたいな形にしてしまったから。目標を持つ大切さを伝えたくて、そういう話をさせてもらいました」
彼は来シーズンもまた「熊本を日本一に」を掲げて真摯に挑戦を続けるだろう。今回のチームは解散しても、それぞれの居場所でベストを尽くし、過程を大事にしながら結果も追い求めていく。小林の信念は、そうやって伝わっていくのだ。