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『スター選手を使えない』というレッテルに最高の回答
セルティックスのジョー・マズーラは昨年、NBAオールスターに参加する意義を問われると、肩をすくめて「特に何も」と答えた。オールスターはあくまで選手のための舞台で、近年はチームの編成を担当するシャキール・オニールやチャールズ・バークレーがチームの責任者としてのエンタメ的な発言も担うようになったため、ヘッドコーチの存在感は薄くなっている。
しかし、リーグ最高成績を挙げたヘッドコーチとして『チーム・シャック』を率いたケニー・アトキンソンにとって、その意義は大きなものだった。
「オールスターへの参加が決まった時は、キャブズのことに集中していて気が付かなかったんだが、古い友人からのお祝いのメッセージに『これは一生モノの栄誉だな』と書かれていて、ようやくその意味を理解したよ」
NBAのコーチとして一度大きな挫折を経験している彼にとって、キャバリアーズのオファーを受けてヘッドコーチに返り咲いたこと、そして結果を残していることは、大きな意義がある。オールスターへの参加は、そのご褒美とも言うべきものだ。
現役時代はNBAでプレーするには至らず、ヨーロッパで長くプレーした彼は、引退後にフランスで指導者キャリアをスタートさせ、ニックスとホークスのアシスタントコーチを経てネッツで初めてヘッドコーチに就任した。ネッツは編成に失敗し、戦力不足かつ将来の指名権も根こそぎ失っていた『どん底』のチームだったが、彼はスペンサー・ディンウィディー、キャリス・ルバート、ジャレット・アレンといった若手を育て上げ、レイカーズから弾き出されたディアンジェロ・ラッセルを中心とする極めて戦術的なチームで成功を収めた。
しかし、ネッツがいよいよ上を目指せるチームになったタイミングで、フロントはケビン・デュラントとカイリー・アービングを獲得。チームに加わった時点では長期離脱中だったデュラントが、アトキンソンの戦術重視のバスケに不満を漏らしたことで、アトキンソンは解任されてしまった。かくしてアトキンソンは「スター選手を使えない」というレッテルを貼られ、アシスタントコーチからの再出発を強いられた。
タロン・ルーのクリッパーズにスティーブ・カーのウォリアーズ、スター選手が揃うチームでアシスタントを務めて、ウォリアーズでは2021-22シーズンの優勝に貢献。2023年オフにはホーネッツからヘッドコーチのオファーが届くもこれを辞退し、昨年夏にキャブズのヘッドコーチに就任。そこで結果を出したことで、オールスターの舞台に立った。
彼が率いた『チーム・シャック』は、レブロン・ジェームズは欠場となったがステフィン・カリーにデュラント、ジェームズ・ハーデン、デイミアン・リラード、カイリー・アービング、ジェイソン・テイタムとオールスターの中でも華やかな選手が揃っていた。
セミファイナルではライジングスターズの優勝チームと対戦。アトキンソンはスター選手たちを集めてこう言ったそうだ。「負けたら一生言われ続けることになる。若い選手たちはここで勝って自慢したいんだ。でもこう言ってやろう、『楽しめると思ったら大間違いだぞ』とね。オールスターが何かを見せるんだ」
オールスターでの結果が彼の評価を決めることはないだろうが、『スター選手を使えない』というレッテルに対して実に象徴的な回答が出せたと言えるだろう。
オールスター・ウィークエンドを通じて終始機嫌の良かったアトキンソンは、「まさか自分がここにいるとは思わなかった。夢の一つが現実になったような感じだ」と語る。
「3年間を過ごしたアリーナでのオールスターに参加できてうれしい。家族全員とベイエリアで週末を過ごし、親しい友人たちと再会できる機会は二度とないかもしれない。しかもチームが勝ち、ステフがMVPになって終われるなんて最高だよ」