後半わずか26失点の堅守で三遠相手に逆転勝利
2月5日、天皇杯の準決勝が行われ、琉球ゴールデンキングスが三遠ネオフェニックス相手に80-67で勝利し、3年連続となる決勝進出を決めた。
琉球は出だしから、一番の肝であるリバウンド争いを制することで優位に立ち13-4と先手を取る。しかし、セカンドユニットによるターンオーバーなどからリズムを崩し、三遠の強度の高いディフェンスに苦しみ逆転を許すと、ここまでBリーグで30勝4敗と圧倒的な強さを見せる三遠に自力の違いを見せつけられる。
一つひとつのプレーの遂行力で三遠が上回り、第3クォーター序盤には37-50と突き放された琉球だったが、ヴィック・ローや岸本隆一のドライブからオフェンスに流動性が出てくる。さらに、沖縄アリーナの圧倒的な大歓声を追い風に流れを引き戻し、22-7のビッグランを繰り出して試合をひっくり返す。これで完全に勢いに乗った琉球は、第4クォーターもわずか10失点とリーグNo.1の爆発力を誇る三遠のオフェンスを後半26点に抑えて大きな勝利をつかんだ。
31得点11リバウンド3アシスト2スティールの大暴れで勝利の立役者となったローは、「第3クォーターで大きなリードを許した時に粘り強さを発揮することができました。そこから試合をコントールして、みんながステップアップして自分たちがどんなチームであるのかを示すことができました」と試合を総括する。
また、桶谷大ヘッドコーチが体調不良で不在という緊急事態にチーム一丸となって、やるべきことを遂行して乗り越えられたと振り返る。「コーチ陣が良い指示を出してくれて、僕は(小野寺)祥太とともにキャプテンとしてチームをまとめることを心がけました。三遠は素晴らしいチームですが、ゲームプラン通りにプレーを遂行することで相手の得意とする3ポイントシュートを抑えることができました」
「正しいプレーを続けることで良い結果が生まれる」
三遠の3ポイントシュートは29本中わずか4本に留まった。ただ、琉球も31本中8本成功と確率は良くなく、チームに勢いを与える看板シューターである岸本は9本中1本成功と沈黙していた。だが、岸本は7アシストが示すように効果的なパスを繰り出してオフェンスを牽引した。
岸本のナイスパスもあって、自身は8本中4本の長距離砲を成功させたローは、「バスケットボール選手として僕たちは常に正しいプレーをしたいです。これはスーパーの店員でも床屋でもどんな職業でも同じことで、仕事において正しい決断を下さないといけないです」と、個人のエゴがない琉球の結束力に自信を見せる。
「時にミスはしてしまいますが、安定した戦いをすることでチームは良くなります。キシ(岸本)がシュートを打てる場面でも僕にパスを出してくれたことで、グットな状況がグレートな状況になりました。彼が僕を信頼してパスをくれて良かった。これが次の試合では逆になり、僕からキシにパスをしてより良い状況を作ることもあると思います。正しいプレーを続けていくことで良い結果が生まれます」
この試合に限らず、今シーズンのローは、加入1年目の昨シーズンに比べて安定感が大きく向上した。昨シーズンは持ち前の熱い性格が空回りしての自滅も少なくなかったが、小野寺とともにキャプテンに就任した今シーズンは冷静さが増し、熱くなった味方を落ち着かせたり、率先してハドルを組んでチームをまとめている。
「昨シーズンのチームは実力があり、個性豊かな選手がたくさんいました。それゆえに、チームとして一つになるのが難しい時もありました。その中でチャンピオンシップに向けてカルチャーを浸透させ、自分たちがどんなチームなのか確立することができました」
昨シーズンの経験は、「選手、一人の男として学びのプロセスでした」とローは振り返る。
「コーチ・ダイ(桶谷大ヘッドコーチ)、他の選手たちの考えを辛抱強く取り入れました。大変な時もありますが、逆境を乗り越えていくことが人生です。今はよりチームとして共通の意識を持ち、同じことにフォーカスできています。昨シーズンのチームで得られた経験に感謝しています。それによってより良い状態で今シーズンを戦うことができています」
3年連続の天皇杯決勝「今回は3度目の正直になる」
精神面で大きな成熟を果たしたローは、闘争心と冷静さを兼備したオールラウンダーのリーダーとして存在感を放っている。プレースタイルやパーソナリティーに違いはあるが、かつて琉球のチームカルチャーの礎を築いたアンソニー・マクヘンリーを思い起こさせる頼もしささえ感じさせる。
その功績から永久欠番となったマクヘンリーは現在、アシスタントコーチとして琉球を支えている。「マックの存在は、今シーズン僕が成長できている大事な要素です」とローはマクヘンリーに絶大な信頼を寄せる。
「彼は素晴らしいコーチ、人間であり、選手でした。彼に質問をすれば素晴らしい回答を出してくれますし、彼が同じような状況でどのようにプレーしてきたかを教えてくれます。気持ちを落ち着かせてくれる人物がベンチにいるのは大きいですし、選手はミスに良い対処をすることで成長できます。マックは困難に直面した時に心を開いて話せる人です」
チーム誕生時からbjリーグ、Bリーグと常にリーグ上位の成績を残している琉球だが、資金力やタレント力で他チームと比べて傑出しているわけではない。それでも勝ち続けているのは確固たるチームカルチャーを確立し、継承してきたからだ。そして今、マクヘンリーからローへと、琉球のチームリーダーに求められるべきことの継承が行われている。
この試合でローが3ポイントシュートを決めた直後に行った、耳に手を寄せて観客の声援をさらに要求するようなパフォーマンスで、沖縄アリーナの熱狂度はさらに増した。今までやっていなかったパフォーマンスだが、「これからどんどんやっていこうかなと思っています」と笑顔を見せる。ちなみにマクヘンリーも現役時代、プレーオフなどの大一番におけるここぞの場面で、瓜二つではないが同じように耳に手をあて、さらなる声援を煽っていたのを思い出した。
琉球にとって、天皇杯ファイナルはこれで3年連続の出場となる。過去2回はいずれも千葉ジェッツに敗れ、特に昨年は69-117と屈辱の大敗だった。ローは「僕たちには証明すべきことが多いです。今回は3度目の正直、3回連続でミスはできません。決勝は僕たちにとって大きな意味がある特別な試合です」と強い思いを語る。
今年、天皇杯は節目の100回目となる。この記念すべき大会で、琉球はチームだけでなく、沖縄県にとって初の栄冠を目指す。そのためには、琉球のチームカルチャーの新たな担い手であるローの活躍が欠かせない。