藤岡麻菜美

吉田の後継者として、一番手のポイントガードを目指す

「腰はもう全然痛くないので、大丈夫です」と、藤岡麻菜美らしい屈託のない笑顔が飛び出す。一昨シーズンを棒に振った骨盤のケガは厄介なもので、なかなか治らないもどかしい時期が続いた。復帰した昨シーズンは吉田亜沙美の後継者としてJX-ENEOSサンフラワーズの先発ポイントガードを務めたが、ベンチにいる吉田を意識するあまり自分らしいプレーを見失う苦しさも経験した。

吉田が現役引退を決めたことで日本代表における藤岡への存在感は増す。同時にプレッシャーも増すが、ケガなくバスケットに集中できる喜びを今の藤岡は知っている。

「痛くなかったら、もう怖いものなしですね」と声を掛けると「本当にそうです。あとはやるだけなんで」と答える。藤岡は心身ともに充実して日本代表の始動を迎えた。

これまで、リーグが終わると1週間程度のオフを経てすぐに代表活動が始まっていたが、今回は1カ月ほどのオフがあった。「初めて1カ月ぐらい空く貴重な期間だったので、昨シーズンのこともあったし、もう一回忘れようと思って(笑)。だから最初の2週間は全く動かないで本当に好きなことをやって、好きなものを食べてリフレッシュして、そこからちょっとずつトレーニングを始めて一時合宿に備えた感じです」

藤岡麻菜美

「ドライブする時のパワーを生かしてスタートに」

2016年にJX-ENEOSに加入した時点で、藤岡は「東京オリンピックに一番手のポイントガードとして出場する」という目標を公言していた。JX-ENEOSを選んだのも、日本最高のポイントカードである吉田を最も近くで見て学ぶため。吉田に追い付き、2020年までに追い越すシナリオだったが『師匠』の吉田は今春限りで現役引退を選択した。

「流さん(吉田のコートネーム)は十何年も代表を引っ張ってきたポイントガードなので、その穴をすぐに埋めるのは正直難しいです。でも自分が流さんの後を継ぎたいと思っているし、そうじゃないとダメだと思っています。そこは強く自分の意識を持って、また流さんとは違った形で自分らしく引っ張っていけたらいいと思います。流さんは言葉が少ないけど背中で語る感じの方ですけど、自分はプレーでも示すのにプラスして声を出して、積極的にいろんな人とコミュニケーションを取って、練習でも声を出して引っ張っていけたらいいと思います」

もっとも、絶対的な存在だった吉田が抜けたことで、町田瑠唯も本橋菜子も先発ポイントガードの座を狙っている。「ドライブから得点も取れるし、キックアウトのパスをしてチャンスメークするのが自分の持ち味だと思います。あとはドライブする時のパワーは他のポイントガードよりもあると思うので、そこを生かしてスタートのメンバーに入りたい」

「スピードが一番の持ち味。特にポイントガードは1番から5番の中でも一番スピーディーに動かなきゃいけないポジションなので、そこは意識してフルコートでペースを作っていきたい」と藤岡は言う。日本代表はサイズよりもスピードと連携を重視するスモールバスケットを追求しており、指揮官トム・ホーバスも「世界でベストのパッシングチーム」と胸を張る。そのスタイルの中心にいるべきだという自負が藤岡を突き動かしている。

藤岡麻菜美

「選手で雰囲気作りをするのが今の個人的な目標です」

25歳の藤岡は、26名の代表候補のちょうど真ん中の年齢となる。学生の頃からずっとリーダーシップを取ってきた藤岡も、JX-ENEOSに加入して代表でも新人でしばらく大人しくしていたが、今回からは「自分が引っ張っていく」という強い意志を示している。

「去年のワールドカップが終わった時点から、悔しすぎて今年の話をしていました。プレーでは戦えなかったわけじゃなかったから、結局はチームになってなかったよ、と。今年は最初のこういう合宿から遠慮なく言っていかなきゃダメだね、という話はしました」

去年のチームでもリーダーシップを取ろうと考えていたが、ケガでずっと別メニューでワールドカップ開幕にギリギリ間に合わせた立場であり、言いにくい部分があった。「リツさん(髙田真希)だけに頼らず、一番人数が多い自分たちの世代が率先して厳しい声ももっと出していかないといけない。トムさんに言われる前に選手で雰囲気作りをするのが今の個人的な目標です。チームをちょっとずつ変えていけたらいいなと思っています」

吉田の影に苦しめられることはないのだろうか? 「考えたって仕方ないし、流さんの後継者になりたいってことは、今の状況をもともと望んでいたわけなので。そこは自分らしく頑張るつもりです。リーダーシップを取ることでプレーにも良い影響がある、自分はそういうタイプだと思っています。流さんの引退で、本当にやらなきゃいけない。それをプラスに変えたいです」

前回のアジアカップでは無我夢中でプレーして大会ベスト5となった。それから厳しい経験も経て一回り大きくなった藤岡麻菜美が、日本代表の中心になろうとしている。