菅原暉

「プレシーズンやオフの練習を経て手応えがあった」

「特に楽しみなシーズンです」

今シーズンが始まる前にインタビューした際、群馬クレインサンダーズの菅原暉は新しいシーズンを心待ちにしていた。積極補強で戦力を上げたチームへの期待と同時に、菅原自身の躍進を期する言葉であることが表情からも分かった。

菅原は筑波大4年時に特別指定選手として当時B2だった群馬に加入。この時は出場がなかったものの、卒業後の2021-22シーズンにプロキャリアをスタートさせた。群馬がB1に昇格してホームタウンを移転したタイミングで加入した彼は、チームの成長の歴史とともにキャリアを歩んできたと言える。

大学時代までは世代を代表する選手だったが、プロキャリアでは2番手のガードを務めることが多くなった。ルーキーシーズンには五十嵐圭、その翌シーズンからは並里成とベテランとプレータイムを争い、昨シーズンはコー・フリッピンの加入で出場時間を減らした。さらに今シーズンは藤井祐眞の加入で、菅原個人には一段と勝負のシーズンとなった。

『ゲームチェンジャー』。これが菅原に与えれた役割だ。「流れが良かったらもっと勢いを持たせたり、流れが悪かったらそれを断ち切って良い方向に持っていくのが自分の役割です」と菅原自身が認識しているように、キャリアにおいて常に求められてきた役割だ。

先発に百戦錬磨のプレーヤーが名を連ねる中、セカンドユニットの強化がチーム力の底上げになることは間違いない。「それを全うできれば安定したチームになります」そう意気込んで臨んだ2024-25シーズンだった。

「短い出場時間で結果を残さなければならない」と菅原が言う通り、明確な役割を与えられていても出場時間を伸ばすのは簡単ではない。開幕節の広島ドラゴンフライズ戦は2試合とも5分程度の出場にとどまった。「プレシーズンやオフの間の練習を経て、自分としては手応えがあったんですけど……。このタレントがいる中でプレータイムを勝ち取るのは改めて大変だと感じていました」

チームは連勝しても個人としては悔しい思いも抱いた開幕節を経て迎えた京都ハンナリーズとの第2節。その第2戦、ゴールを狙って飛び込んだところで体勢を崩し右腕から落下。苦痛に顔を歪めて担架で運び出される姿はショッキングだった。

右肘関節内側側副靭帯損傷。全治3カ月。シーズンの約半分を棒に振る負傷は、勝負をかけた菅原にとってあまりに大きなケガだった。

菅原暉

「今年は本当に気持ちが入っていたから悔しかった」

「やろう! という気持ちが出すぎていました。あの試合は早い時間で出番が来て、気持ちが先走るみたいな感じで。良いプレーをしたい気持ちと自分の身体に差があったからケガをしたと思っています」

アピールをしなければいけない焦りがあったとは思わないが、いつもの冷静な自分ではなかった。それがあのアクシデントに繋がったと客観視している。

「悔しかったですよ。今年は本当に気持ちが入っていたし、良いプレーを見せたいと毎回練習にも臨んでいたので。それが途絶えてしまったことが一番悔しかったですね」

チームはその間も快進撃を続ける。上位チームにも勝利して連勝を重ねた結果、菅原が復帰する前の第16節終了時点で20勝8敗の東地区2位。自分がいなくとも好調なチームを、菅原はコートの外から「素直にうれしかったですね」と見守っていた。

それと同時にコートに戻りたいという気持ちは募った。「早く復帰したかったですが、今回は逆に焦ったらダメだなと思っていて。今までシーズン中に外からチームをしっかり見ることがなかったので、そういう時間も必要だと思いました」

菅原の復帰戦は年明けの1月3日、天皇杯クォーターファイナルの三遠ネオフェニックス戦となった。一進一退の攻防が繰り広げられていた第1クォーター残り3分、奇しくもケガをしたあの京都戦と同じシチュエーションでのコートインとなった。

菅原に与えられた役割はこの時も『ゲームチェンジャー』だった。結果的に攻守それぞれ2ポゼッションずつの1分15秒の出場となったが、無事にコートに戻れたことに本人もファンも安堵した。

菅原暉

「すごく応援されている。恩返ししたいのが一番」

ホームでの復帰戦は1月26日の横浜ビー・コルセアーズ戦。菅原がコートに登場すると「待ってました!」と言わんばかりの大歓声がアリーナに響き渡った。試合後のインタビューではホーム復帰戦の余韻など感じさせず、「自分の役割をやっていくだけです」と自分の置かれている状況を冷静に見ていた。

カイル・ミリングヘッドコーチが今後どのような起用方法をするかは現段階では分からない。しかし、シーズンの前半戦は多くの選手を試して最適解を模索し、後半戦は指揮官が起用する選手を絞ることは、どこのチームにもよくあることだ。前半戦で試合に出られなかったことは大きなマイナスで、菅原もそれは理解している。

「これだけのメンバーがいる中で、長期離脱から戻ってローテーションに入るのは難しいことだと分かっていますが、あきらめることはありません。ケガを言い訳にするのは嫌だし、いつチャンスが来るか、この後どういうシチュエーションになるかも分からないので、常に準備してチームが勝つためにやっていきたいです」

さらに前を向く力強い言葉が続く。「自分のプレーにも自信を持っているので、コートに出てプレーしたいです。レベルの高い中で競争できているので、こういう経験を無駄にせずにやりきるだけですね」

最後に、ケガで長期離脱したことであらためて気付かされたことがあった。「すごく応援されていると感じました。コートで恩返ししたいのが一番ですね」

前半戦は思い描いたものとは程遠かったが、シーズンまだ半分残っている。優勝を目指すチームにおいて、『ゲームチェンジャー』の働きは間違いなくプラスとなる。菅原のチームメートやファンへの恩返しが始まった。