強引に攻めることで相手を引き付けてのアシストが機能
ピストンズは22得点17アシスト10リバウンドと、今シーズン7回目のトリプル・ダブルを記録したケイド・カニングハムの活躍でラプターズに勝利し、直近11試合で9勝を挙げ、20勝19敗と勝率5割を超えてきました。この16年間でシーズン成績を5割を超えたのはわずか1シーズンしかなく、この5年間はプレーオフ争いに絡むことのなかったチームが劇的な変化を遂げています。
2021年のNBAドラフト全体1位指名を受けたカニングハムは、オールラウンドな能力と何よりもインテリジェンスを買われ、ルーキーシーズンからチームを引っ張ってきました。しかし、わずか4シーズンで3人のヘッドコーチの下でプレーするなど、一貫性のないチーム作りの中では確たる結果を残せませんでした。類い稀なゲームメーク能力を持つカニングハムを中心に、どのようにして勝てるチームを作るのかがピストンズの課題でした。
ジェイデン・アイビー、アサー・トンプソン、ロナルド・ホランドとカニングハム以降に上位で指名した選手たちは、高い身体能力を備えていてもシューティングに課題がありました。カニングハムがチャンスを作っても、決めるべき選手がフィニッシュ精度を欠くことで得点を積み上げることができず、加えてカニングハム本人もフィニッシュ精度には課題のあるポイントガードだけに、これまでのピストンズはチャンスは作れても相手にとっては怖さのないオフェンスになっていました。
それが今シーズンは開幕からカニングハムがタッチ数、ボールの保持時間、ドライブ数のすべてを昨シーズンより増やし、課題だったシューティングも3ポイントシュート成功率37.8%と改善。自分で得点を奪いに行くプレーを増やしました。
それだけで勝てるようになるほど甘い世界ではありませんが、強引にでもフィニッシュに行くことで相手ディフェンスを引き付け、そこからチームメートに展開する形を押し出していくようになりました。
カニングハムのアシストを受けて今シーズン補強したマリーク・ビーズリーとティム・ハーダウェイJr.のベテラン陣がハマり始めたことで、ピストンズは波に乗り始めます。2人は爆発力のあるシューターですが、『爆発力』は言い換えれば『安定感がない』ということでもあり、使い方の難しい選手でもあります。しかし、2人ともカニングハムのパスからの3ポイントシュート成功率が40%を超えており、安定した得点源になっています。
カニングハムの特殊性はチームメートのプレーをも変えてしまうところにあります。アシストにおいても、単にフリーのチームメートを見つけてパスを出すのではなく、自身の動きでディフェンダーを動かし、そこでできたスペースにチームメートを誘導するタイミングでパスを出してきます。開幕当初はチームメートがカニングハムの意図を理解せず、足を止めてパスを待っているシーンが多かったものの、最近はスムーズな連携が見られるようになってきました。
カニングハムは今シーズンここまで4.4とターンオーバーの多い選手ですが、トラベリングやオフェンスファウルといったバイオレーションの割合は少なく、チームメートと呼吸が合わずにパスが通らなかったり奪われるケースがほとんど。カニングハムの要求が高いからこそ生まれるターンオーバーであり、その要求にチームメートが応えるようになるにつれて、ピストンズは見事なボールムーブから得点を奪うようになってきました。
ジェイデン・アイビーが長期離脱したことで、カニングハムがベンチに下がれば一気にオフェンスが停滞してしまう弱点は色濃く残っています。そんな状況でも勝率5割を超えたことは若いチームにとって大きな自信となっているはず。シーズンも折り返しを迎えた中で好調さを維持できれば、6年ぶりのプレーオフ進出が見えてきます。