林龍幸

美濃加茂は昨年のインターハイで1回戦敗退の屈辱を味わったが、冬に向けて大きく成長し、ウインターカップではベスト8進出を果たした。そして今年、インターハイでは冬に敗れた福岡大学附属大濠を破って決勝へと進出。チーム史上初の全国ベスト8、そして準優勝と急成長するチームは、留学生のエブナ・フェイバーを含む主力の多くが3年生の『勝負の年』の集大成となるウインターカップを迎える。就任34年目の林龍幸ヘッドコーチに、その意気込みを聞いた。

「注目されていると感じますがピンと来ていない」

──インターハイの準優勝で、周囲からの見方も変わったのではありませんか。

いろんな人たちに見ていただいていると実感する1年になっています。結果が出たことで注目されていますが、良い時も悪い時もある中での『たまたま』です。やっていることは今までとあまり変わっていないのが正直なところなので、注目されていると感じますがピンと来ていないのが正直なところです。

──インターハイの決勝進出は岐阜勢として初で、これまでの記録は林コーチが現役でプレーしていた当時の岐阜農林の3位だったと聞きました。

そうなんです(笑)。岐阜市で生まれ育って中学からバスケを始めて、たまたま私が活躍していた試合を岐阜農林のコーチだった荒井強平先生が見られていて、お声掛けをいただいて、岐阜農林に行きました。高校2年生の石川インターハイで、選抜がその時は3月だったのですが、そこで3位になっています。

──大阪体育大を卒業して岐阜県に戻ったのは、岐阜県で勝ちたいという思いがあったからでしょうか。

一人っ子だったので、岐阜に戻るしか術がありませんでした(笑)。昔は「母校に勝ちたい」という思いを持ってやっていました。創部5年ぐらいで東海大会には行けましたが、全国大会に行くまでにそれから10年ぐらいかかりました。そこからは1回戦や2回戦では勝ててもベスト8は難しかったです。そうして岐阜県で他のチームが留学生を取ったので、「ウチも取ろう」となりました。今のフェイバーが3人目の留学生です。

──岐阜県では高山西が最初に留学生を取って、今は富田にも留学生がいますし、留学生プレーヤーが岐阜県のレベルを一気に押し上げた感があります。留学生を受け入れた当初は苦労もあったのではありませんか。

そうですね。アフリカから来た留学生は右も左も分からないし、私も最初の頃は「国を離れて日本に来てくれた」という思いもあって優しく接していました。最近ようやく自分たちのペースに留学生を含めて持っていけた感があります。

──前田将秀アシスタントコーチは教え子ですね。

順天堂大でキャプテンをやってウチに戻って来ました。私のスタイルを分かっていますし、私が選手に厳しく指導した後のフォローも彼なりに考えてやってくれるので、たまに行き過ぎることもあっても、選手が理解してついてきてくれています。私も練習では厳しく指導しますが、選手もそれに対してやり合うような感じでお互いに高めていけたところが今年は大きいんじゃないかと思っています。

美濃加茂_藤田 関

「厳しい練習が次に繋がるきっかけになった」

──今の時代は厳しい練習を課さないチームが多いと思いますが、美濃加茂で厳しい練習というとどんなものがありますか?

去年のインターハイで、エースの北條彪之介が自分中心で大舞台で戦うのが初めてだったので、北陸学院との試合で3本ぐらいゴール下のノーマークを落としているんですね。負けたその日に北海道から帰って来て、基本のゴール下からやるぞと言って、5時間ぐらいひたすらゴール下のシュートをやりました。途中で水を飲んだりはしますが、夏場の暑い時期で、全員がゴール下を決めきるまで終わらない。下級生にはプレッシャーが掛かってきますよね。ただ、そういう厳しい練習が次に繋がるきっかけになったと思っています。

──そうやってチームのベースを高めてきて、去年の冬、今年の夏と結果を出せている理由は何だと思いますか。

正直なところ、「去年のチームと今年のチームで何が違うのか」と言われても、去年は下級生が多く出ていたぐらいです。選手たちに吸収力があり、私が指導する内容だけでなく彼ら自身がいろいろ考えて努力をしてきて、その結果としてチームが激変したのだと思っています。

──留学生のフェイバー選手はもちろん、深見響敏選手や後藤宙選手も去年からプレーしていました。インターハイで結果を出し、U18日清食品トップリーグも含めた経験で、かなり自信も持てたと思いますが、彼らの成長ぶりをどう見ていますか?

ガードの深見は1年生の時に岐阜県の国体チームのトライアウトで落ちています。それが3年生になった今は、あれだけいろんなプレーができて、発言もしっかりできる選手になりました。藤田(大輝)も去年はウインターカップの県予選でスタメンで使いましたが何もできず、ウインターカップではプレータイムもほとんどなくて悔しい思いをした選手です。関(健朗)は2年生の東海新人からスタメンで起用しましたが、シュート以外のディフェンスやパスはあまりできませんでした。今年に入って藤田と関をキャプテンにしたことで、その2人がグッと成長してくれました。

──美濃加茂の試合を見ていると、強度の高いディフェンスからブレイクを出したかと思えば、ハーフコートでしっかりスペースを使って効率良く得点を重ねたり、いろんなスタイルを使い分けるのが印象的です。一番理想とするバスケはどんなものですか?

トップリーグでいろんなチームを見ていると、ピックを使って2人でディフェンスを崩してキャッチ&シュートに持っていくオフェンスが多くのチームで行われています。ですがウチにはそこまでのスキルがある選手がいなくて、パスで崩しながら表と裏を意識していく。相手のディフェンスがハードであらば裏が生まれてくるのでそこを突く。そういうことを口酸っぱくして言ってきましたし、練習でもやってきて、今年はそこが花開いたのかなと思います。

特にトップリーグでは、勝った試合ではみんな15得点から20得点を取っています。フェイバーの得点だけが伸びるような試合では勝てません。アンバランスなスコアになってしまうとウチは苦しいですね。

トップリーグは同じような力関係の中でゲームをして、プレーを読まれたりすると、そこの良さが消えてしまいます。最後の福岡第一との試合では一気に10点ぐらい離される場面が2回ほどあって、点差が10点を超えると私も慌ててタイムアウトを取るのですが、それまではタイムアウトがなくても選手が修正することができました。そこはチームの大きな成長だと思います。

林龍幸

「多くを吸収することがチームを強くする」

──瀬川琉久や渡邉伶音のようなスーパースターはいなくても、東山や大濠と渡り合える。そのチームの完成度はどうやって培ったのでしょうか。

先ほど吸収力と言いましたが、特に今のスタメンの選手たちは私に厳しいことを言われても、素直に聞き入れてプレーに反映しようとする姿勢があります。高校生らしいと言えば高校生らしいですよね。留学生も私にキツく言われて、思うところはあるのかもしれませんが、他のみんなを見て「自分も話を聞かなきゃ」と思ってくれる。私は昭和の人間なので、その『昭和っぽさ』が今の時代に逆に良いのかもしれません(笑)。

──インターハイでは準優勝、トップリーグでも準優勝。この結果をどう受け止めますか。

インターハイは、本当によく決勝までたどり着いたと思っています。東山の大澤徹也コーチは「私も何度も決勝にチャレンジして、ようやくです」と言っていましたが、私自身も決勝の舞台は初めてでしたから。決勝まで行くこと自体がそんなに簡単ではありませんし、1位と2位の差がこれだけ大きいことも分かりました。

トップリーグはいろんな選手を起用してチャレンジさせたい意図もありました。そういう選手を1人か2人入れても、他の3人が頼られて2人は萎縮したままだったりもしたので、5人同時に代えるだとか、いろいろやってみましたが、やっぱり最終的には自信を持ってコートに立てないとあのレべルでは厳しいと感じたし、それは選手にも伝えました。

そういう中で最後の福岡第一戦では延長になり、フェイバーが退場してアブドラ・ムハマドを使い、関も足をつってしまって2年生の鈴木陸音を入れて、その2人で6点取ったのは今までにない感じでしたね。それがウインターカップでどうなっていくかは楽しみです。

──そのウインターカップの開幕が近付いてきました。

選手たちは「日本一になりたい」とずっと言っていますから、そこを目指していきますが、私としては目の前の試合でベストゲームができるように、コンディションも重視しながら戦っていきたいです。インターハイでも大濠を除けばみんな留学生のいるチームが相手で、今回もそんな感じになったので、いずれにしても厳しい戦いになると思っています。

──ウインターカップでは、美濃加茂のどんな強みを出していきたいですか。

ウチはスカウティングしづらいチームです。「この選手を止めれば何とかなる」とか「ここは捨てても大丈夫」というチームではないので、そこは安心材料だと思います。

本当に長い時間をかけてここまで来て、最近は若い指導者から「どうやっているんですか?」と質問されることも増えたのですが、結局はいろんなところで出会いがあって、いろんなものを信じてここまでやって来ました。若い指導者の人たちも自分の信念を持って、いろんなところに行っていろんな人と出会って多くを吸収することが大事だし、それがチームを強くすると思います。

たまたま上手くいって騒がれて、それは正直すごくうれしいんですが(笑)、それでまたいろんなチームと巡り合うことで、さらに良い方向に進めると思っています。多くのチームが互いに頑張る姿を見せて、それぞれに刺激を与えることが一番良いことですね。