起用法にかかわらず「ダーディーワークが自分の仕事」
前身のトヨタ自動車アルバルクから、JBL、NBL時代を経て7シーズン目を迎えた伊藤大司。チームがアルバルク東京と名前を変えたBリーグ初年度は、ディアンテ・ギャレットに続く第2ポイントガードとして、投入される時点での試合局面に応じた多彩なプレーでチームを支えている。この点は伊藤拓摩ヘッドコーチが兄ということで、バスケットボール観が理解できている利点を最大限に生かしてきた。
『元NBA』の肩書で加入したディアンテ・ギャレットは、実力と華やかさを備えたプレーヤー。リーグには『元NBA』は少なくないが、ガードはギャレットただ一人。リーグの看板選手であるギャレットの実力と華やかさを存分に活用するチームにあって、必要なバランスを取る役割を伊藤は続けてきた。
だが先週末の大阪エヴェッサとの連戦を前に、そのギャレットが手首を痛めて欠場することに。こうして伊藤にBリーグで初の先発出場のチャンスが回って来た。
「今シーズン初めて、久しぶりのスタートということで、正直なところ気持ちはたかぶっていました」と伊藤は明かす。「でも、先発でもベンチスタートでもやることは一緒、ディフェンスでプレッシャーをかけて、ダーディーワークをするのが自分の仕事です」
結果は2連勝。ギャレットの欠場だけでなく、ジェフ・エアーズとトレント・プレイステッドもチーム合流からまだ日が浅いため苦戦も予想されたが、しっかりと白星を2つ重ねた。
3月11日に大阪との第2戦、最も重要な試合開始直後に伊藤は8-0のランを決めた。「チームは」ではなく「伊藤は」が正しい。最初のポゼッション、エアーズとのピック&ロールからフリーになると迷わずミドルジャンパーを沈めて先制点を奪い、続いて左サイドに流れてフリーでの3ポイントシュートを決め、そしてエアーズとのピック&ロールからまたも3ポイントシュートを沈めての、ティップオフから一挙8得点だ。
「アグレッシブに行こう、エナジーを出そうという話をして試合に臨みました。相手のディフェンスがヘルプに行ったり、チームメートがディフェンスを寄せて僕にパスをしてくれたので、ワイドオープンで打つことができました。いつでも打つ準備はしていました」と、伊藤はチーム全員で生み出したチャンスであることを強調する。しかし、開始2分あまりで8-0、出だしが重かったという第1戦の課題をあっさり解消する大仕事だった。
「時間とともに試合数を重ねることでできること」
その後、大阪が自身への警戒を強めると無理にシュートを狙うことはせず、チームを操るプレーへとシフト。ギャレット不在を感じさせない試合展開を実現させた時点で伊藤の『勝利』と言っていいだろう。
Bリーグでの初先発、『リーグの顔』となったギャレットの代役としての出場……。プレッシャーがあってもおかしくはないところだが、伊藤は「プレッシャーはないです」と断言する。「負けるのは嫌ですが、ディアンテ抜きで負けたから世界が終わるわけじゃないので。僕もみんなも、プレッシャーは感じていませんでした。むしろディアンテがいなくて得点力が下がった分、誰がステップアップするのか。それをみんなで考えました。各自が得点の面でもディフェンスでもやるべきことをやった結果として、この勝ちにつながったと思います」
結果として、ギャレット不在による得点力の低下は、立ち上がりの伊藤の得点ラッシュで補うことができた。そして、決して成熟度が高いとは言えないチームを導く司令塔としての役割も十分に果たした。ギャレット不在は、エアーズとプレイステッドのプレータイムの増加を招いたが、2人ともチームのメカニズムの中でスムーズにプレーできていた。
新たな外国籍選手とうまくプレーするためにはコミュニケーションが大事だと伊藤は言う。「トレントとジェフが入って、彼らが日本のバスケをどれだけ知っているか分からないし、僕らも彼らのことをもっと知らなきゃいけないし。チームの共通認識はみんなでシェアして同じ方向を向かなきゃならないので、そのコミュニケーションはちゃんと取ろうと思っています」
ただ、チームはまだ発展途上の段階にある。「意識はできていますが、オフェンスでもディフェンスでも完成度はまだまだ。お互いがアジャストして100%に近付きたいんですけど、それは時間とともに試合数を重ねることでできることなので。お互いがどう思っているかを話し合って、一刻も早く100%に近付けたいです」
「コミュニケーションという点で成長したと思います」
シーズン佳境のこの時期に、外国籍選手2人を入れ替えるのは『非常事態』だ。ただ、プレーオフまでに必要なレベルまでチーム力を高めることに、伊藤は自信を持っている。「この2試合でも変わりましたから。特にディフェンス面では、スイッチするのか、どこまでヘルプに行くのか、それは昨日と今日を比べても向上していました。この場面ではこの選手、この場面ではこのプレーというのが、この2試合でもコミュニケーションから生まれるプレーがあって、コミュニケーションという点で成長したと思います」
個人としてもチームとしても「会心の出来」と言っていい第2戦の勝利(75-58)だったが、課題がなかったわけではない。「第3クォーター初めの5分ですね。オフェンスでパスが回らなかったりターンオーバーが続いたんですけど、僕はディフェンスが良くなかったと思います。気を抜いて簡単なレイアップを打たれたり、相手を見失ったり、オフェンスリバウンドでやられたり、というケースがあったので」
点差を縮められたが大事には至らなかった。それでも、この部分にフォーカスすることで今後に向けたアジャストが可能となる。伊藤は言う。「第3クォーターの始めって本当に大事な時間帯なんです。今日は18点差付いてて、そこで30点までリードを広げられるか、1桁差に縮められるかでだいぶ違うので。そこで広げられたらもっと良かったと思います」
ただ、先発を務めた2試合を通じての印象は「良い勝ち方ができたと思います」と、しっかりと手応えをつかんでいる。
今週末はアウェー、青学記念館での『渋谷ダービー』。この試合もギャレットは欠場の予定だ。菊地祥平が右足のハムストリングを痛めて離脱するニュースが入って来たが、東地区首位を争う上でも、チームにできた良い流れを途切れさせないためにも、伊藤のプレーに期待がかかる。