バスケットボール指導者、恩塚亨のコーチング哲学「何のためにコーチをするのか」

2019/04/05
プレーヤー
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恩塚亨

文=鈴木健一郎、写真=古後登志夫
新学期が始まり、新たな環境でバスケットボールに取り組む者は数多くいることだろう。同じようにバスケットボールの指導を始める人も多いはず。「少年よ大志を抱け」ではないが、そんな新米指導者は何を目標に日々のコーチングに取り組めばいいのか。ここでは技術論ではなく心の持ち方を恩塚亨コーチに語ってもらった。
自身が率いる東京医療保健大ではインカレ連覇を果たし、アシスタントコーチを務める女子日本代表はアジアの強豪へとステップアップして東京オリンピックを見据えている。そんな恩塚コーチも最初は経験も実績もなかった。それでも、指導する上で大切にすることがブレることはなかった。彼のやり方は、すべての若い指導者の参考になるはずだ。

「何のためにやるのか」がなければ、仕事は作業でしかない

私は大学を卒業したらコーチになりたいとずっと思っていました。高校生の時点でプレーヤーをやっている時から、将来もバスケットにかかわりたいと思っていて、そこで悩むことはありませんでした。バスケットのコーチになりたいわけじゃないのに、思いもよらない形でコーチになるケースもあると思いますが、「何のためにコーチをするのか」をちゃんと考えないと、コーチも選手もお互いに不幸になります。

これはどの仕事でも一緒です。髪を切る、料理を作る。いろんな仕事をしている人がいますが、例えば髪を切ることは単なる作業です。でも仕事というのは、「自分の思うような髪型にしてもらった」とか「この人にカットしてもらって良かった」と喜んでもらうこと、「またお願いしますね」と言ってもらえる関係を作ること。そこまでやって初めて仕事だと私は思っています。

バスケットボールのコーチも同じ気持ちが大事です。だから、やるからには「何のためにやるのか」が必要だし、「自分は何が一番やりたいのか」を考えなければいけません。やっているうちに気付くこともあるんでしょうけど、やる前からその答えは自分の中で探しておかないと、ただの作業になってしまいます。作業には感動しない。だから自分も相手もやり甲斐が生まれないし、感動も生まれない。それでは続かないと思うんです。

プレーヤーとしてはもう続けられないけど、バスケを離れたくないからコーチをやる。それだけの人は指導にかかわるべきではありません。本当は別の仕事がしたいのに、生きていくために仕方なくレストランで働いてる人がいます。もう一方ではお客さんのためを思ってやっているレストランがあります。どっちに行きたいかは明らかですよね。

恩塚亨

指導者には「明確なド真ん中の筋、生き方」が必要

今の子供たちには選ぶ権利がありません。競争の原理がないから、そんな人もコーチとして残れるかもしれません。でも子供たちには、どういう人か選んでコーチングを受けてほしいと思います。どの人の話を聞けば成長できるかを自分自身で聞いて考えて、「この人から学びたい」と選んで生きていくことを教えてあげたいです。コーチが言うことをただ聞くのではなく、このコーチの教えを聞くことで自分の人生が良くなるかどうかを判断できるようになってほしいです。

将来、働く時には、理念を持った人たちと働きたいわけですよね。それと同じで、学校の名前やコーチの肩書きじゃなく、「この人と一緒にやりたい」と思えるようなコーチと人生を分けてやっていくのが大事です。そうやって子供たちが選べるようになれば、間違ったコーチは自然と淘汰されると思います。

チームが強いことが重要かどうかは私には分かりません。そのチーム、そのコーチがどんな理念を持って何に向かっているのか、それに共感できるかが大事です。指導者として一番大事なのは、何のためにコーチをやっているのか。その明確なド真ん中の筋、生き方を持っているかです。

都道府県のイベント、体育協会からオファーをいただくクリニックや講習会にはよく行きます。時間があれば参加するようにしています。私は「人生は出会いが作る」と思っています。実際、いろんな人に出会うことで人生が変わりました。コーチK(マイク・シャシェフスキー、デューク大や男子アメリカ代表で数々のタイトルを獲得した名将)に出会ってハードワークを、ジェイ・ライト(ビラノバ大を率いる名将)に出会ってサムライスピリッツの大事さを学びました。たった一回でもインパクトってあるんです。だから、そういう出会いのきっかけになればと思います。

恩塚亨

暴力暴言根絶へ「意識しないと普段が出るものです」

日本バスケットボール協会は「暴力暴言根絶」を掲げた活動を始めました。私はこの成り立ちにかかわってはいませんが、子供たちに対して傷つけること、暴言はあってはならないことで、それが許されないと明確にするのは良いことです。

試合ではテクニカルファウルになるので、その場では暴言や暴力はなくなるでしょうね。普段の練習までレフェリーが見ているわけではありませんが、意識しないと普段が出るものです。

暴言にしても結局、「何のために言うのか」と考えてしまいます。それを言ってどうなるのか、どうしたいのか。ハードワークしていないプレーヤーに言うのかもしれないし、プレーをちゃんと覚えていない選手に言うのかもしれない。それって「馬鹿野郎!」の言葉で解決できるのか。実際は選手に対して何か変えてほしいことがある。それが伝わっていないのであれば、もっと良い手段があるんじゃないか。怒りがあって、その原因があるのなら、どうやって解決できるかを真剣に考えるべきです。それで暴言はなくなると思うんですけどね。

ただ、「馬鹿野郎!」じゃ伝わらないにしても、ゲーム中の厳しさはあるべきだと思っています。絶対にこれはやらなきゃダメだということを遂行するには、気持ちの強さが必要です。「君ねえ、ボールに飛び付きなさいよ~」なんて言葉じゃ、選手は熱い気持ちになれません。そこでコーチが感情を出すことは否定しないし、むしろ絶対に必要です。それがなければ人の心は動かせないし、コート上で良いパフォーマンスは出せません。そこの線引きは必要です。

恩塚亨

「プレーヤーの夢をかなえるための力になりたい」

私がコーチとしてやりたいのは、プレーヤーの夢をかなえるための力になること。そのために必要な知識やスキルを備えたコーチでありたいと思います。もちろん、ある部分では協力できますが、ある部分ではまだ足りない、ということはあります。課題とか問題点は人それぞれで、結局は適応力が求められるんですけど、そこはもっと身に着けなければいけません。

だからこそ、経験を積んだり新たな出会いを通して学び続けることで、プレーヤーの夢をかなえられるコーチになるんだという強い気持ちを持って日々活動しています。