有望な若手をスターへと育て上げてきたチームの苦悩
ナゲッツはジャマール・マレーとの契約延長の準備を進めている。2016年のNBAドラフトで1巡目7位指名を受けてからナゲッツ一筋で8シーズンを過ごしたマレーは、2年先に加入していたニコラ・ヨキッチとともに成長し、息の合ったコンビネーションで一昨シーズンにNBA優勝を勝ち取った。5年1億5800万ドル(約240億円)の契約は次のシーズンが最終年。今オフ中には4年2億800万ドル(約310億円)のマックス額かそれに近い内容での新契約を結ぶ運びだ。
ナゲッツのカルビン・ブースGMは「今はオリンピックに集中させたい。カナダ代表から戻って来てからになるが、交渉はさほど必要ないだろう」とコメントしている。カナダ代表に参加しているマレー本人は、先週にアメリカ代表とのトレーニングマッチを行った際に契約について質問され、「その時が来れば、そうなるだけのこと。代表でプレーしている今は、契約のことは全く頭にない」と語っている。
生え抜きのスター選手で、優勝に貢献したWエースの一角であり、プレーオフの舞台になると抜群の勝負強さを見せるマレーは、ナゲッツにとってヨキッチに続いて不可欠な存在だ。ただ、このチームの財政的な苦境を考えると、これから波乱が起こる可能性は残されている。
マレーは2020-21シーズン途中に左膝前十字靭帯断裂の大ケガを負い、1年半という長期戦線離脱を経験。2021-22シーズンは全休し、2022-23シーズンにプレーオフで爆発的な得点力を見せて優勝の立役者となったのだが、プレーオフまでは膝の状態を見極めながら、無理をしようとはしなかった。昨シーズンもレギュラーシーズンは出場59試合に留まっている。膝を気にしながら出場する試合でも、勝負どころでの存在感は健在なのだが、どうしても『膝は大丈夫なのか』との疑念は拭えない。
今はどのチームもサラリーキャップの縛りがより厳しくなった新ルールへの対応に苦労しており、ナゲッツも同様だ。昨年オフにはブルース・ブラウンを、今オフにはケンテイビアス・コールドウェル・ポープを引き留めることができなかった。マレーのコンディションに対する不安を埋めてきた有能なロールプレーヤーを相次いで失い、さらに来年にはアーロン・ゴードン、その1年後にはマイケル・ポーターJr.の契約延長も控えている。
ブースGMは「ウチはビッグネームを獲得するわけでなく、ドラフトで有望な若手を見つけてスター選手へと育て上げてきた。それでこれだけ苦しむのは割に合わない」とボヤいた。今のNBAで最高のタレントの一人であるヨキッチが5年2億8000万ドル(約420億円)を得るのは当然として、マックス額の契約更新が2人目、3人目と続くようではサラリーキャップの制限は過酷になる。
ナゲッツが優勝した2年前には「ヨキッチとマレーがいるから、あと3年から5年は優勝争いができる」と見られていたが、そこから2年連続で貴重なユーティリティプレーヤーを失い、それに歯止めをかけられるかが分からない。
ヨキッチのバスケIQとマレーのクラッチ力は継続できても、長年かけて築き上げた連携、チームのバランスの良さはすでに崩れつつある。来シーズンはコールドウェル・ポープに代わり若手のクリスチャン・ブラウンがシューティングガードの先発を務め、彼はそれなりに仕事を果たすだろうが、選手層の薄さがチームの足を引っ張る場面を何度も見ることになるだろう。
ジェイレン・ブランソンがニックスとの契約延長で選択した大幅な譲歩をマレーが受け入れればいいが、大ケガを乗り越えてNBA優勝に貢献し、チーム内ではヨキッチに続く2番手ではあってもプレーオフの勝負どころではヨキッチ以上の爆発力を見せる彼に、フロントから譲歩を迫るわけにはいかない。
マレーはもちろん、ゴードンもポーターJr.も手放したくないのであれば、クリスチャン・ブラウンに続く若手が年に1人のペースでローテーションに加わってほしいところだが、勝っているチームで若手が居場所を勝ち取るのはそう簡単ではないし、時間もかかる。そんな中、トレードで指名順位を上げて1巡目22位で指名したダロン・ホルムズ二世がデビューを待たずして右アキレス腱断裂の重傷を負い、ヨキッチの控えとなる期待は早々に外れることに。ナゲッツは十分な強さを持ち、まだ若いチームでありながら、編成ではかなり難しい局面に向き合っている。