渡邉裕規

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

「熱くなるような展開でも冷静にできないと」

13日の水曜ナイトゲーム、栃木ブレックスは青学記念館でサンロッカーズ渋谷と対戦した。終盤に2点差まで詰め寄られるも、ラスト1分で突き放し、リードを保ったまま83-77で勝利している。SR渋谷の粘りに苦しめられたが、栃木の先発ポイントガードを務める渡邉裕規は「相手の良い時間帯にさせないことはできた」と見なしている。つまり、相手どうこうではなく「僕らのミスだった」ということだ。

「突き放すべきところで突き放せず、最後にモタつきました。もっと自分たちのバスケットができた、もっと楽に行けたはず。相手というよりも自分たちが我慢できなかったと思います」

対戦相手をリスペクトしながらも、終盤のモタつきを『SR渋谷の健闘』で済まさず、自分たちの課題として受け止める。「ミスをゼロにすることはできませんけども、終盤に僕のターンオーバーがあり、良い判断ができなかった」と個人の反省も多い。

「それは毎試合、どことやっても僕は反省が多いんですけど(笑)。勝つことは大前提で、厳しいスケジュールの中で勝ちきれたのは収穫です。試合に負けて反省しても遅くて、今日みたいな内容で負けてしまうと収穫なんてないですから、勝てたことは本当に収穫。試合を通して良かったのは第1クォーターぐらい。それを30分間続けられるか」

渡邉は25分のプレータイムを与えられたが、2点差に詰め寄られた最終クォーター残り1分5秒でベンチに下げられ、勝利の瞬間はベンチから見届けた。最後の勝負どころを任されなかったのは安齋竜三ヘッドコーチによる「熱くなりすぎていたから」という判断によるものだ。

渡邉自身もこの部分の課題をこう語る。「終盤にどんなコールをして、何人がボールを触っていたか。そこもポイントガードとしてちゃんと意識しながら、ウチにはクリエイトできる選手、決めきることのできる選手が多いので、自分でやるところとボールを散らすところを、熱くなるような展開でも冷静にできないといけない」

渡邉裕規

「最後に1点でも勝っていないと過程が報われない」

それでも、『個人ではなくチームで』の姿勢は課題にも言える。個人的に反省すべき点はあったが、チームは連勝を8に伸ばしているし、そこに貢献した自負はある。「僕は出たかったですけど、それはチームの采配だし、僕だけでやっているわけじゃないので。最後のシチュエーションになるまで繋いでいて、それは僕だけじゃなくてベンチのメンバーもそうなんで、声を出すことしかできませんでしたが、最後に1点でも勝っていないと過程が報われません。そういう意味でも勝ちきったことが収穫です」

「2点差に詰められたところも、ジェフ(ギブス)が決めてくれて。弱いチームだとあそこにボールは落ちてこないと思います。ジェフが決めきることもないでしょうし。それがチームとしての勝利だと思っているので、個人的な感情というのはないです」

良いところに目を向ければ、第1クォーターは最高の出来と呼べるものだった。ピック&ロールで作り出したズレを、全員が連動して広げてSR渋谷ディフェンスを切り裂く。最初の10分間でフィールドゴール17本中12本成功(成功率70%)、アシストは10まで伸びた。

狙い通りのチームオフェンスが見せられたことに渡邉も大きな手応えを感じている。「ピック&ロールをやるのも掛けるのも、ポケットパスが入るのもダイブするのも、その先にいるコーナーの選手がスペースを取っていないとシュートが生まれないですし。プレーをしている2人に目が行きますけど、すべては3人、4人と絡んでいるプレーです。ああいうオフェンスには練習で毎日やっていることが出ています」

「ポイントガードとして、その流れを作っている満足感はある?」との問いには「僕はコールしているだけですよ。みんなが上手いんです」との答えが、満面の笑みとともに返ってきた。

渡邉裕規

「やってきたことを忘れずに、自信を持ってやる」

残り3分半、ファストブレイクを浴びたところで鵤誠司がスティールに成功。逆速攻となったチャンスで、ライアン・ロシターからのパスを受けた渡邉は右コーナーからの3ポイントシュートを見事に決め、派手なガッツポーズが飛び出した。結果的に、この後にSR渋谷の猛反撃を浴びたのだが、この時点ではゲームウィナーであることを確信させるド派手な一発。それと同時に、栃木のチームバスケットのクオリティが凝縮されたシーンでもあった。

「その前まで5点差、7点差と苦しいところで、気持ち良かったのもあります。最近あまりガッツポーズしてなかったんですけど。もう一波が来ちゃったので、ちょっと早かったですね」と、苦笑いとともに渡邉はそのシーンを振り返る。「まあ、勝てたことが収穫です(笑)」

栃木は連勝を伸ばしているが、全体勝率1位を走る千葉ジェッツも負けず、1ゲーム差で追う展開が続いている。ここは我慢比べで、課題があってもとにかく勝ち続けるしかない。「東で1位になるのが、一番達成しなきゃいけないこと。チャンピオンシップをホームでやるのがどれだけ大きなことか、みんな理解しています。まずは千葉を追いかけること。直接対決もありますが、他の試合を落とすわけにもいかない。千葉をしっかり追いかけることが、今後チャンピオンシップで勝ち進む上でも大事だと思っています」

千葉との我慢比べを制し、その先に待つチャンピオンシップで頂点まで駆け上がるためには何がカギになるのか。渡邉は「やってきたことを落とさないこと」と言い切った。「オンとオフはやっぱりあって、ずっと集中しろってことじゃないですが、やってきたことを忘れずに、自信を持ってやること。新たに何かやるのではなく、落とさないことだと思っています」