パスカル・シアカム

「何があろうと自分のプレーをするだけ」

ホームでの第6戦を迎えるにあたり、ペイサーズには不利な要素がいくつもあった。敵地で連敗した後にホームで2連勝したが、第5戦はニックスのプレーの強度に手も足も出ず30点差の大敗。そしてハードワークを前面に押し出すニックスは疲労困憊だったが、第6戦を前にこのシリーズで唯一となる『中2日』のスケジュールの余裕があった。疲労が抜けた状態で戦えば、ニックスが明らかに有利だというのが大方の見方だった。

しかし、負ければ終わりのペイサーズも入念な準備を整えて第6戦を迎えていた。まずは前回の敗因となったリバウンドの不利を覆すべく、マイルズ・ターナーがアイザイア・ハーテンシュタイン相手に奮闘。3ポイントシュートを狙ってハーテンシュタインをアウトサイドに引き出しては瞬発力の差でリバウンドを確保した。前の試合からニックスはインサイドを1枚減らしてガードのマイルズ・マクブライドを先発させてジェイレン・ブランソンの負担を軽減させている。その分、リバウンドが弱くなるところを第5戦では突けなかったが、この試合では主にターナーが、そして他の選手もリバウンドに行く意欲を強く出し、チームで47-35と上回った。

リバウンドを押さえればペイサーズ得意の走る展開に持ち込める。第1クォーターは29-30と点差が離れなかったが、ペイサーズは13本のフィールドゴール成功のうち10にアシストが付き、全員がよく走り、ボールを動かすダイナミックなバスケができていた。同点だった第2クォーター残り6分から14-2のラン。この時間帯はターナーがオフェンスでもハッスルし、3ポイントシュート1本成功を含む7得点を短い時間に集中させて、試合の主導権を一気に引き寄せた。

タイリース・ハリバートンは15得点と自分でシュートを決める場面はさほど多くなかったが、9アシストを記録。ペイサーズの高速バスケの『演出家』として、レギュラーシーズン前半のような目覚ましい活躍を見せた。「前回と今回を比較して何が違うかと言えばリバウンドだ」とハリバートンは言う。「今回はマイルスが頑張ってくれた。でも彼に問題があったわけじゃなく、周囲の僕らに問題があった。僕らがサポートする姿勢を出せば、彼も思い切ってリバウンドに競りに行ける」

そして、ペイサーズの高速バスケが機能した上で、それをより危険で魅力的にしたのがパスカル・シアカムのプレーだ。全員が正しいレーンを疾走し、流れるようなパスワークでチャンスを作るのがペイサーズのオフェンスだが、相手はそれを防ぎに来る。スペースを消されて手詰まりになった時に個人技で打開する『エースムーブ』を求められてシアカムは移籍して来た。これまで彼はチームオフェンスに馴染もうと努力し、ペイサーズで重要視される攻めの流れのメカニズムに加わろうとすることで、強気にリムを攻める姿勢が削がれていた。

だが負ければシーズン終了の大一番で、シアカムは強気で攻める姿勢を取り戻した。チーム全体でイージーシュートのチャンスが多かった中で、21本中11本成功だった彼のフィールドゴールのいくつかは、チームが良い攻撃を作り出せずに、あるいはショットクロックが残っていない状況で託されたタフショットで、それでも彼は強気で攻め続けて結果を残した。

ハリバートンは言う。「パスカルの落ち着きは、プレーオフで何度もプレーしてきた経験があってこそだ。僕らは物事が上手くいかないと慌ててしまう。次に切り替えるべきところで、何が悪かったかに意識が引っ張られてしまいがちだ。でも、彼はいつもクールで忍耐強くあり続けることで、僕らを良い方向に導いてくれる」

シアカム自身も「今日は良いプレーができたと思う。みんなの期待に応えたかった」と満足そうに語る。「両チームが全力を尽くして激しく戦うんだから様々なことが起きるけど、上手くいかない時こそ団結して、今まで通りのことをやるんだ。僕にしても同じで、正直に言えばどうプレーするかはあまり問題じゃない。何があろうと自分のプレーをするだけ。ゲームプランに集中し、ハードに戦うんだ。ほとんどの場合、そういうチームが勝つものさ」