ダービン・ハム

レブロンは自分の影響力を行使することを躊躇しない

ダービン・ハムの解任は驚きではなかった。優勝を目指すチームがプレーオフのファーストラウンドを突破できなかったのでは、解任も仕方ない。だがそれ以前に、レブロン・ジェームズを始めとする選手たちの信任を失った時点で彼は『デッドマン・ウォーキング』だった。

きっかけはシーズン序盤にあった。昨シーズンはトレードデッドラインで行ったチーム改革が功を奏し、カンファレンスファイナルまで進んだ。ナゲッツには完敗を喫したものの、「このチームを成熟させていけば優勝が狙える」という共通認識を持つことができた。ところが今シーズンになって出だしでつまづくと、ハムはまずオースティン・リーブスをスタメンから外し、続いてディアンジェロ・ラッセルも八村塁もベンチに回した。

トーリアン・プリンスやキャム・レディッシュを先発に据え、攻守のバランスを安定させようとの考えは理解できる。新戦力がどれだけフィットするか試すのも大事だ。しかし、ハムは前述の共通認識を撤回する上で、選手たちの同意を取らなかった。コーチにはチームの意思決定をする権利がある。言わば選手より立場が上となるが、実際はスタープレーヤーの機嫌を損ねては仕事ができない。相手がレブロンとなれば、その影響力はコーチをはるかに上回る。

インシーズン・トーナメントの優勝は多少の気休めになったかもしれないが、効果は長続きしなかった。その後、選手たちとハムの断裂は静かに深まっていく。最終的にレイカーズは、開幕時点の共通認識であるディアンジェロとリーブス、八村、レブロンとアンソニー・デイビスの先発に落ち着くのだが、その組み合わせの成熟にあてるはずだった時間は無駄になった。

こうなった時にレブロンは自分の影響力を行使することを躊躇しない。彼が最初にやったのはSNSに砂時計のアイコンを投稿することだった。それがいつしかタイムアウトでハムが指示したセットを無視するようになり、挙句の果てには自分の望む場面でチャレンジを使わないハムに怒りを爆発させた。

ナゲッツとの第5戦、ジャマール・マレーに勝ち越しのシュートを決められた後、レイカーズにはタイムアウトが残っていなかった。アンソニー・デイビスの要求に従い、2度目のチャレンジをしたことで大事なタイムアウトを使い果たしていたからだ。コート上で戦う選手たちは頭に血が上っており、冷静な判断はできない。デイビスは判定が間違っていると感じ、咄嗟にチャレンジを要求するゼスチャーをしたのだろう。最後のタイムアウトと引き換えにする価値があるのかどうかはハムが判断すべきだったが、彼は何も考えずにスター選手の要求を受け入れた。馬鹿げた最後だが、これで選手が批判されることはなく、コーチが解任されるのがレイカーズという組織の難しさだ。

この試合後、ナゲッツの指揮官マイケル・マローンはハムについて「彼は素晴らしいコーチだ。レイカーズを率いるというのは本当に大変な仕事なのに、気品を持って良い仕事をしている。レイカーズを率いるに相応しい人物だからこそ、彼には留まってほしい」と語った。だがマローンも、そうはならないことを悟っていたのだろう。

ハムは決して無能なコーチではなく、レイカーズに重要なカルチャーを築きつつあった。しかし、スター選手の影響力を軽視するという禁忌を侵した。

今は新たなヘッドコーチ候補の名前が多数浮上している。マイク・ブーデンフォルツァーにタロン・ルー、ジェイソン・キッド、ケニー・アトキンソン、デイビッド・アデルマン、ジャレッド・ダドリーにJJ・レディック……。レイカーズに継続性をもたらすことのできるコーチが、この中にいるのだろうか。いるのだとしたら、レイカーズが見誤らないことを願いたい。