タイリース・マクシー

「このままシーズンが終わってたまるか」

セブンティシクサーズのタイリース・マクシーは、第4クォーター残り1分半にスピードに乗った仕掛けからフローターを沈め、ファウルも誘ってバスケット・カウントを得たものの、このボーナススローを落とした。さらに続くポゼッションでは、攻めのパスではなく味方にボールを預けるだけのパスにもかかわらず痛恨のターンオーバーを犯す。

3勝1敗と先行するニックスが残り1分で93-88とリード。ケリー・ウーブレイJr.が2点を返すも、すぐさまマイルズ・マクブライドが取り返す。ニックスのファンと歴代のOBたち、そしてセレブで埋まったマディソン・スクエア・ガーデンは勝利を確信してお祭り騒ぎとなっていた。

だが、ここからマキシーは驚くべき反撃を見せる。残り25秒でブロックに跳ぶミッチェル・ロビンソンの動きを見極めて、ファウルを誘いつつ放った3ポイントシュートを沈め、今度はボーナススローを決めて4点プレーを成功させると、残り8秒でディープスリーをねじ込み、試合を振り出しに戻した。こうして延長に持ち込んだシクサーズが、オーバータイムの5分間を15-9として、112-106の勝利を収めた。

劇的すぎる逆転勝利となった試合後、この時の心境を問われたマクシーはこう答えている。「僕は基本的には明るい性格だけど、重要なフリースローを3本も外し、ターンオーバーもして、普段はあまり怒らないのに怒り狂っていた。このままシーズンが終わってたまるか、生き残ってホームに帰るんだ、と考えていた」

マクシーは延長を含めて52分とほぼフル出場で、46得点5リバウンド9アシストを記録。ニックスのペースだった試合展開を強引に変え、シクサーズを生き残らせた。

本来、マクシーと同じかそれ以上にチームを引っ張るべきジョエル・エンビードは膝の状態が悪い上に、顔面神経麻痺からくる頭痛で試合当日のシュートアラウンドを欠席。プレータイムをシェアし、常に100%の強度で挑んでくるニックスの2人のセンター、アイザイア・ハーテンシュタインとロビンソンに大苦戦を強いられているが、この試合の第2クォーター序盤に彼を下げた途端に11-2のランを食らっており、不調でも痛みを抱えていてもベンチに戻すわけにはいかなくなった。

第4クォーターまでの48分間でエンビードは43分出場し、11得点14リバウンド9アシストを記録。守備では存在感を見せたが、攻撃ではシュートが入らず、9ものターンオーバーを喫してそのほとんどがニックスのワンマン速攻に繋がる絶不調だった。そしてロビンソンへの危険なファウルによりニックスファンの敵意を集め、ボールを持つたびにブーイングが、ミスをするたびに大歓声が上がり、それも彼のリズムを狂わせた。

ただ、その彼もオーバータイムには勝利への執着心を剥き出しにした。膝が動かず足を引きずっている状況で、エンビードを狙い撃ちにしてくるジェイレン・ブランソンのアタックを止め、攻撃に転じては貴重な4得点を挙げた。4点リードの残り8秒、ブランソンのシュートが落ちるとルーズボールに飛び込んでポゼッションを確保する。こうしてシクサーズは死地を脱した。

エンビードは言う。「ビッグショットに次ぐビッグショットを決めてくれたタイ(マクシー)のおかげだ。最高のプレーをしてくれた。そして他のチームメートの頑張りにも感謝したい」。そして指揮官ニック・ナースは「良い試合ができたとは思わない。ガッツだけだった。でも、我々はそこで頑張った」と語った。

これで2勝3敗。フィラデルフィアに戻っての第6戦に向けてマクシーは「もう二度とあんなプレーはしない」と語り、すでに自分のクラッチショットを忘れて悪いプレーを改善することに意識を向けていた。「何とか生き残って『家』に帰ることができた。次はファンの声援に背中を押してもらって戦うことができる。積極的にプレーして、高みを目指すよ」