ザック・イディー

ゴール下では無敵でも機動力と3ポイントシュートを欠く

男子のNCAAトーナメントは、決勝でパデュー大を破ったコネチカット大が連覇を達成して幕を閉じた。それでもファイナルで最も目立った選手は、パデュー大のザック・イディーだ。ゴール下を支配する圧倒的なパフォーマンスで、ともにゲームハイとなる37得点、10リバウンドを記録している。身長はビクター・ウェンバニャマと同じ223cm、しかし体重はウェンバニャマの95kgよりはるかに重い136kgという重量級センターで、アメリカ大学バスケの年間最優秀選手に2年連続で選ばれて大学バスケの4年のキャリアを終えた。

『大学最強ビッグマン』となれば当然、スター候補生としてNBAに迎え入れられそうなものだが、多くのメディアが2巡目中位から下位での指名を予想している。これは彼のプレースタイルがNBAでは明らかに時代遅れだからだ。圧倒的な高さを持ち、フィジカルで押し勝つことができて、今のNBAでは3ポイントシュートを決める技術や3ポイントシュートを止める機動力が必須の能力となる。中国人の母を持つイディーはヤオ・ミンと比較されることが多いが、『歩く万里の長城』がNBAで活躍していたのは20年前の話だ。

今後のNBAを担うセンター像は、ウェンバニャマやチェット・ホルムグレン、アルペラン・シェングンのように細身でしなやかに動き、ガード並みにボールを扱える選手だ。ブルック・ロペスはバスケスタイルの変化に順応したビッグマンで、キャリア最初の6年で放った3ポイントシュートは合計7本で成功ゼロだったが、今では1試合平均で5本の3ポイントシュートを放つ選手になり、ディフェンスでもペリメーターをカバーする機動力を備えている。それだけの順応力を見せたロペスは例外中の例外で、他の重量級ビッグマンは『のろまな巨人』として脇役へと追いやられている。

イディーの評価が上がらないのも、この『のろまな巨人』だと考えられているからだ。最近ではルカ・ガルザがこのパターンで、アイオワ大では大活躍したがNBAでは苦戦続き。イディーはパデュー大でのプレーからは、NBAでのポジティブな見通しが想像しづらかった。ペース&スペース、ドライブ&キックのどちらにも対応できず、ローポストからの攻めとオフェンスリバウンドでは力を発揮できても、ダブルチームが来た時にパスを出す判断が悪く、スペーシングを妨げ、チームオフェンスを停滞させてしまう。そしてディフェンスでは、3ポイントシュートとミドルジャンパーの餌食になるだろう。機動力を高めるために体重を落とせば持ち味が消えてしまう……。ほとんどのチームがイディーをそう評価する中で、彼の予想指名順位は上がってこない。

その一方でNBAドラフトはそれぞれの思惑を抱えた各クラブが駆け引きする場でもある。PER(プレイヤー・エフィシェンシー・レーティング)ではザイオン・ウイリアムソン以来の数字を記録したイディーは、NBAの次世代スター選手とは見なされなくても、限られた局面で力を発揮する貴重な戦力になれるかもしれない。

NCAAトーナメントの決勝を終えたイディーは進路についての質問に「まだ気持ちがそちらに向かない」と答えをはぐらかした。「僕の評価は様々だろうけど、僕は練習でも試合でもコートに足を踏み入れた時には常に100%の力を出すよう心掛けてきた。それはやりきれたと思う」と語った。

イディーは他の2巡目指名候補よりもずっと多くの関心を寄せられ、これから様々なチームから練習参加の招待を受けると見られる。そこで彼はNBAでの適性を試されることになる。アジリティのドリルをどれだけこなせるか、ピック&ロールのディフェンスでどんな対応ができるか。そこで良い兆候が見られれば、彼の評価は一気に上がる。そして彼は今までそうしてきたように、コートに入れば黙々と自分のベストを尽くすだろう。

センターの人材が薄いと言われる今年のドラフトで、イディーは魅力的とは言わないまでも気になる存在だ。2021年のU19ワールドカップでイディーは、ウェンバニャマ、ホルムグレン、ジェイデン・アイビー、ニコラ・ヨビッチとともにベスト5に選出されている。NBAへの道を歩んだ4人を追いかける形で、イディーはNBAを目指す。