イーメイ・ユドカ

ウォリアーズに阻まれるのはこれが最後?

ロケッツにとってウォリアーズは、自分たちのバスケが形になってきた時に立ちふさがる強大なライバルだ。3年連続得点王のジェームズ・ハーデンを『王様』に据えた時期のロケッツはNBA史上でも指折りの爆発力を備え、中でもクリス・ポールとハーデンがタッグを組んだシーズンのロケッツはチームとして完成の域に達していたが、それでもウォリアーズに打ち負かされて西カンファレンスを制することはできなかった。

しかし今、ハーデン退団からの3シーズンで再建が遅々として進まなかったロケッツは、イメイ・ユドカを指揮官に迎えて大きな変化を迎えた。今の若手の多くはハーデンの時代を知らず、3月以降に『何かを懸けた試合』を経験していない。だが、今シーズンのロケッツはプレーイン・トーナメント圏内の10位に食い込む可能性がほとんどなくなってもファイティングポーズを解かなかった。3月には途中で主力のアルペラン・シェングンをケガで欠くアクシデントが重なったにもかかわらず、13勝1敗の快進撃を見せた。

マーベリックス、ティンバーウルブズに連敗し、10位争いのライバルであるウォリアーズとの直接対決にも敗れたことで、プレーイン・トーナメントに行く可能性は事実上潰えたが、ロケッツが過去3シーズンとは決定的に『変わった』のは間違いない。目標がなければ規律は保てないし、タンクで即戦力のルーキーが加わってもチーム作りに継続性がなく、『ロケッツのバスケ』が確立できない。そんな悪しき流れを断ち切ったのは、間違いなくユドカの手腕だ。

ロケッツは良いチームになりつつあるが、ルカ・ドンチッチにアンソニー・エドワーズ、そして何度も何度もシーズンの正念場でロケッツの勢いを止めてきたステフィン・カリーとクレイ・トンプソンを上回るには多くの要素を欠いていた。現地4月4日に行われたウォリアーズとの大一番では一度もリードを奪うことなく、後半は常に2桁のビハインドを強いられる完敗を喫した。

『絶対に負けられない舞台』を踏んだ数は、歴戦のベテランが揃うウォリアーズとは比べ物にならない。ユドカはこの大敗の後、相手の勢いに圧倒された選手たちを「ヘッドライトに照らされた鹿」と表現し、「気が弱いというか、怯えているように見えた」と続けた。

それでもユドカは、この経験がチームには必要なステップだと認識し、選手たちの気持ちの弱さを責めるつもりは一切なかった。「何かを巡って2つのチームが戦った。一方だけが試合に集中し、何をすればいいかを把握していた。だが、この時期に意味にある試合をすること自体が重要なんだ。そして、次に本当に大事な試合を迎えた時に結果を出したい。今日はそうではなかったが、次はもっと良くなりたい」

この1年間で選手のマインドセットは大きく変わったとユドカは言う。「プレーオフに出ることはなく、自分が良いプレーをすればいいと考えてシーズンを戦っていた。勝とうが負けようがストレスを感じることなく、自分の成長にフォーカスしていた。それがここ最近では、試合に勝たなければいけないプレッシャーを感じているのが分かる。それは良い変化だ」

「最近はメンタル面でかなりの粘り強さが出せるようになった。ウルブズとの試合では負けはしたが、選手たちは厳しい状況から精神的に持ち直して戦い続けた。勝っていても接戦でも大差で負けていても、そんな姿勢が見える。厳しい状況を粘り強い守備から変えて、勝機を作り出そうとする選手を見るのは良いものだよ。良いディフェンスからオフェンスに転じる、チームとして正しいプレーからシュートを打つ、それができていれば自ずと結果は出るものだ。それを選手たちが本当の意味で理解してくれたように思う」

この1年でチームとしてのディフェンスは大きく改善した。ハーデン退団以降でようやく『ロケッツのバスケ』が見えてきた。「彼らにとって得意分野ではなかったディフェンスが、この1年で大きく改善された。私はそこに誇りを持っている」とユドカは語る。

ウォリアーズに敗れて10位に入る可能性は著しく低くなったが、ロケッツは残る6試合もこれまでと変わらぬファイティングスピリットで戦い抜くだろう。そしてチームは来シーズンに向けて、成長の勢いをさらに増していく。シェングンのケガが軽傷で済み、来シーズンには何の影響もないことも朗報だ。そして近い将来、ロケッツはウォリアーズを『絶対に負けられない舞台』で打ち負かす──。それはハーデン全盛期のチームを塗り替える、新たなロケッツの時代の幕開けを意味する。