マラカイ・フリン

シュートを決めるたびに自信を強めて50得点を記録

ケイド・カニングハムは得点(22.5)でもアシスト(7.5)でもチープトップの、ピストンズに欠かせない戦力だ。しかし、直近の3試合すべて30得点超えと好調だったエースは、現地4月3日のホークス戦の試合開始直前に欠場を決めた。膝に痛みを抱えており、ウォーミングアップの時点でプレーすべきではないとの判断が下されたのだ。

かくしてリーグ最下位のピストンズはカニングハム抜きでティップオフを迎えた。すでに62敗を喫しているチームが、プレーイン・トーナメント進出に執念を燃やすホークスに勝てるはずはなかった。ただ、試合は予定調和のままでは終わらない。この日の主役は控えポイントガードのマラカイ・フリンだった。

NBAキャリアは4年目となるが、フリンがここまで目立った場面はほとんどない。今シーズンは年明け早々に3年半を過ごしたラプターズからニックスへとトレードされ、その1カ月後にピストンズへと再びトレードされた。日本のファンは、ラプターズで渡邊雄太とともにベンチから出て来る彼の名前を記憶しているかもしれない。ただ、どんな選手かのイメージは曖昧だろう。まさか1試合50得点を奪うとは想像できなかったはずだ。

だが、フリンのオフェンス能力はこの試合で爆発した。第1クォーター前半を手堅く進めていたホークスは、カニングハムに代わり先発出場したマーカス・サッサーとの交代で入ったフリンにさして警戒していなかった。その彼はフリースローで最初の得点を奪うと、レイアップにジャンプシュートを立て続けに沈め、クリント・カペラの背後からスティール成功とディフェンスでも意欲的な動きを見せた。第1クォーターに8得点、第2クォーターに9得点を奪ったフリンは、シュートを決めるたびに自信を強め、強気の攻めの姿勢を打ち出していく。

俊敏なだけでなく、緩急も効かせたドライブにホークス守備陣は振り回された。ジャンプシュートは決まりすぎなぐらい決まったが、それ以上にドライブでリムを攻める勇敢な攻めが目立った。もともと長いプレータイムを得る選手ではなく、前半は13分のみの出場。それでも点を取り続ければ話は変わってくる。第3クォーターは8分半、第4クォーターはフル出場とフリンが攻めの中心となり、第3クォーターに14得点、第4クォーターには19得点と周囲の信頼に応えた。

フリンは34分の出場でフィールドゴール25本中18本成功の50得点を記録。NBAの長い歴史で、ベンチからの出場で50得点を奪った選手は過去にジャマール・クロフォードとニック・アンダーソンしかいない。

試合はホークスがほとんどの時間でリードを保って121-113で勝利した。それでもフリンにとっては忘れられない試合となった。指揮官モンティ・ウィリアムズは言う。「日々バスケに向き合ってきた成果が出た。彼は毎朝、チーム練習の1時間以上前に来て練習をしている。今日決めたシュートはすべて、彼が練習コートで取り組んできたものだ」

試合後のフリンはこう語っている。「僕は自分の出来がどうであれチームが勝てば良いと思っているから、今この感情をどう持っていけばいいか難しい。でも、良い気分だった。あと何日かすれば自分の中で整理できると思う」

これまでのキャリアハイはラプターズ時代の26得点で、そこから倍増となった。彼の人生すべてにおいても50得点は最多記録だ。彼は言う。「高校では49得点したことがあるんだけど、コーチに下げられたんだ。今でも恨んでいるよ(笑)」