文=鈴木栄一 写真=野口岳彦

故郷に似たホームタウン刈谷は「リラックスできる」

日本で長くプレーする桜木ジェイアールを大きく変えたきっかけが、2008年に決断した日本への帰化だった。帰化したことでの影響について「より大きな責任を感じるようになった。また、レフェリーや他のチームの選手など周りから、より敬意を持たれるようになったと感じる」と言う。

桜木は学生時代に日本へ留学した経験はなく、配偶者が日本人というわけでもない。そんな状況で帰化申請が受理された選手は日本バスケ界では珍しいため、彼に帰化の手続きなどについて相談をしてくる外国籍選手もいるようだ。

ちなみに桜木という名字を選んだのは、桜を好きなことが理由だ。三河のホームタウンである刈谷には、彼の奥さんも大好きなお気に入りの花見スポットとして毎年訪れている公園がある。

桜木といえば、バスケ漫画『スラムダンク』の主人公、桜木花道を連想する人は当然のように多い。今ではあまりないが、帰化当時はそれが由来だったのかと誰に会っても聞かれていたそうだ。ただ、彼自身は桜木花道について「絵を見ただけで、作品は読んでいないんだよね」と明かす。

日本での暮らしが長いため、日常生活に不自由することはない。メディア取材に対応する時は通訳が付くが、日本語は「だいたい分かる」。コミュニケーションに関しては「日本語での会話はテンポが早いし、沖縄とか東北の人はイントネーションが違うので混乱することがあるね」と語るが、方言での違いを感じるということは、それだけ日本語のリスニング能力がしっかりしていることの表れだ。

刈谷という街は生まれ故郷と似た雰囲気で暮らしやすく、コート外の生活も満喫しているそうだ。彼はカリフォルニア州の郊外であるベーカーズフィールド出身。「だからスローペースでリラックスできる街が落ち着く。刈谷も同じ感じだね」と言う。

また、食事について聞くと、和食の中ではしゃぶしゃぶが一番のお気に入り。そして、よく行くレストランを聞くと、「キャナリーロウというイタリアンレストランが好きで、家族でよく行っている。刈谷に来たら、是非とも訪れてほしい。この前もカニの料理を食べてとても美味しかったよ」と教えてくれた。

円熟のプレーで三河を支えるベテランの妙技に注目

途中で触れたようにアシストランキングでリーグ上位に食い込むなど、桜木は今シーズンも三河の大黒柱の一人として安定したパフォーマンスを披露している。40歳にして衰えを感じさせないプレーを支えているのは、大きな故障のない屈強な身体のおかげだが、特別なケアをしているわけではないという。

「40歳になっても現役を続けているのは、自分でも不思議な気分だ。試合翌日の朝でも、起きて身体が痛いことはないし、よく動けている。20代前半の選手たちがケガをして痛いといっている時でも、自分にはそんなことはない。他のチームの選手から『なぜこの年齢までプレーできるの? 何を食べたり、飲んだりしているの?』とよく質問されるけど、特別なことはしていないんだ。ただ、食事、トレーニング、睡眠をしっかりとし、規則正しい生活は送っているくらいだよ」

そんな桜木に、Bリーグが開幕してからのリーグの変化について聞いてみた。「プレースタイルに変化はないけど、会場の雰囲気は変わっている。よりエキサイティングになり、エンターテイメント性が増している。この方向性は僕も好きだよ」

そして、「昔からの応援してくれているファンも、この変化を気に入ってくれるといいね」と、アイシン時代からサポートしてくれているファンへの気配りも見せた。

さらなるバスケ人気の向上には、個々の選手の知名度アップが必要だと言う。「選手をより人気者にしていくためのマーケティングが必要だ。プレーでより観客を楽しませて、ファンが今以上にあこがれる存在にならなくてはね。日本人にはシャイな選手が多いけど、もっと自分のパーソナリティーを出していって、アピールしていくことが大切だよ」

最後にシーズン終盤に向けて、「全員が健康を維持し、チームに貢献していくこと。そして最後のチャンピオンシップにチーム力のピークが来るように、より向上させていきたい」と意気込みを語ってくれた。

比江島、金丸の日本代表スコアラーコンビに注目が集まる三河であるが、彼らと同じくらい桜木の存在は大きい。円熟のプレーでチームを支えるベテランの巧みなプレーにも注目してもらいたい。