大混戦の西カンファレンスで注目される『秘密兵器』に
NBAはレギュラーシーズンの終盤戦に入った。東カンファレンスは力の差がはっきりしている一方で、西カンファレンスは首位争いからプレーオフのストレートイン、プレーイン・トーナメントまで多くのチームがわずかなゲーム差の間でひしめき合っている。どのチームも20試合ほどを残しているが、ここから順位の大きな変動がありそうだ。
そんな状況を受けて『CBS SPORTS』は、西カンファレンス終盤戦を左右する『秘密兵器』というタイトルで、5人の選手を紹介している。マーベリックスのマキシ・クレーバー、ペリカンズのトレイ・マーフィー三世、クリッパーズのボーンズ・ハイランド、ナゲッツのペイトン・ワトソンとともに、レイカーズの八村塁も『秘密兵器』に挙げられた。
記事では、レブロン・ジェームズとアンソニー・デイビス、オースティン・リーブスの『ビッグ3』の活躍を前提として、さらにレイカーズに違いを生み出す存在として八村を位置付け、こう続けている。「今シーズンを通して八村がコートにいると、レイカーズはディフェンスもオフェンスも大幅に向上する。レイカーズは常に八村がよりアグレッシブにプレーするよう求めてきた。プレーイン・トーナメントを回避するには彼のステップアップが必要となる」
NBAキャリア5年目の八村は、ここまでレイカーズの63試合中49試合に出場し、スタメン出場は20回。スタッツ自体はこれまでと大きな変化はないが、ここに来てチーム内での存在感を飛躍的に高めている。
昨シーズン途中にトレードで加入した八村にとって、今回はレイカーズに腰を落ち着けてシーズンに向けた準備を整えられた。それでも開幕当初はチーム内競争に置かれ、セカンドユニットの得点源という役割を与えられたが、レイカーズではレブロンかデイビスのどちらかは常にコートに残り、攻めのファーストオプションとなる。八村はプレーメークに関与することなくコーナーに待機することが多く、まずまずの確率で3ポイントシュートを決めてはいたものの、あくまでローテーションの一角という評価で、起用法も試合展開や他の選手のコンディション次第の面が大きかった。レイカーズは12月にインシーズン・トーナメントを制したが、ここで八村が大きな役割を果たしたわけではない。
それでも、ここに来て状況は変わり始めた。転機となったのは現地2月1日のセルティックス戦だ。今シーズン、両カンファレンスを通じて首位を独走するセルティックスを相手にレブロンもデイビスも欠場する苦しい状況で、八村は今度こそセカンドユニットの得点源として活躍。特に勝負どころの第4クォーターに10得点を挙げたインパクトが強烈だったからこそ、次の試合からスタメンに据えられることになった。
セルティックス戦を含めて直近の14試合で10勝4敗。それまで勝率5割ラインを行ったり来たりしていたレイカーズは、ここに来て調子を上げている。八村はこれまでも先発出場していたが、今までと違うのはオフェンスでパスが回って来る場面が確実に増えたことだ。これまではレブロンやデイビスが攻めきれない時の選択肢でしかなかったが、今は八村が得点を狙えるポジションにいれば、2人のエースはそれを見逃さずにパスを送るようになっている。相手守備陣はレブロンとデイビスに注意を向ける。そこで八村はポストアップで面を取ったり、コーナーからゴール下に鋭く飛び込み、その瞬間にタイミング良く出てくるパスを受けて効率良く得点を奪っている。『主役』はあくまでレブロンとデイビスだが、八村は『脇役』から脱却して試合ごとにその存在感を高めている。
ディフェンス面でもレイカーズに来て1年が経過したことで周囲との連携も良くなり、その身体能力が上手く生かせるようになりつつある。こうして八村は長所である得点能力を伸ばすとともに弱点だったディフェンスも改善させ、チームを攻守両面で盛り立て、チームの雰囲気をこれまでになく良いものにしている。
2月にチームに加わったスペンサー・ディンウィディーは「僕はここに来て日がまだ浅いけど、このチームがどんな相手にも勝てるタレントレベルを持っているのは明らかだ」と言う。そして八村は先日、「このチームはビッグゲームに強い」と語った。
レイカーズのレギュラーシーズンは残り19試合で、プレーオフのストレートインとなる6位まで2ゲーム差。ここからしばらくは上位勢との戦いが続く厳しいスケジュールが待ち受けているが、だからこそ勝てば順位を上げられるし、チームの士気も高まる。ここから先は、言わばすべてがビッグゲーム。そこで八村に求められるのは、『主役』としてレイカーズを勝たせる大仕事だ。