河村勇輝

攻守における貢献で30-7の大量リードを演出

第1クォーター終了のブザーが鳴った。ベンチの端でコートの戦いを見守っていた河村勇輝は、声を挙げ、拳を強く握ってガッツポーズした。30-7。会心の出だしだった。

3月3日に開催された川崎ブレイブサンダース(22勝19敗、中地区3位)×横浜ビー・コルセアーズ(18勝23敗、中地区6位)の『神奈川ダービー』ゲーム2。横浜BCは67-83で敗れた前日のゲーム1からカムバックを果たし、84-73で勝利した。

勝因は何と言っても、出だしのディフェンスだ。「ミーティングで強調した、ボールマンのプレッシャーとビッグマンとのコミュニケーション、そしてその後のフィジカルバトルを選手たちがしっかり表現してくれました。素晴らしかったです」と青木勇人ヘッドコーチ。百戦錬磨のベテランが揃う川崎を混乱に陥れ、その得点を第1クォーター7点、第2クォーター10点に押さえた。

河村は篠山竜青や藤井祐眞にバックコートから激しいマークを仕掛け、川崎のオフェンス時間を大きく削りとることに貢献した。「アグレッシブにプレッシャーをかけて、とにかく相手に思うようにエントリーさせないようにしたのは、昨日の試合から変えた部分です」と河村。ファウルがかさむかもしれないという一抹の不安もあったが、まずは基本を固めないことには始まらないと腹を決めた。

代表活動後一発目の試合となったゲーム1は、悔いの残る内容となった。「前半も後半も、大事な場面で自分のターンオーバーがチームの流れを悪くしてしまいました。全体的にポイントガードの差が出てしまった試合でした」と河村は試合後に語っている。

この試合における河村のターンオーバーは6。針の穴を通すようなパスをいとも簡単に通す彼にしては珍しいミスも、いくつかあった。しかし青木ヘッドコーチはこれを「河村選手のミスというよりスペーシングの問題」と説明した。

横浜BCは第22節のサンロッカーズ渋谷戦より、アジア特別枠のカイ・ソットを先発起用し『3ビッグ』のラインナップを選択している。川崎戦のゲーム1はこれによって選手がインサイドに集まったことでパスが難しくなり、さらに河村のアタックやそこからのキックアウトパスが生きなかったというのが指揮官の見解だ。

これを修正したゲーム2で、河村は試合序盤から試合を掌握した。オフェンスで選択したのは220cmのソット。「昨日も素晴らしいパフォーマンスをしてましたし、彼の高さはどのチームに対してもすごく驚異的なので、強みとして生かしていきたいと思っていました」と語り、チームトップとなる21得点を演出。ソット、デビン・オリバー、ジェロード・ユトフの3選手に2桁得点を取らせた上で、自身も11得点10アシストのダブル・ダブルを達成している。

また、第4クォーター終盤にソットと繰り出した超速アリウープは、この日一番のスーパープレーだった。

河村勇輝

シーズン最後に「自分たちが1番強くなった」と言えるように

試合後、コートを後にする河村の表情は明るいものではなかった。前半は素晴らしい内容だったが、後半は39-56とまくられ、川崎の3ポイントシュートが入っていたらあわや逆転という展開だったからだ。

「自分たちがディフェンスを遂行しきれないと、こういった形になるということがわかった試合になったと思います。勝てたことは何より喜ばしいことですけど、自分たちの目標に向かって気を引き締め直して、連勝できればいいなと思います」

「自分たちの目標」という言葉が引っかかった。横浜BCは川崎戦を終えて18勝23敗の中地区6位、ワイルドカード順位は11位。チャンピオンシップ進出の可能性はゼロではないとはいえ、かなり厳しい。そのような状況で定める目標とは何なのか。尋ねると河村は「あ、優勝です」と言った。「そんな当たり前のことをなぜ聞くんだ」と言わんばかりの、心底意外そうな口調だった。

「そこはもうぶらさずに、可能性がある限りはもちろん挑戦していきたい気持ちはあります」。河村はそう言ったところで少し考え込み、「でも」と言葉を続けた。

「高いところ…優勝っていうところをもちろん目指しますけど、目の前にある試合や、目の前にある課題っていうものに向き合いながら、最終的に1番強い…シーズンの最後に『自分たちが1番強くなった』っていうところを表現できればいいなと思っています。今は、自分たちに向き合いながら、課題を1つずつクリアしながら着実に成長していければいいなと思っています」

人生をいたずらに重ねた者は、河村の言葉を「無謀」と受け取るかもしれない。しかし、大学を中退してのプロ転向で日本を驚かせ、ワールドカップでの活躍で世界を驚かせ、さらなる未知のステージに向けて前へ前へと進もうとしている22歳にとって、可能性がある限りそこに全力で挑むという考えはごくごく当たり前のものだ。

今シーズンのレギュラーシーズンは、残り20試合を切った。あまり考えたくはないが『消化試合』と感じられるような試合も各所で増えてくるかもしれない。しかし河村なら、そして横浜BCならば、どんな結果になろうとも最後まで「成長する」という強い意思を感じられるゲームを見せてくれる——。そんな希望を感じさせられる言葉だった。