「何度も同じことが起きるのにうんざりしている」
モンティ・ウィリアムズは激怒していた。試合後の会見で席に着くと、記者からの質問をさえぎって「今シーズン最悪の判定だった。もう十分だ」と吐き捨てた。
この日、ニックスの本拠地マディソン・スクエア・ガーデンに乗り込んだピストンズは大いに奮闘していた。ニックスはプレーオフへと突き進んでいるのに対し、ピストンズはいまだ8勝でリーグ最下位。第2クォーター、第3クォーターと2桁のビハインドを背負う展開になりながらも集中を切らさずニックスに食らい付き、終盤に接戦へと持ち込んだ。
残り2分でアサー・トンプソンの3ポイントシュートで追い付き、そこからニックスの攻めを耐えしのいで残り37秒でクエンティン・グライムズがドライブから111-110と逆転のシュートを決める。問題はこの次のニックスの攻めの場面だった。ジェイレン・ブランソンの3ポイントシュートが外れたところで、ピストンズがリバウンドを取りかかるがボールが手に付かず、ドンテ・ディビンチェンゾにボールを奪われるが、ブランソンへ預けようとするパスをトンプソンがカットする。その瞬間、ケイド・カニングハムとシモーネ・フォンテッキオは前に走り出し、勝利を決定付けるピストンズの速攻が出来上がりつつあった。
だが次の瞬間、致命的なターンオーバーに焦ったディビンチェンゾが頭からトンプソンに突っ込み、これに笛が鳴らない。トンプソンは「コートに倒れた後、なぜプレーが続いているのか分からずパニックになった」と振り返る。カニングハムとフォンテッキオが走り、トンプソンが倒れているのだから守備の人数は足りない。ゴール下でフリーになったジョシュ・ハートがダンクを決め、しかもバスケット・カウントに。ニックスファンが大興奮する中、指揮官モンティはただただ当惑していた。
そして冒頭の記者会見となる。「勝つチャンスだった。だが相手選手がアサーの足に飛び込んだのにノーファウルだった。あまりにもひどい。我々は定められたやり方でリーグに抗議し、映像も送った。何度も何度も同じことが起きるのにうんざりしている。シーズンを通してこんなことばかりで本当にうんざりだ。コーチに何ができると言うんだ?」
モンティは記者からの質問を受け付けることなく、約1分間まくしたてた後に去っていった。審判団は後に、ディビンチェンゾのプレーはファウルと判定すべきだったとコメント。しかし試合結果は覆らないし、モンティが高額の罰金を科されるであろうことにも変わりはない。
つい最近までニックスにいて、ピストンズにトレードされたグライムズは「誰もがアサーに対してのファウルだと思ったはずだ。もしファウルと判定されていたら、試合は全く違うものになっていた」と言う。
一方でディビンチェンゾは「ターンオーバーをして、ボールが目の前にあれば飛び込むものだ。僕はあくまでボールを狙って飛び込んだ」と語った。彼は映像はまだ確認していないと言いつつ、「モンティもピストンズの選手たちも僕はリスペクトしている。今日は僕らがギリギリで勝ったけど、異論はどんなものでも受け入れるよ」と、ピストンズの憤りを理解し、寄り添おうと努めた。ただ、ニックスに勝利をもたらす得点を決めたジョシュ・ハートは「勝ったのは僕らだ。どんなに不格好でも勝つ、それがNBAなんだ」と冷徹に言い放った。「82試合のシーズンでは理解しがたいことが時々起きる。それがバスケの神様の仕業であろうとなかろうと、勝たなきゃいけないんだ」
審判の判断はマディソン・スクエア・ガーデンの雰囲気に影響されたのかもしれない。ただ、これもピストンズにとっては理不尽な話だ。この試合はもともとデトロイトで行われるピストンズのホームゲームだった。ところがインシーズン・トーナメントの決勝トーナメントに進出したニックスが、バックスとセルティックス相手にアウェーゲームを戦うことになったため、ホームとアウェーの試合数を調整するためにリーグはこの試合をニックスのホームゲームへと変更した。これでピストンズは今シーズン、ホームで40試合、アウェーで42試合を戦うことになる。よりによってこのホームとアウェーが入れ替わった試合で、彼らにとっては理不尽すぎる黒星を喫することになってしまった。