起用法に不満を爆発させるも「気持ちを切り替えた」
ウォリアーズはオールスターブレイクの時点で27勝26敗、試合で苦戦するだけでなく、アシスタントコーチの不慮の死というショッキングな出来事もあり、例年とは違う難しいシーズンを送っている。エースのステフィン・カリーは絶好調をキープしているが、他の選手は様々な要因で調子の波が激しい。それでも直近の10試合では8勝2敗と、ここに来てようやくチーム全体として良い波に乗れてきた印象を受ける。
その良いリズムを象徴するのが、キャリア3年目の21歳、ジョナサン・クミンガだ。彼もまた今シーズンずっと好調だったわけではない。今年に入ってすぐ、アンドリュー・ウィギンズを優先して自分をベンチに置く采配が続いたことで、「何をやっているのか分からなくなる」と不満を爆発させた。
ウォリアーズを率いるスティーブ・カーは、カリーとクレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンと黄金期を築いた選手たちの実績を常に高く評価し、そのプライドに配慮する傾向が強い。それで若手がそのしわ寄せを浴びることも起こる。『3人目のスプラッシュ・ブラザーズ』と呼ばれたジョーダン・プールがグリーンに殴られた末にチーム内での居場所を失って放出されたことは、若手が生きづらいチームのカルチャーを象徴する事件だった。
カーの起用法に不満を爆発させたクミンガもそうなる可能性があった。そうでなくともウォリアーズは若手の成長を待つよりも即戦力を求めるチームで、トレードデッドライン前にはレブロン・ジェームズ獲得という大勝負に打って出る可能性もあった。おそらくその場合には、レイカーズは取り引きの一部としてクミンガを要求し、ウォリアーズは断れなかっただろう。パスカル・シアカムやデジャンテ・マレーといった名前も獲得候補として浮上したが、誰のトレードが成立したとしても、クミンガは交渉相手からすれば欲しい人材だったはずだ。
レブロン獲得は奇策ではあるが面白いアイデアだった。ただ、ウォリアーズファンの多くは、クミンガを放出せずに済んだことに安堵している。そして彼が今もウォリアーズの一員であるのは、彼自身が起用法への不満を爆発させた後、すぐその過ちに気付いてパフォーマンスで応えたからだとも言える。
クミンガはメディアに不満を語った翌日、カリーになだめられてカーのオフィスへ行き、率直な意見交換を行ったという。後に彼はこう語っている。「お互いに自分の気持ちを伝え合った。プレータイムを伸ばしたい僕に対し、そのためには何をしてほしいか彼は教えてくれた。それから僕は気持ちを切り替え、彼のためにプレーするのを楽しんでいる。厳しく指導するのは、僕への期待が大きいからだ」
1月中旬からのクミンガは8試合連続で20得点以上を記録し、1月後半からはプレータイムが30分を超えることも多くなった。そのポジティブな変化がなければ、ウォリアーズ首脳陣はトレードデッドラインで彼を手放していたかもしれない。
プレータイムが伸びたことでスタッツも急上昇しているが、プレースタイルの変化も見逃せない。グリーンをセンターに置くスモールラインナップで、クミンガはハンドラーを担う機会が増えた。グリーンは言う。「これは僕の出場停止の間に起きた変化だ。今の彼はプレーの幅を広げ、このチームの2番目のオプションとなった。そのおかげで僕らのオフェンスは今までとは違うものになった」
ハンドラーとして攻撃の起点となることもあれば、3ポイントシュートを警戒して相手守備陣が空けたインサイドへの鋭いカットでパスを呼び込んでのダンクも多い。激しいディフェンス、リバウンドでのボールへの執着心は以前から高いレベルをキープしている。このチームの選手としては3ポイントシュート成功率31.7%は課題だが、そのマイナスを補って余りある働きを彼は見せている。
「気持ちを切り替えたと言ったけど、本当の意味で自分が何かを変えたとは思っていない。選手として成長したいという気持ちは以前から持ち続けている」とクミンガは言う。「自分が何かを成し遂げたという感覚もない。人は常に成長し続けなきゃならない。ステフだっていまだに成長するマインドを忘れていないよね。僕もそういうマインドを常に持っていられる選手でいたい」
ウォリアーズは若手にとって生きづらいチームだが、クミンガは困難を乗り越えてブレイクを果たした。その成長はこれからも続いていくはずだ。