ブライアン・ナッシュ

バスケットボール、テニス、陸上などの有望選手を育成するアメリカのIMGアカデミーで、バスケットボール部門のディレクターを務めるブライアン・ナッシュ氏のインタビュー(前編はこちら)。後編ではIMGのポリシーや日本人選手、指導者へ向けた提言などを聞いた。

「日本人選手は年々バスケットボールIQや理解力が深まっている」

――IMGはバスケットボールだけで19クラスを数える大きな組織です。今後の展望についても聞かせください。

IMGは現在バレーボールのクラスもスタートしています。バレーの本格的な規模拡大を受けてバスケット部門が縮小するので、より質にこだわることができるようになると思います。現在、IMGには世界中からやって来た200人のバスケットボール選手がいますが、そのスキルはそれぞれ異なりますし、世界のレベルがアメリカに追いついてきていると感じます。日本のプレーヤーも同様に年々成長しています。日本人選手は特に、基礎のレベルが高いです。継続性があり、反復練習が多いからです。日本人のゲームを見ていても、年々バスケットボールIQや理解力が深まっていると感じます。

――サイズの小さい日本人が世界で成功するためのアドバイスをお願いします。

サイズ面では不利ですが、スキル、状況、体格に応じて最高の自分になってほしいという願いがあります。身長が低い選手が活躍するためにはディフェンスが不可欠です。人一倍頑張らなければいけないし、圧倒的な自信を持っていないといけません。オフェンスでは、バスケットIQが欠かせません。状況判断能力、そしてオープンショットを絶対に外さないことが不可欠です。

——Bリーグの試合を観戦し、フリースローやフリーのシュートを落とした場面を指摘されていましたね。

両チームともフリースローを外していました。アメリカだけでなく世界中でバスケットボール選手の多くがゲームを複雑にしていますが、バスケットはもともとシンプルなゲームです。25年前、ラリー・バードやマジック・ジョンソンたちの時代の練習メニューと現代の練習メニューを比べると、複雑さは天と地ほどの差があります。25年前のワークアウトはコーンも椅子もありませんでしたが、彼らはシュートや基礎に焦点を当てて、偉大な選手として活躍しました。最近の選手はフリースローを外しすぎる傾向にありますが、これは彼らがフリースローよりも3ポイントの練習を多くしているからだと考えられますね。

——ヨーロッパでは練習を複雑にすることで判断力を磨いているそうです。

アメリカがヨーロッパやFIBAに対して劣っている点は、若年層にショットクロックを導入しないがゆえにパスの練習を積んでいないというのが1つあると思います。ショットクロックがないからドリブルを多くつき、それゆえに11 に時間を割くというのが文化になっている。現在NBAでトッププレーヤーとされるのはルカ・ドンチッチやニコラ・ヨキッチなど、ヨーロッパから来た選手。ヨーロッパの国々は世界の大会で優秀な成績を収めていますし、ヨーロッパのバスケは優れていると考えています。

ブライアン・ナッシュ

1000本普通のシュートを打つより150200本をゲームスピードで打つほうが効率的」

——限られた時間で成果を挙げるために、意識していることはありますか?

一つひとつの練習に意図と計画性を持って、効率的な練習メニューをこなすのが一番です。コーチたちは全てのことを一度にやろうとする習性があるので、効率的に選手たちに吸収させるために、自らの哲学に応じて練習を計画する必要があります。時折、それは個人のスキルアップの時間を犠牲にしかねませんが、最終的にはコーチの哲学に従順でなければなりませんし、選手も信じなければなりません。コーチは選手たちに何をしたいのかを明示し、互いの理解を深めなければなりません。

私たちのプログラムは、1年のうち9カ月間で、その間に3つのフェーズがあります。シーズン前、シーズン中、そしてシーズン後です。フェーズごとの内容は、次のフェーズに移る前に計画します。シーズン後の3カ月間は、故郷に帰ったり旅行したりというオフシーズンになりますが、その期間で個人のスキルアップのための練習メニューを考えてもらうようにしています。今後、コーチ陣が毎日一緒にいるとは限りませんから、私たちはこの3カ月を重要視しています。

――日本の小中学生の中には、バスケットのスクールに通いながらパーソナルレッスンを受ける選手もいて、オーバーワークを危ぶむ声もあります。

IMGの選手たちに伝えているのは、練習は効率的であるべきだということです。2時間のトレーニングメニューがあるとしたら、普通にこなすだけではなく、45分間はゲームスピードでドリルをこなすことを意識してほしいです。例えば、シューティングマシーンを使って「今日は1000本シュートを打った」と得意げな選手がいたとして、それはおそらくゲームを意識したシュートではないでしょう。1000本普通のシュートを打つよりも、150200本をゲームスピードで打つほうが効率的です。効率的な練習メニューは、身体への負荷を減らし、時間が作れるという点においても非常に良いことなのです。

――貴重なお話をありがとうございました。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

大事なのは夢や目標を持つことです。スポーツキャリアには浮き沈みの波があります。沈んだ時にこそ、私たちは人間性を構成しなければなりません。多くの大人たちが子供たちを快適な環境で育てよう、子供たちが幸せに生きられる環境を与えようとしますが、実はこれは間違っています。 困難にぶつかり、乗り越えていかないと本物の幸せというものは手に入らないからです。そうして学ぶことが後に生きてくるのです。