今の栃木では『2013年組』がリーダーシップを発揮
ニューヨーク市スタテンアイランド出身のライアン・ロシターは、シエナ大学で3度のNCAAトーナメントに出場。4年次は平均18.7点、13.2リバウンドでチームの柱として活躍する。リバウンド通算1151本はシエナ大学の記録を更新し、歴史に残るビッグマンとなった。
しかし、NBAドラフトには引っかからず、フランス2部のドゥナンASCヴォルテールからプロとしてのキャリアをスタートさせる。平均13.8点、9.7リバウンドとスタッツを残し、翌年はNBAのDリーグへ移籍。クリーブランド・キャブス傘下のカントン・チャージで先発出場していたが、NBAに上がるチャンスは訪れず、海を渡った。
2013年に栃木ブレックスにやって来た選手は多い。渡邉裕規と古川孝敏の移籍組に加え、ルーキーとして迎えた遠藤祐亮、トミー・ブレントン、熊谷尚也。そしてロシターの6人が新たに加わっている。
ロシターは言う。「同じ選手と長い期間一緒にいるので、コート内外を通じて仲が良い。また、できていないことがあれば、お互いに躊躇することなく言い合える。自分も他の選手から指摘を受けることがあり、それはチームが良くなるためにも当然のこと。良いコミュニケーションが取れていることが、良いチームワークにつながっている」
キャプテンシーを発揮するロシターだけではなく、試合中のコート内やベンチを見れば、選手同士で話し合う場面が目に止まる。そのコミュニケーションの良さもあり、新たに加わった竹内公輔とジェフ・ギブスもチームに溶け込み、持ち味を発揮し始めた。
『尊敬する人』田臥勇太とのコンビプレーは熟練の域に
BリーグになってNBA経験を持つ選手が増えた。そのほとんどがロシターと同じポジションである。今月だけでも、千葉ジェッツのヒルトン・アームストロング(ウィザーズなど)、川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカス(マーベリックスなど)、さらに昨シーズンまでコービー・ブライアントとともにレイカーズの一員だったロバート・サクレが加わったサンロッカーズ渋谷との対戦が続いた。
「他の選手に比べるとサイズは少し低いが、素晴らしい選手たちに対してチャレンジすることを楽しんでいるよ」とロシターは強敵とのマッチアップを歓迎している。
接戦を勝ち切った渋谷戦でマッチアップしたサクレの印象については、「とてもフィジカルが強いサクレ選手とアイラ・ブラウン選手がいるチームに対して、終盤にリードされる場面もあったが、最後は勝ちきることができて良かった」と語る。「彼は素晴らしい選手ですが、日本に来て2週間程度ということもあり、まだ日本のバスケットボールに馴染んでいる期間。そこに慣れてくることで、さらにパフォーマンスは上がってくる。渋谷はチームとしても向上してくるだろう」と警戒していた。
NBA経験者が増えたリーグの現状についてはこう語る。「Bリーグが始まる前から外国籍選手もそうだが、日本人選手のレベルも上がっており、常に日本のレベルは上向いている。楽に勝てるような試合はなく、均衡した中での戦いが続いている」
「この4年間、日本でのプレーを通して、シュートやドリブルなど自信を持ってできることが増えてきた。アメリカにいた時のパフォーマンスより向上した部分も多い」と、ロシターはバスケットボールの母国であるアメリカを離れながらも成長を続けている。
マッチアップするライバルたちもさることながら、日本人で唯一、NBAのコートに立った田臥勇太の存在がロシターにとっては大きいそうだ。「日本でのキャリアを積み始めた時からNBA経験のある田臥を始め、素晴らしい仲間たちのおかげで自分も日本のリーグに早く馴染むことができた。それが今の活躍につながっている」
来日当初から、「勇太から学ぶことは多い」と話しており、数々のコンビプレーで勝利を呼び込み、会場を沸かし続けている。栃木での2年目を迎える前に発行されたガイドブックの『尊敬する人』の欄に田臥勇太を挙げていることからも、その揺るぎない信頼がうかがえる。
NBA選手になる夢よりも、ブレックスの勝利に集中
「バスケットボール選手であれば、誰もがNBA選手になることを夢見ているし、目標の場所」と前置きした上で、「でも今は、そのことにはまったく考えてはいない」とシャットアウトする。「毎試合、ブレックスが勝つことだけに集中している。その積み重ねをしていくことにより、後から結果は自ずと付いてくると思っている」
日本でプロとしてのキャリアを積み上げているロシターだが、27歳とまだまだ若い。NBA選手がBリーグにやって来たことにより、スカウトなどの目に止まる機会が増えることも期待される。だが、栃木の居心地の良さもロシターは味わってしまった。
「マネジメントからチームメート、もちろんファンも含めてブレックスにかかわっているすべての人が、チームの勝利に真剣に向かっている。本当にハードワーカーであり、素晴らしい人が揃っていることで、良い環境が自ずとできている」
Bリーグ初代王者の称号を手にするためにハードワークを続けるロシターは、シエナ大学時代同様、日本バスケ界の歴史に名を残すビッグマンに近い存在と言えよう。結果を残せば、自ずと道は拓かれる。ロシターだけに限らず、極東アジアのバスケットボール後進国にもかかわらず、有望なアメリカ人の成長を見守ることができる環境は実に喜ばしい。
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