文=大島和人 写真=B.LEAGUE

ベンドラメのクロスオーバーを見抜いた上でのスティール

満員の観客が固唾を飲んで試合の行方を見守っていた。第4クォーターの残り10.9秒でスコアは65-62。リンク栃木ブレックスは3ポイントシュートを決められたら同点とされる状況だった。

サンロッカーズ渋谷のスローインから試合は再開される。広瀬健太がボールを入れ、ベンドラメ礼生がボールを持つ。狙いはもちろんスリーポイントシュート。しかしそこで田臥勇太が決めたスティールが、この試合で最大のビッグプレーになった。残り10秒でさらに3点を加えた栃木が68-64で渋谷を下し、1月28日の第1戦を取っている。

田臥は自らの殊勲を誇る様子もなく、淡々と振り返る。「ギャンブルしないように、3ポイントシュートをまず打たせないようにと思ってやっていました。スティールを狙っていたということではない。勝つために何が必要かだけを考えていました」

田臥は前に踏み込んでベンドラメからボールを奪い、「狙っていなかった」というスティールを成功させる。田臥がそのまま独走する形となり、ベンドラメはファウルで強引に止めざるを得なかった。田臥はその後のフリースロー2本のうち1本を決め、SR渋谷は可能性の乏しいファウルゲームを強いられることになった。

「最悪の最悪は2点でもいい。でもプレッシャーをかけないといけなかった。ベンドラメは能力的にクロスオーバー(左右の重心移動で相手を抜くプレー)のスキルが高い。そのことは前もって意識していて。タイトに付いて、まず3ポイントだけは打たせないように考えました」と田臥は言う。

半歩足らずの距離まで詰め、ベンドラメのクロスオーバーの動きに素早く反応した。田臥にとっては当たり前のプレーなのだろうが、栃木のヘッドコーチ、トーマス・ウィスマンが「最後に田臥選手の素晴らしいスティールが出て、何とか勝ちを引き寄せることができた」と称賛するように、勝敗を決定づけるビッグプレーだった。

ウィスマンヘッドコーチは「クラッチ」という表現を田臥に対して使っていた。田臥はクラッチタイム、つまりプレッシャーのかかる土壇場で輝いた。

「正しいところにパスを供給し、正しいプレーをさせる」

ベンドラメは日本の将来を担う新進気鋭のポイントガードだが、まだ大卒1年目の若手だ。SR渋谷のBTテーブスヘッドコーチは「彼のプレーは素晴らしかったと思う」とこの日のベンドラメを評価しつつも、「田臥のように経験がある選手と、礼生のように経験のない選手は正反対。あの局面で田臥選手がやったプレーはベテランらしい、試合を決定づけるようなプレーだった」と言及する。

ベンドラメはこう悔いる。「3ポイントを狙うプレーで、瞬間的に打つこともできたんですけれど、10秒あった。すぐ打てなかったらピックを呼ぼうと思っていたんですけれど、迷った結果として球際が甘くなりスティールされました。田臥さんが打たせないように間合いを詰めてきているのは分かったのに、そこで無理やり行こうとしてしまった」

勝負どころで味わった悔しさは、ベンドラメにとって今後の糧になるだろう。ベンドラメのそこに至る活躍があったから、田臥のプレーが引き出されたともいえる。

オフェンス面ではチームを落ち着かせる、周りを導くという数字に表しきれない部分に田臥の強みがある。SR渋谷の元NBAプレイヤー、ロバート・サクレは田臥の真価をこう説明する。「本当に堅実なプレーをすると思った。味方に対して正しいところにパスを供給し、正しいプレーをさせるというのは彼のいいところ。そこをしっかり止めないと栃木に勝つことは難しい」

試合を通して見れば、田臥が28日に得たプレータイムは20分16秒と試合の半分ほど。渡邉裕規が18得点、遠藤祐亮が14得点を挙げる活躍を見せており、オフェンスの主役は後輩のガード陣が担っていた。しかし28日のSR渋谷戦は田臥が勝負どころで選択肢を整理し、勝負強く遂行するクラッチプレイヤーの価値を見せた試合だった。