山本綱義

高校初の4冠に挑む京都精華学園高校女子の山本綱義コーチは自然体でウインターカップに臨む。1年次から主力を担った堀内桜花、八木悠香らが最終学年を迎え2023年は、インターハイ連覇、U18トップリーグ初優勝と輝かしい記録を積み重ねてきた。連覇が懸かる冬の舞台。大阪薫英女学院や桜花学園が待ち構える険しい道のりだが、校長も務める73歳は「観客に面白いと思ってもらえるバスケットを見せたい」と気負いはない。

「ウチェ、柴田の替わりは誰だと伝え責任感が出てきた」

ーー今年のチームを振り返って。

大黒柱のイゾジェ・ウチェがウインターカップ終了後、シャンソン化粧品に入団しました。ウチェや柴田柑菜(立命館大)らが抜けて、「(彼女たちと)替われるのは誰だ」と当初から厳しく言いました。ディマロ・ジェシカ、堀内や八木以外で誰がなれるんだと。その中で2年生の橋本芽依、林咲良たちに責任感が出てきました。「力を合わせなかったら、匹敵するチームになれない」と言っていた。新人戦、近畿大会の段階ではチームが全然完成してなくて、不安材料がいっぱいありました。堀内や八木に力があっても、核になる子がいなかった。

連覇がかかったインターハイを前に「次の山を目指すには、まず一旦地上に降りよう」と、チームを新たに作り直しました。新たな自分たちで山をこれから登っていく。途中疲れて休憩してもいいじゃないか、とコツコツとチーム作りをしていきました。そして、気が付けば頂上に登り詰めることができました。

連覇という二つ目の山は、前の山より高い。登り詰めることができて、選手たちとの信頼関係を構築したような気になって、優しくなってしまいましたね。他の先生方も心地が良いのか、結束力が強まった気がします。ウインターカップも連覇が懸かっていますが、「途中でへこたれてもいい。今までのプレッシャーに潰されないように、気楽にいこう」というような気持ちで頂点を目指しています。

ーー必ずしも勝利を目標に据えていない。

「目標を絶対に達成するぞ」と意気込むと、今まで勝ててないんです。昨年のウインターカップ以降は、優勝は無理かもしれないけど、気持ちよく大会を過ごしていこうというふうに考えるようになりました。なのでインターハイ連覇は「やってしまったな、どうしよう」という気持ちです(笑)。トップリーグも薫英さんに負けています。「優勝でなかったら2位、3位は一緒だから気楽にやろうじゃないか」とトップリーグ最終戦の桜花学園戦に臨みました。私もじっと座ったままでしたし、子供たちも「どうしよう」みたいな雰囲気はなかったです。「あれ、何か桜花さんに離されないな」「けどやっぱ離されてきたな」「いやいや待てよ」というのが最後に起きた。無欲の勝利だと思います。「負けるときは負けるんだ」みたいな開き直りでもないんですけど、不思議な気持ちですね。

ーーウインターカップは「夏冬4冠」が懸かります。

4冠ですか。1ミリも考えていません。「ここまで勝利にこだわらなくていいのかな」と自分自身が戸惑っている気はします。選手たちはもちろん勝ちたいとは思っているし、「(トップリーグで薫英に負けたから)絶対に次は勝つ」と口では言いますけど、表情を見ていると力んでいません。

ーーとはいえ、試合では熱い一面もあります。「試合に負けない」という覚悟を持って臨んでいる。

「明日は明日の風が吹く」という母の言葉が、今頃になってバスケットに生きてきている。「人からお茶をいただいたら両手で受け取りなさい。そして相手には両手で渡すんだ」とか。生徒たちには古いですけど、そういった言葉ばかりを伝えます。ピンと来ているのかなとは思いますけど。

ーーバスケットボールを通じた人間育成への思いが伝わります。

私は高校時代にバスケットを少しかじった程度です。いろんな方に勉強させていただいて、これまでの教え子が悔しい思いや楽しい思いをして教えてくれたことを伝えているだけです。だからバスケットを通じて人を育てたいし、それしか自分にはない。技術的、戦術的に失敗することはありますが、真面目に素直に謙虚にひたむきに、周りの人を大切にしながらバスケットをすることに失敗はありません。

世代交代「どの理屈で港に自分がたどり着くのかがわからない」

ーー6月には仙台大学附属明成高校の佐藤久夫コーチが亡くなられました。

時代を築かれた方々…井上先生や岐阜女子の安江満夫先生もそうですが、私はお二方と肩を並べるような存在ではありません。女子バスケットの世界は、当初のカンカンになってやってきた時代から比べると、良い雰囲気を作り上げてきました。だから、若い人たちが繋がりを作ってもらえたら日本のバスケットが変わってくると思います。

私自身はいつでもバトンタッチを、と思っていますが、どの時点で自分が人に任せられるかが見えてこないんですよ。船にたとえると、どの理屈で港に自分がたどり着くのかがわからない。難破しているんですよね(笑)。

私はかつて「全国に行くにはこれしかない」と、中高一貫での育成をスタートさせました。寮を作ったのは8年前で、中学生と留学生は私と妻が面倒を見ています。「寮を作って選手たちを預かりたい」と相談した時、妻は「嫌よ」と言いました。やっと子育てが終わって楽になったわけですから、気持ちはわかります。「わかった、俺1人で見る」と伝えたら「いくら年でもお父さんが1人で女の子を見るなんて絶対ダメ。少しだけ手伝う」となり、「私のかわりに見てもらえる人を探してくる」と言っているうちに8年が経ちました。今は「寮に人を入れるのをやめようかな」と言うと、「精華に来たいという夢を持ってくる子を断れないね」と言われます(笑)。

山本綱義

「これまでのチームがやってこなかったことをしたい」

ーー全国のチームが京都精華学園を優勝候補に挙げています。優勝への課題は。

次の世代がどこまで育ってくれるか。橋本、桃井優、ボラ(ユサフ・ボランレ・アイシャット)。林、大久保舞奈美も出てきましたし、1年生の石渡セリーナ、坂口美果ら7、8人は少しずつ育ってくれています。ウインターカップで、どこまで支えてくれるかですね。

ーー最後に全国のファンにメッセージをお願いします。

プレッシャーのかかる試合にどれだけ良い表情で臨めるか。高く険しい山ですから、どこで滑り落ちるか、体力の限界が来るか分かりません。ただ、今まで培ってきた精華のリズムと思いなど、少しでも深いところを見せられればと思います。留学生をとことん走らせたり、ガードがノールックパスを出したり、今までのチームがやってこなかったことをして、自分たちも観客も楽しいバスケットにしていきたい。無欲でリラックスして楽しく。審判の方も笑って笛が吹けるような試合が理想です。