今年の大阪薫英女学院は6月の近畿ブロック大会決勝で、京都精華学園との接戦を73-70で制する『強い』勝ち方を見せ、夏のインターハイでは3位に食い込んだ。ウインターカップでも優勝候補の一角と見られている大阪薫英女学院について安藤香織コーチは「強いチームではないですが、良いチームです」と笑顔で語る。絶対的なエースも留学生もいないチームではあるが、それでも今年の大阪薫英女学院は「チームの結束は相当強いです」と安藤コーチが言い切るだけの強みと魅力を秘めている。

「この1年間は本当になんか楽しくやっているんですよね」

──この1年、大阪薫英女学院ではどんなチーム作りをしてきましたか?

去年のチームは都野七海と熊谷のどかがダブルガード、ダブルキャプテンでした。今年はそのレベルでプレーできるガードがいなくてスタメンが固定できず、1月から試合に出る選手が目まぐるしく変わっています。今は木本桜子と桃子の双子がガードをやっていますが、2人ともフォワードやセンターのポジションです。だからガード不在、センターも不在で、スタメンが日替わりで戦うのが新人戦でした。コートに立つ5人を決めるのもままならないような新人戦の近畿大会では、京都精華学園に100点ゲームで負けています。

──その中で、去年は試合に出ていなかった松本莉緒奈選手などの台頭があります。

松本は新人戦も春先の練習試合にもほとんど出ていませんでした。シュートは上手いのですが、気の弱さが出てしまう。双子と仲が良くて、いつも後ろをくっついていて自分が確立できない。彼女は寮生だったんですが、独り立ちしないと通用しないと話して、本人も保護者も理解してくれて一度自宅に戻しました。それを機に、今までは言われるばかりだったけど試合で少しずつ意見できるようになり、そうなると大事なところで3ポイントシュートを決めたり、身長があるのでリバウンドが取れたり身体を張れるようになって、インターハイ予選の途中でスタメンを勝ち取っています。

1年の三輪美良々が来てくれたことでサイズアップでき、リバウンドの問題が大幅に改善されました。松本と三輪が確立できたのがインターハイ予選でした。今のチームはそんなに力があるわけじゃないのですが、チームの結束は相当強いです。そういう意味では自信を持てるようになりましたね。

──そのチームの結束力はどのようにして生まれたのでしょうか?

リーダーの桜子がいて、絶対的な味方として妹の桃子がいます。そこに島袋椛の明るさがあって、他の3年生もですが松本も中学ではキャプテンの経験があり、引いていたのが前に出てきました。1年、2年と私は彼女たちの担任をしてきて、入学当初からみんな明るくて仲良くしゃべっていて、3年間で揉め事も一切ありません。この1年間は本当になんか楽しくやっているんですよね。弱くても日本一を目標に掲げて、負けるたびに「何があかんかった?」とみんなで課題を出して、解決策を考えて。今また日清食品トップリーグで出た課題にチャレンジしていて、最後のウインターカップに懸けようとしています。

「日本一を目指している自分たちがそれでいいのか」

──選手たちの自主性の高さ、コミュニケーション能力の高さは練習からも感じられます。指導の工夫やチームの環境作りなど安藤コーチが意識していることはありますか?

私が何かしているというより、そうやって薫英を作ってきたことが形になっていると感じています。私たちには絶対的なエースも留学生もいません。日本一になるには、人間性の部分が絶対必要で、それは選手はもちろんスタッフも保護者もそうで、どこか一つでも欠けたら達成できないぐらいハードルが高いといつも言っています。

チームに自分勝手な子や後ろ向きな子がいて、私が怒るなんてことは毎年起こりますが、今年はないんです。リーダーが小さな問題も放置せず、下級生の問題でも3年生がちゃんとついて解決までもっていこうとする。今まではどうしても試合がメインで、練習して試合してバスケバスケバスケで細かいところまで目が向きませんでしたが、今年は「私たちが日本一になるには全員でやるしかない」という思いがすごくあります。

──スペシャルな選手がいないチームが日本一になるためにできることは何でしょうか?

私たちが100%を出しても勝てない世界だ、と選手たちによく言っています。それは私たちが日本一になったことがないから。だったらそれを110%、120%にして大会に臨み、大会の中で130%にするみたいに最後まで変化し続けないと、優勝という未知のところには行けない。だから本当に毎日チャレンジして、試合に出るメンバーももしかしたら今日やってるメンバーじゃなく違う子が出てくるかもしれないし、オフェンスもディフェンスも今日とは違っているかもしれません。

──そんな中で、安藤コーチは大阪人間科学大学のバスケ部でも指導しています。12月にはインカレにも行きました。2つのチームを受け持つのは大変ではありませんか?

今年は高校と大学でプレースタイルが違うんですけど、お互いが「大学生のここが良かったね」とか「高校生のこれはやっぱいいよね」と、良い見本としてやれています。あとは寮生活も一緒で、どちらも日本一を目指しているので、お互いに高め合えています。

私自身も忙しいですが、真面目なので会議にもちゃんと行きます。会議にしても「今日は行かなくていいかな」と思う時も正直あるんですけど、それでも真面目にちゃんとやることが子供たちに背中を見せることになります。それに私たちがバスケをやれるのはいろんな先生方の助けがあってこそなので、私にできることをやるのは当然です。

そこで子供たちだけで練習する時間が増えますが、サボろうと思えばいくらでもサボれる中で今の子たちは「日本一を目指している自分たちがそれでいいのか」と考えて、自立して良い練習の雰囲気を作ってくれています。私にベッタリじゃない方がチームとしては良いんです。私個人としては、子供たちが本気で日本一を目指しているので、それを何とかかなえたい思いだけですね。

「もう一つ変化できれば何か起こせるんじゃないか」

──ウインターカップの組み合わせを見ると、一戦一戦どこも気が抜けません。

留学生がいるところが勝ち上がってきたらですけど、留学生のいるチームと3つ当たって準決勝の京都精華学園も留学生のいるチーム、となります。留学生がいる時点で基本的にはリバウンドが20本とか30本、ゴール下で20点とか30点という違いが出てくるので、残りの4人にどう対応するか、ウチが5人でそれをどう超えるか、最後に1点でも超えるかというところです。

──京都精華学園との試合が大会の山場になりそうです。近畿ブロック大会の決勝で勝っていることは自信になるのでは?

新人戦では前半は接戦でしたが後半に離されて100点ゲームで負けました。それで近畿大会では出だしから仕掛けを一つ、さらに後半でもう一つ仕掛けたのですが、正直勝つとは思っていない(笑)。でも10点ぐらい離されたところから残り3分で逆転しました。

そこで一度勝っていますがあとは負けています。一度勝ったからって同じように戦って勝てるとは全然思っていません。インターハイを勝って、国体を勝って、日清食品トップリーグでも勝っている京都精華学園が相手となれば、変化して、成長して、レベルアップして臨まないと。でも逆に言ったら、もう一つ変化できれば何か起こせるんじゃないかとも思っています。

この1年間、バスケが下手だった子たちがこれだけ元気でポジティブで、チームワーク良くやって、日本一になれるという夢を見てきました。インターハイで現実の厳しさを思い知らされましたが、帰って来て落ち込むことも全然なく「また頑張ろう!」って。日清食品トップリーグでもあそこで桜花学園に勝っておけば優勝が見えたのですが、でもそこまでは行けました。まだ足りないものはありますが、目標を果たすにはそこまでいくしかないという感じです。

──先日は保護者も含めて必勝祈願に行ったそうですね。保護者も含めてチーム一丸ですね。

今までは保護者が千羽鶴を作り、お参りに行っていたのですが、今年は桃子と桜子のお母さんが「せっかくなのでみんなで行きませんか」と言ってくださいました。それこそ新しい取り組みで変化です。ウチは保護者も最高なんです。こうやっていろんなことが少しずつ良くなる流れになっているので「今年なんとか」という思いはあります。

──大阪薫英女学院を応援するバスケファンに、見どころやメッセージをお願いします。

ウチの選手たちはイキイキとコートの中を走り回ります。ウチのバスケは頑張ればできるようになるバスケで、真似できます。そう言って勉強に来てくれるチームも多いので、日本の多くのチームに夢や希望を与えられる、感動してもらえるゲームを一戦一戦やっていきたいです。選手たちがチームとして一つになって頑張る姿を是非見てください。