冬場に、雪国のアリーナまで見に行ってみよう!
Bリーグは日本のスポーツの『隙間』を埋めるエンターテイメントだと思っている。野球やサッカーがシーズンオフとなるこの季節に、Bリーグは佳境を迎える。屋外競技が難しい冬の日本海側でもバスケはできる。そう、外が雪でもアリーナの中は温かい。
確か2年前、バスケ業界のある人からこんなことを言われた。「冬の雪国で試合を見てください。北国のイメージが変わりますよ」。スキーやスノボをしない自分は、冬の北国に行く経験が今までなかった。しかし雪国素人の自分が敢えて銀世界に飛び込んでみることで、アウェー遠征を考えるブースターの手がかりが見つかるかもしれない。
もう一つ、「いろんなアリーナを回る」ことが今季の取材テーマだった。自宅から近い東京や神奈川のアリーナでも、一通りのチームは見ることができる。でもそれぞれのチームがどういう環境、空気で試合をしているかを確かめなければ、Bリーグの全体像は見えてこない。
冬場に、雪国のアリーナまで見に行ってみよう。そう決めて1月後半の取材予定を日本海側のアリーナ中心で組んでみた。
18日は秋田ノーザンハピネッツの試合を取材した。前日が仙台で時間の余裕もあったため、交通手段は高速バス。岩手県内に入ると景色が徐々に白くなり、路側帯に寄せられた雪の壁が高くなっていく。
秋田駅東口でバスを降りたのが15時半頃。ヒートテックを着込んでいたこともあり、寒さは特に問題なかった。駅前は広範囲にアーケードが架けられていて、滑ったり濡れたりと心配もなく動き回ることができる。ホテルのチェックインを済ませると、知り合いのレバンガ北海道ブースターと落ち合って「末廣ラーメン本舗」で腹ごしらえ……。
秋田駅西口から最寄りの「市立体育館前」に向かう路線バスは複数の系統があった。本数も1時間に3、4本は出ている。17時40分発が15分遅れで入ってきたのは想定外だったが、20分ほどで無事にCNAアリーナ★秋田に到着した。
写真は見ていたが、いざアリーナを目の当たりにすると威容に驚く。天井が球形で高く、アリーナというよりはドーム球場の風情だ。少しクラシックなデザインは「要塞」「秘密基地」のワクワク感がある。
「東北=ほのぼの」というイメージを何となく持っていて、スタンドには年輩の方やファミリー層が多いのかな? と予想していた。しかしいざアリーナに入ると、若い女性率が首都圏の会場よりむしろ高い。身なりがオシャレな方も多く、いい意味で「余所行き」「お祭り」の華やかさがあった。アウェーの男性ブースターにとって、この会場にはナマ秋田美人を見るという楽しみがある!
周りを見て気づいたのは、シーズンチケット所有者の多さだった。最初は首からIDカードをかけている関係者が多いなと思ったら、実はチケットホルダー。ホームゲームを欠かさず見に来るお客さんが多いということだ。
試合が始まるとコートサイドはピンク一色で、桃色のメガホンを持っていない人を探す方が難しい。コートサイドの『熱さ』は流石にBリーグが誇るクレイジーピンクだ。ただ広報の佐々木さんは「こんなもんじゃない」という顔だった。平日開催ということもあり、2004名の観客数は今季のホーム戦最少。「また来てください。3月の渋谷戦はどうですか?」と熱烈な取材の逆オファーを受けた!
コーチと選手にじっくり話を聞いてアリーナを出ると、もう夜11時を過ぎていて、外は雪が降り出していた。雪道、裏道をかなりのスピードで飛ばすタクシーの運転手の『雪道慣れ』に驚きつつ、宿に戻る帰路だった。
お客さんのリアクションも「分かっている人」のソレ
国境の長いトンネルを抜けると雪国だった――。と書ければ格好いいのだが、1月21日の上越新幹線沿線は群馬県内からすでに雪が積もっていた。今日の行先は新潟アルビレックスBBのホームアリーナ、アオーレ長岡だ。
長岡駅で新幹線を降りるとアルビBBのフラッグや横断幕が並んでいて、自然と気持ちが高まる。大手口南口から右に折れて渡り廊下のような通路を抜けると、そこはもうアリーナだ。雨や雪には全く影響されず、改札から徒歩3分で到着することができる。東京駅から1時間半というアクセスは、県外から見に来た観戦者にとってもかなりありがたい。
アオーレ長岡は市役所とアリーナ、市民交流ホールが一体になった複合施設で、2012年4月のオープンとまだ新しい。アリーナの入口付近には「ナカドマ」という屋根付きのイベントスペースがあり、飲食や物販の屋台も並んでいた。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦は18時開始だったが、14時半から少年団などの前座試合が組まれていて、ナカドマにもブースターが早い時間から顔を出していた。このアリーナには試合を離れても「楽しい時を過ごす」仕掛けがある。
アルビBBは日本初のプロバスケットボールチームであり、新潟はバスケどころでもある。先日のオールジャパン、オールスターで活躍した富樫勇樹は新発田市本丸中OBだし、アルビBBの五十嵐圭も新潟県出身者だ。そんな背景もあるのか、お客さんのリアクションも「分かっている人」のソレが多かった。
新しい施設だけあって照明や音響は本当にしっかりしていたし、大型ビジョンも付いている。バスケの試合はもちろんだが、コンサートなどのイベントにも対応できる施設なのだろう。取材を終えて戻ったホテルはアオーレ長岡から徒歩20秒くらいの場所で、長岡における行動は駅前の半径100メートル圏内ですべてが完結してしまった。
ロッカールームからブリの寿司と焼き鯖の一本寿司!
22日の朝は富山に移動する。特急や新幹線を使う行き方もあったが、鈍行列車を乗り継ぐと3000円くらいで済むし、時間も大きくは変わらない。何より旅情がある。8時前にホテルを出て2両編成の鈍行列車に乗り込み、まず直江津に向かう。
直江津駅から先は「越後ときメキ鉄道」という第3セクターに乗り換えるのだが、ここから泊駅までは1両編成。大火からちょうど1カ月でもあったこの日は糸魚川で「あんこう祭り」というイベントがあり、列車はラッシュアワー並みの大混雑だった。乗車をあきらめるお客さんも出るほどで座ることはできず、昨日のレポートをこの車内で仕上げようと思っていた自分は作業のストップを強いられる。
しかし糸魚川駅でほぼ全員が下りて、乗客は一気に7名まで減った。そこからはゆっくり座って冬の日本海を楽しみながら、上越市出身の五十嵐圭に関する原稿を書き進める。
12時11分に富山駅へ到着し、北口から街に出る。「富山ライトレール富山港線」に2駅乗れば奥田中学校前駅で、そこは八村塁(コンザガ大)、馬場雄大(筑波大)の母校だ。ちょっとのぞいてみたかったが、試合開始が13時なのであまり時間がない。寄り道は断念して、駅前の大通りを真っ直ぐ北上する。
6、7分ほど歩くと、左手に富山市総合体育館が見えてきた。ここが富山グラウジーズのホームアリーナだ。コンコースを歩きまわって売店をのぞくと、まず富山名産「厚みの鱒寿司」に食欲を刺激された。アリーナ外にもゆっくりできるスペースが用意されていて、時間があればここでのんびりしたい……。秋田、長岡に続いて「近場に欲しい」施設だった。
21日にはちょうど富山が「残り10秒」「4点差」から劇的な逆転勝利を収めたばかりだったが、22日の試合も琉球ゴールデンキングスを撃破。個人的には「ホーム3連勝」の旅でもあった。
すべてのインタビューを終え、お礼を言って外に出ようとすると、比留木謙司選手が「ちょっと待ってください」とロッカールームの奥に戻る。「帰りの新幹線で食べて下さい」と渡されたのは富山名物、ぶりの寿しと焼き鯖の一本寿司。それぞれ夕食、朝食で美味しくいただきました!
タクシー運転手の「グラウジーズ、勝ちましたね」
富山駅から都内まで新幹線に乗れば2時間半ほど。少し時間があったので、カフェに寄っていく。スターバックスコーヒーの富山環水公園店は「世界一美しいスタバ」とも言われている名店。店の南側には湖が広がっていて、天気が良ければ立山連峰を望むこともできる。そんな素敵なお店が、アリーナから徒歩5分ほどの場所にあった。
あいにくの曇天で沈む夕日は見損ねたが、そんな素敵なお店で仕事ができてハッピーだった。もっとも、仕事でなくデートで来ていればさらに良かったのだが……。
景色が夜景に変わってまた違う雰囲気が出てきた頃、作業を終えて店を出た。中年男性のタクシー運転手から「観光で来られたんですか?」と聞かれたので「バスケットの取材で」と答える。「グラウジーズ、勝ちましたね」。街の普通の人が3時間前に終わった試合の結果を知っていて、喜んでいる。それもグラウジーズが富山に根付いている一つの証だと思った。
秋田、新潟、富山と三つの土地で気づいたのは、取材現場に活気があるということ。単純にカメラや記者の数が多くて、質問も総じてよく飛ぶ。
首都圏はキー局と全国紙が報道の中心で、個別チームをカバーしきれない。それに対して僕が日本海側で見た3チームは県紙にしっかり取り上げられて、NHKや民放のニュース番組でハイライトが流れていた。タクシー運転手がラジオを聞いていれば、自然とBリーグの結果が耳に入ってくる。そういう大都市圏にはない街の人とバスケの近い距離感がある。
アウェー目線で振り返ると、遠征に特別の障害はない。秋田や富山は少し雪も降っていたが、交通インフラの乱れはなかった。人通りの多い道路や歩道は除雪もしてある。外に出れば多少は寒いが、アリーナの中は快適だ。まして長岡と富山は新幹線の駅から徒歩圏内。そのような移動に、特別な準備は必要ないだろう。
北国の苦労が一つだけあった。それは暖房の効いた室内から外に出て冷気を浴びると、いきなり「もよおす」こと……。お手洗いは室内、車内で済ませましょう。