デマー・デローザン

「この状況を変えるには勝つしかないんだ……」

デマー・デローザンは2009年のNBAドラフトで指名を受けて以来、9シーズンの長きに渡りラプターズでプレーした。カワイ・レナード獲得のために放出され、『チームの顔』と自負していた彼は大きなショックを受けたが、それをNBAのビジネスと割り切ってからは、かつての古巣への愛情を変わらず持ち続けている。

そのデローザンにとってトロントでの試合は、愛情と敬意のこもった特別なもの。だが、現地11月24日の試合は残念な形に終わった。コートを去る時にマサイ・ウジリ球団社長とハグをかわしているが、それは健闘を称え合うとか旧交を温めるものではなかった。試合はあと1秒残っていたし、デローザンは退場処分を受けてすぐにコートを去らなければならなかった。

5勝11敗と勝てていないブルズは、この試合でも低調な出来に終わった。立ち上がりから攻守にエネルギー不足で、運動量もボールへの執着心もチームで戦う姿勢も見せられず。第1クォーターを終えた時点で22-36。リバウンドで5-13、アシストで4-14と圧倒された。この点差のまま試合は推移し、第4クォーターに点差を1桁に縮めたものの、ラプターズを慌てさせるような展開には持ち込めなかった。

第4クォーター残り23秒でパスカル・シアカムが3ポイントシュートを決め、すぐにパトリック・ウィリアムズが3ポイントシュートを返す。この時点で残り18秒、108-120と勝敗は決していた。NBAの『暗黙のルール』では、この状況で得点は狙わないもの。ただクロックを進めて試合を終える。ラプターズの選手たちもその流れだったが、ベンチから「得点!」の声が響き、シアカムがもう1本3ポイントシュートを狙う。デローザンはこれに激高し、退場処分を受けた。

ラプターズが敗者をさらに蹴りつけるような得点を狙ったのは、この試合がインシーズン・トーナメントの対象だったからだ。グループリーグの順位決定には得失点差が関係する。チームが次のラウンドに行くためには少しでも多く得点を、という思惑が働いた。実際はここでの得点が順位に影響することはなかったのだが、デローザンは「そんなことは関係ない。これは試合へのリスペクトの問題だ」と、いつも通り静かな口調で、しかし明らかな怒気をはらんだ声で言った。

「もし逆の立場だったら、インシーズン・トーナメントが関係していても僕は対戦相手へのリスペクトとしてボールを保持する。ショットクロックがもう残っていないんだから、当然の行為だ。僕なら迷いなくそうする」

デローザンはこの試合で19得点3リバウンド4アシストを記録。出場している時間の得失点差は両チームで最も悪い-31だった。タイムアウトの際にタオルをひきちぎり、コートを去る際には脱いだユニフォームを投げ捨てた。試合終了間際の出来事だけが彼のフラストレーションだったわけではない。ブルズは直近の7試合で6敗、これで3連敗を喫している。

デローザンは語る。「これはごまかせない。イライラなんて言葉じゃ足りない。勝敗を争う者としては当然だと思う。チーム全員がフラストレーションを感じている。この状況を変えるには勝つしかないんだ……」