喜志永修斗

開幕から14戦全敗でバイウィークを迎える

富山グラウジーズは2023-24シーズンの開幕から未勝利のままバイウィークを迎えた。まだ長いシーズンの序盤とはいえ、14戦全敗は看過できない。中断期間を前にした宇都宮ブレックスとのホームゲーム第2戦を落とした試合後のチームには、勝ちのないままバイウィークの3週間を過ごさなければならない雰囲気の重さがあった。

この試合では先発ポイントガードが宇都直輝から喜志永修斗へと変更された。高岡大輔ヘッドコーチは、「宇都選手はオールコートのクリエイト力があり、プッシュできます。速い展開に向いた選手ではありますが、リバウンドを取り切れない中でその速い展開を出せず、コール型のポイントガードのほうが今回のゲームには合う」と説明する。

その『コール型のポイントガード』がルーキーの喜志永だ。専修大に在籍していた昨シーズン途中から特別指定でチームに加わり、28試合に出場して先発も任されていた。今夏に富山と晴れてプロ契約を結ぶも、開幕前の9月に上顎骨骨折のケガで戦線離脱。開幕には間に合わず、10月末に復帰。短いプレータイムから始まり、少しずつコンディションを上げるとともに試合勘も取り戻してきた。

ポイントガードは『司令塔』の言葉通り、チーム全体を動かすのが役割で、そのプレースタイルによりチームが変化する。宇都がコートに立てばペースが上がり、ダイナミックな展開が出てくる一方で、喜志永がポイントガードを務める時間帯の富山は落ち着いたディフェンスからしっかりとプレーメークして、ペースは遅くとも確実性が増す。宇都宮との第2戦、立ち上がりは喜志永が前から激しく足を動かしてディフェンスを先導し、宇都宮と競った展開を作りだす。そしてベンチから宇都が出るとチームは積極性を増して勢いが出た。この立ち上がりから接戦が続いた前半は、点差は離れなくても富山のペースで試合は進んだと言える。

喜志永も「自分たちとしてはオフェンスでもギャップを作れて、オープンスリーが入っていなかっただけの認識で良いバスケができていた」と振り返る。彼は高岡ヘッドコーチの考えを理解し、『コール型のポイントガード』として試合を組み立てることを意識していた。

「チームとしてはボールを動かす中で攻めたいです。昨シーズンはジョシュア・スミスという強力なセンターを起点とするバスケで、そこからキックアウトとか、僕とマイルズ(ヘソン)のピック&ロールからズレを作るのが主でしたが、今はジョシュアがいなくなって、チームとしてズレを作っていかないとオフェンスは厳しいです。自分もポイントガードとしてボールが流れるコールをして、誰がホットなのかを選んでいかなきゃいけない。それは試合ごとに変わっていくもので、セットコール一つ、速攻のパス一つで選手が乗るタイミングを作ってあげられたらなと考えています」

それでも宇都宮は難敵だった。前半は互角の攻防に持ち込んだが、後半になって一気に突き放されると、今の富山に押し返す力はなかった。「耐えきれないところをバイウィーク明けまでに修正しなければ」と喜志永は言う。

喜志永修斗

「多くの方が応援してくれて今の自分があります」

富山はベテランの多いチームで、経験がもたらす安定感はあるにしても、開幕から連敗が続くことでの重苦しい雰囲気をはねのけるガッツが必要となると苦しい。そこで誰にでも目に見える形で激しくディフェンスし、リバウンドやルーズボールに飛び込む喜志永のような若手のハッスルは、今の苦境を変えるきっかけになる。

喜志永は言う。「ハッスルするのが僕の役割です。上田(隼輔)選手や(マーフィージュニア)トロイ選手も前から当たったりとか、まずは若手からチームにエネルギーを与えたいという思いはあります。キツさもありますけど、チームが勝てていない現状でここはもっとブラッシュアップしていかないといけないです」

ルーキーであってもプロとして勝てていない現状に責任感を持ち、どんな形で自分が勝利に貢献できるかを常に考える。その姿勢が共感を呼ぶからだろう。今シーズンになって観客数が急増している富山市総合体育館には、喜志永の『10』のユニフォームやTシャツを着てグラウジーズを応援するファンの姿が目立つ。

喜志永自身もファンの期待を感じ取っており、だからこそ「勝つ姿を見せたい」と話す。「今スタンドを見るとタオルだったりユニフォームだったりが目に入ります。多くの方が応援してくれて今の自分があります。でもまだチームが勝てていないので、自分たちをブラッシュアップして、もっともっとファンの方々も巻き込んで勝ちに繋げられるように、チームとしても個人としてもやっていきたい」

そして彼はプロとしての意思をこう語る。「まず勝つことが一番なんですけど、僕がプロを目指す上で一番大切にしてきたのはバスケを通じて誰かを勇気づけられる、自分のバスケで誰かに影響を与えることです。小さい選手、いろんなケガをしている選手はいっぱいいると思うんですけど、そういう人が僕からエネルギーをもらえるとか、影響を与えられるとか、そういう選手になるのが小学校からずっと抱いてきた夢です。僕もいろんな人に影響を与えてもらってここまで来たので」

喜志永修斗

「チームに何が足りないか、何が必要か」

喜志永は身長181cm、ガードでも大型化が進む今のBリーグでは決して体格に恵まれているわけではない。なおかつ大学時代から大きなケガを繰り返し、今シーズンも開幕前にアクシデントに見舞われながら、それを言い訳にせず努力を重ね、プロとして結果を出してきた。

今はまだ結果は出ていないが、手応えは得られつつある。「最初はバラバラだった時もありましたが、僕が復帰したぐらいから『もっとチームにならなきゃ』と再認識して、チームに何が足りないか、何が必要かをあらためてやっています。今は一つのことは徹底できても、その一つが終わると次のことができない。ディフェンスもオフェンスも一つの形が崩れちゃうと本当にできなくなったりるすので、この期間を使ってチームディフェンスもチームオフェンスも磨きを掛けなきゃいけないと思っています」

長いシーズンではあるが、腰を据えてチームの改善に取り組める機会はそう多くない。このバイウィークで富山がどれだけ課題を修正し、どれだけパフォーマンスを上げられるか。ケガが癒えてコンディションも上がるであろう喜志永の活躍にも注目したい。