ジョーダン・プール

弱くて勝てないウィザーズにストレスを溜める

ウォリアーズで『3人目のスプラッシュ・ブラザーズ』と呼ばれたジョーダン・プールには、その序列を上げたいという若い野心があった。目指すのは2番手ではなく1番手。2019年のNBAドラフト1巡目28位指名を受けた彼は、ウォリアーズがクレイ・トンプソンをケガで欠いた最初の2シーズンに優れたシューターとして頭角を現し、3年目の2021-22シーズンにNBA優勝を勝ち取った。

プールがスプラッシュ・ブラザーズの2番手、すなわちクレイに取って代わることを目指していれば、今もウォリアーズの主力であり続け、33歳でケガを抱えるクレイより立場が上になっていたかもしれない。ただ、クレイがチームにもたらすディフェンスを始めとした犠牲的精神をプールは学ぼうとしなかった。彼はあくまで『チームの王様』であり『NBAを変えた男』であるステフ・カリーになりたかったのだ。

そして今オフ、プールはウィザーズにトレードされた。彼はドレイモンド・グリーンに練習場で殴られたことを始め様々なトラブルがあってもなおウォリアーズの『王朝』を継承するという役割に執着していたが、移籍が決まるとすぐに気持ちを切り替え、「ウォリアーズでやるべきことはすべてやった。自分のチームを率いる準備はできている」と高らかに宣言した。

しかし、開幕からの10試合でプールが見せているのは、ステフ・カリーのひどい劣化版で、ニック・ヤングよりもひどいパフォーマンスだ。3ポイントシュートを放ってリングに背を向ける。あるいはゆったりしたリズムでドリブルをついていたかと思えば突然ディープスリーを放つ。カリーにはそれを決めるという期待感があるからエンタテインメントとして成立するが、プールにはそれがない。

決定的な違いはチームが勝てないことだ。ウィザーズは2勝8敗。再建を始めたチームが勝てないのは無理もないが、その言い訳が成り立たないほどプールのパフォーマンスは悪い。NBAレジェンドのケビン・ガーネットは「彼が見せているのは華やかさではなく傲慢さだ。もう少し真面目にプレーすべきだ」と指摘する。

ウォリアーズとウィザーズを比べれば戦力には大きな差がある。チームメートのレベルが低いことにプールは大きなフラストレーションを抱えているが、『自分のチームを率いる』とはそういうことだ。チームが勝つために必要なことに誰よりも集中し、その姿を見せることで仲間たちを引っ張り、引き上げていかなければならない。ところが今の彼はタイムアウトでコーチの指示を聞かず、チームメートにたしなめられては「僕のチームだろ!?」と言い返している。

ウィザーズ周辺では、タイアス・ジョーンズとカイル・クーズマにチームを託し、プールはウォリアーズ時代のようにセカンドユニットの得点源としてプレーさせるべきとの意見が出ている。もし指揮官ウェス・アンセルドJr.がチームが勝つためにそう判断するのであれば、プールは従うべきだ。

プールに悪気があるわけではなく、彼自身は純粋に新天地であるウィザーズの勝利に貢献したい気持ちでいるのだろうが、周囲に献身を求めるより先にまずは彼自身が自己犠牲を払わなければチームは掌握できない。勝ちたければ、そのためのプロセスを彼自身が踏む必要がある。今回それが理解できないようであれば、彼のキャリアはいよいよ行き詰まってしまう。