荒谷裕秀

偉大なベテランや代表選手が周りにいる環境「ルーキーシーズンからずっと恵まれている」

長崎ヴェルカは島根スサノオマジックとの水曜ゲームに77-73で勝利し、戦績を6勝1敗(西地区3位)とした。

B1昇格組ながら開幕戦で千葉ジェッツに連勝し、その後も好調をキープしてスタートダッシュに成功。チームの礎を築いてきた継続組と新戦力が早くも噛み合い、『B1の壁』を感じさせない戦いぶりを見せる長崎だが、特に荒谷裕秀は新天地でその輝きを増している。

荒谷は白鷗大4年時に特別指定選手として宇都宮ブレックスに加入すると、翌シーズンにはローテーション入りし、Bリーグ優勝を経験。昨シーズンはさらなる飛躍が期待されたが、ほぼ横ばいの数字でブレイクには至らず、チームはチャンピオンシップ進出を逃した。それでも長崎に加入した今シーズンは、ここまで7試合中1試合で先発を務め、平均出場時間は昨シーズンの約2倍となる20.42分とチームの中心を担っている。プレータイムの増加に比例してほとんどのスタッツも向上し、平均6.7得点、3.1リバウンド、3.1アシスト、1.1スティール、3ポイントシュート成功率62.5%と高水準のプレーを続けている。

「(長崎に移籍して)良かったというのはまだ難しいですが、自分の強みを生かせるバスケットだと思って移籍してきたので、それが出せているのはすごくいいかなと思っています」

プレータイムが増え、好調なパフォーマンスができていれば、素直に喜んでもいいように思える。それでも、荒谷が現状に浮かれないのは浮き沈みのあった宇都宮での経験があるからだ。そして、馬場雄大が加入し、新天地でも日本代表がチームメートとなるなど、これまでの素晴らしい環境への感謝を忘れていない。

「(宇都宮には)ルーキーシーズンからいて、1番最初はディフェンス面で苦労しました。組織のディフェンスと、このリーグの高さに対応するのに最初は苦労しましたね。宇都宮では一番ベテランの田臥(勇太)さんや渡邉(裕規)さんがいて、日本のトップ選手の比江島(慎)さんもいました。そういう環境で何年か学ばせてもらって、今ヴェルカで試合に出させてもらっています。また、ここで同じように長い間戦っている(野口)大介さんだったり、代表で活躍している雄大さんなどと、同じ環境でバスケットができているのは、ルーキーシーズンからずっと恵まれているなと思っています。ゲームに臨む姿勢だったり、ベテラン選手からずっと学んでいきたいと思います」

荒谷裕秀

前田HC「ポテンシャルは高いモノを持っていますが、まだ出し切れていない」

長崎を指揮する前田健滋朗は「彼の良さは他の選手にはない感性」と荒谷のスタイルを表現する。「相手の弱いところや相手の隙を突くことができるのは彼の良さだと思っています。また、ディフェンスであれだけ身体を張れる選手はなかなかいないですし、他にいないタイプで、替えの利かない選手です」

189cmの荒谷はスモールフォワードとしてそこまで身長が高いわけではない。それでも、スピードに頼らない緩急を使ったドライブで相手を抜き去り、時にポストアップして多彩なステップからインサイドでも得点するなどスキルが高い。チームにフィットし、ここまでそれなりの結果を残しているが、前田ヘッドコーチはさらなる高みを目指してほしいと期待を寄せている。

「ポテンシャルは高いモノを持っていますが、そこをまだ出し切れていない状況が続いていたので、このチームでしっかり良い選手になろうという話をしています。よくやってくれていると思いますが、まだまだ良い選手には遠いと思うので、しっかり良い選手になってほしいです」

そして、荒谷自身も指揮官からの期待を実感しているという。「ここ何試合か、本当に大事な時間を任せてもらえていて、自分としても責任を持ってやらなきゃいけないと思っています、本当に期待してくれていると感じますし、それに応えたいと思って毎日練習しています」

選手の多くはプレータイムの増加を理由に移籍を決断するが、選手である以上コートに長く立ちたいと思うのは当然だ。その願望が叶い、さらにパフォーマンスも高まれば、その移籍は成功と言える。そんな成功のレールに乗った荒谷は充実した表情を浮かべ、このように語る。

「もともと『ヴェルカスタイル』と言われている、リーグで一番速いペースで、ファイブアウトでドライブしてバスケットを作っていく部分は自分の得意なバスケットだと思っていました。マッチしていると思って移籍してきたので、そこはイメージ通りですごく楽しいです」

もちろん、これまでのすべての経験が現在の自分を作ることになり、宇都宮の経験があるこそ今の荒谷がある。酸いも甘いも知る若手スモールフォワードは、旋風を巻き起こす長崎の中心選手としてこれからも輝き続ける。