19年間、4度の優勝を果たしたNBAキャリアに幕
去年の夏、アンドレ・イグダーラは現役を続けるかどうか最後まで悩んだ。2021-22シーズンはケガ続きで、チームは優勝したもののプレーオフでも存在感を発揮できなかった。高いバスケIQと勝負強さを備えた万能のシックスマンで、2015年のNBAファイナルでレブロン・ジェームズを封じることでNBA初優勝とともにファイナルMVPを受賞。そのプレーオフでの勝負強さが消えてしまった以上、自分にできることはないと考えていた。
それでも指揮官スティーブ・カーが、ロスター枠を空けてイグダーラを待っていた。「彼はロッカールームで他に代えの利かないリーダーだ。いや、そんな言葉では収まらない大事な存在だ」。長らく一緒に戦ったカーのそんな気持ちに応えて9月に現役続行を決断するも、39歳になってコンディションを上げるのは簡単ではなく、レギュラーシーズンでは8試合のみの出場、プレーオフでは出場機会がなかった。
今回も決断には時間がかかったが、現地10月20日に『Andscape』の取材を受ける形で現役引退を発表。19年間、4度の優勝を果たしたNBAキャリアに幕を引いた。「最高のタイミングで引退の決断を下すことができたと思う」と彼は言う。
ウォリアーズは常に彼の現役続行の返事を待っていた。他のチームからのオファーも複数あった。「知り合いを通じてオファーを受けることもあったし、ゴルフトーナメントに出場したら、その参加者から打診されたこともある。あれは面白かったな」とイグダーラは明かすが、彼が想定していたのはウォリアーズでのプレーだけだ。「ウォリアーズとの関係性は常に良いし、僕は常にステフィン・カリーとプレーすることを考えていた。クリス・ポールと一度一緒にプレーしてみたかった気持ちもある。きっと楽しかっただろうね。クリスとはライバル関係にあったし、勝つためには何でもやる男だから誤解されることもある。でも僕は選手組合で彼と一緒だったから、その仕事ぶりは分かっていた」
最終的に現役引退を決めたのは、「まだ現役を続けることはできるけど、身体がどこまで耐えられるかという問題がある」からだ。今後は順調に拡大しているITビジネスへの投資に注力し、家族との時間もこれ以上は犠牲にしたくないと考えている。
それでも「もうバスケにはかかわらない?」と質問されると、イグダーラは「その扉を閉めることはない」と答えた。「僕にとってバスケをやるのはとても自然なこと。ビジネスのことを考える時には、そこにバスケがある。僕は自分のバスケIQに自信があって、試合がスローモーションのように進むと感じたことがある。だからレブロンや(ラジョン)ロンドが好きなんだけど、ゲームの先が読める。それはビジネスでも言えることなんだ」
そしてウォリアーズとそのファンへの思いをこう語る。「全盛期を迎えた僕がウォリアーズに来たのは完璧なタイミングだった。お互いを信じ、正しくて美しいプレーをした。すべてが完璧に機能した。自分のこれまでの努力が実を結ぶ。起きるべくして起きたと言ってもいい。そしてファンは常に僕に愛と敬意を示し、僕がチームにもたらすものが何かを理解してくれた。だから僕には自分で何かをアピールする必要がなかった。スポーツの世界でそれは本当にありがたいことなんだ」
ウォリアーズの経営陣は、以前からイグダーラが引退する際には背番号9を永久欠番にすると決めている。「クールだね」と彼は言う。「よっぽどずば抜けた才能がない限り、そのレベルの尊敬を受けるには勝つ必要があり、勝てるチームにいなければならない。僕らが勝者であること、に意味があると思っているよ」