「僕らにはすでにケミストリーが生まれている」
前半残り30秒、ビクター・ウェンバニャマがトレ・ジョーンズにボールを預けてリムへとスピードを上げる。ジョーンズがすぐさま浮き球のパスを返すと、ウェンバニャマはそのままアリウープを叩き込んだ。プレシーズンゲーム2戦目、ウェンバニャマにとってはホームでのデビュー戦。サンアントニオの観客の度肝を抜く挨拶代わりの一発だった。
ウェンバニャマは試合後にこのアリウープを振り返り、「ボールが高かったかどうかは問題じゃない。お互いのことが分かっていれば大丈夫」と語ったが、ジョーンズはウェンバニャマのことを分かってはいなかった。アリウープを狙ったパスではなく、ただ長身の彼が次のプレーに入りやすいようにボールを返しただけだったからだ。ジョーンズは言う。「気が付けばイージーダンクを決めていた。どんなパスを出したって特別なプレーに繋げてしまう。とんでもないヤツだよ」
これに対してウェンバニャマはこう語る。「僕のそう長くはないキャリアの中で、チームメートはいつも僕にどうプレーを合わせるかを学んできた。僕のプレーにチームメートが呆気に取られることは、これまでにも何度かあった。でも、ここでは世界最高レベルのチームメートは驚異的なスピードで学んでくれる。僕らにはすでにケミストリーが生まれている」
他にもリムからかなりの距離があり、間にトーマス・ブライアントが立ちはだかっていたにもかかわらず、その上から叩き込んだダンクもインパクト満点だった。23分のプレーで23得点4リバウンド4アシスト3ブロック。この中で『衝撃的』でなかったのはフリースローによる得点ぐらい。対戦相手のヒートは、ジミー・バトラーもバム・アデバヨもタイラー・ヒーローもプレーしていない。それでも、ウェンバニャマの計り知れないポテンシャルを披露するには十分だった。
恐るべきはその多彩さだ。身長とウイングスパン、しなやかな動きとスピード、ボールハンドリング。そのすべてを高いレベルで兼ね備え、巧みに使いこなすことで様々なプレーを可能にする。ウェンバニャマは「試合ごとに自分のプレースタイルを変えること、試合の途中でも必要に応じて変えていくことができているし、それが僕にとっての成長のカギだと思う」と言い、どのプレーが一番得意かと聞かれると「特にない。いつも同じプレーでは飽きてしまうよ」と続けた。
そして名将グレッグ・ポポビッチは、ウェンバニャマの才能にすべてを託すつもりはない。彼の能力を最大限に活用すべく、チームに工夫を加えている。前の試合ではザック・コリンズがセンターでウェンバニャマはパワーフォワード起用だった。今回はコリンズが欠場して、チャールズ・バッシーがセンターで先発し、ウェンバニャマはチームのラインナップ次第でパワーフォワードとセンターを交互にこなした。さらにジェレミー・ソーハンをポイントガードで起用するビッグラインナップを試すなど、意欲的な挑戦に出ている。
「チームについて学ぶべきことはまだまだ多いけど、僕らは正しい道を進んでいる」とウェンバニャマは言う。「新しいことをたくさん学んで、吸収する。その努力は欠かさないよ」