前田悟

無得点もほぼフル出場、プラスマイナスはチームトップ

10月8日、京都ハンナリーズはホームで横浜ビー・コルセーズと対戦し、75-77と惜しくも敗れた。

この試合、京都は第1クォーターで河村勇輝を中心とした横浜BCの猛攻を止められず2桁のリードを許してしまう。しかし第2クォーター以降は、横浜BCの得点を各クォーター20失点以下に抑える粘り強いディフェンスを見せて追い上げる。終盤まで僅差の激闘が続いたが、河村の3ポイントシュートなどここ一番の遂行力で横浜BCに上回られ、あと一歩の差で敗れた。

開幕戦となった7日も67-81で敗れた京都は、開幕節を連敗で終えてしまった。しかし、オフに9名が新加入と大きく生まれ変わったチームは、昨シーズン以上の可能性を秘めていることを示した。さらに、2試合続けて4300人以上と満員かつ、MCの呼びかけではなく観客から自発的に『ゴー・ハンナリーズ』のコールが起こるなど会場の雰囲気も素晴らしく、会場全体に熱気があふれていた。特に2試合目は最後まで盛り上がり、ワールドカップをきっかけにBリーグ観戦に興味をもった新規ファンに「また、来てみたい」と思わせる楽しさが間違いなくあった。

開幕節で目立った選手の筆頭は新加入の岡田侑大だ。元々、非凡な得点能力に定評のある岡田だが、京都ではボールプッシュの役割をほぼ担うなど、ポイントガードとして攻撃の起点となっている。初戦は16得点7アシスト、2戦目は12得点11アシストのダブル・ダブルと大暴れだった。

同じく新戦力の前田悟のプレーも特質すべきものだった。初戦は27分出場で10得点を記録した前田だが、2戦目はシュート4本すべて失敗の0得点とオフェンスは沈黙した。それでも35分45秒というほぼフル出場に近いプレータイムで、出場時の得失点を表すプラスマイナスはチームトップのプラス11だった。2点差での負けを考えると、いかに前田が貢献度の高いプレーを見せていたのかがわかる。

前田悟

「これだけ出ていた中で負けてめちゃくちゃ悔しい」

川崎ブレイブサンダースに所属していた昨シーズンまでの前田は、持ち味の3ポイントシュートの調子によってプレータイムが変動し、シュートが不発だとベンチに座る時間が長くなることが多い選手だった。だが、京都での彼はシューターとしてだけでなく、しっかりと守れる3&Dとして信頼されている。

ロイ・ラナヘッドコーチは前田の守備力について、次のように語る。「悟はサイズがあり、多彩な役割を担えるディフェンダーです。彼はとてもタフで、今日もいろいろな選手が河村選手のマークについた中、とても良い仕事をしてくれました。この守備力は、悟の価値を大きく高めていると思います」

開幕2試合で3️ポイントシュート6本中1本成功と不発だった攻撃面についても、指揮官は心配していない。「最初の2シーズン、彼は富山でとてもよくシュートを決めていました。昨シーズンは(富山時代と比べて)シュートが入っていなかったですが、私たちは彼がシュートのリズムを取り戻してくれると期待しています。実際、少し時間はかかるかもしれないですが、彼はアジャストして取り戻してくれるでしょう」

前田本人は得意の3ポイントシュート不発に加え、終了間際に、決まれば同点となるゴール下のシュートをブロックされたこともあり、「これだけ試合に出ていた中で負けてめちゃくちゃ悔しいです。最後、シュートを決められていたら同点でしたし、自分の不甲斐なさをすごく感じました。もっとレベルアップしたいです」と反省を強調するが、ここまで悔しさを露わにできるのは、ここ2年間では得られなかった、接戦の勝負どころでコートに立つ中心選手としての役割を果たせているからこそだ。

ロイ・ラナ

ラナHC「悟には『The Guy』になってほしい」

そして前田は、ディフェンスでも信頼されていることに対して「チームが始動する際、『シュートは水物だから、入らない時にも良い影響を与える選手になってほしい』と言われています。チームのベースであるディフェンスとルーズボールへの激しさを体現したいと思っています」と、良い意味で得点にこだわらなくなったと心構えの変化を語る。

「今日はマシュー(ライト)のシュートが当たっていたので、自分はディフェンスにフォーカスしてやっていました。今まではシュートを決めてナンボというところもありました。打てないとフラストレーションを溜めて、ディフェンスもよくない感じになっていました。今はそうではなくて、我慢して最後に重要な場面で決めればいいというメンタルです。(今日は外してしまったので)今度はしっかり決め切れるようになります」

前田の総合力を評価するラナヘッドコーチは「私たちは悟に、チームの中心選手(The Guy)になってほしい」と語る。それがメディア向けの社交辞令でないことは、起用法が何よりも示している。「彼は複数のポジションを守れ、オープンシュートをしっかりと決めることができます。彼を獲得できて興奮しています。今日の彼は素晴らしいプレーでした。今日のスタッツだけを見れば岡田は素晴らしく、悟はそうではないです。ただ、試合を見れば悟は岡田選手と同じくらいの活躍したことがわかると思います」

開幕節、試合のハイライト映像では岡田の躍動するプレーが大きく取り上げられていた。だが、岡田と共に前田も新たな大黒柱としてコートで存在感を発揮し、京都の飛躍に欠かせない選手であることが改めて明らかになった。