マーケル・フルツ

「エネルギーがあればチームは変えられるはずだ」

マジックは長らく勝てないチームの立場に甘んじている。直近の11シーズンでプレーオフ進出は2回、勝率が5割を上回ったのは1回だけで、プレーオフのファーストラウンドを一度も突破していない。開幕を控えた今も、さして期待されない立場にある。

ドラフトでは1巡目6位でアンソニー・ブラックを指名。楽しみな逸材ではあるが、とにかくガードが多すぎる。マーケル・フルツにコール・アンソニー、ギャリー・ハリスとジェイレン・サッグスがひしめき、ブラックがブレイクすれば、その分だけこのガード陣の活躍の場が減る。フロントコートにはパオロ・バンケロとウェンデル・カーターJr.がいて、ジョナサン・アイザックが長いケガから復帰するが、ビッグネームの補強があるわけではない『継続路線』で、勝てないチームを劇的に変える要素があるようには思えない。

シーズン始動に際してマーケル・フルツは「今シーズンの僕らはカンファレンスを突破できると思う」と発言した。だが、マジックを長年取材している記者にも聞き間違えたかと思われ、「それはカンファレンスで優勝するという意味か?」と聞き直された。これにフルツは全く動じることなく「そう、それが僕がこのチームに抱いている感覚なんだ」と答えている。

メディアもファンも、彼の言葉に熱狂したりはしない。負け続けるチームをずっと見てきたのだから当然だ。それでもフルツが自分たちの可能性を信じるのは間違いではない。他の誰も信じてくれないのだから、彼ら自身が信じなければ、世代を超える低迷期を抜け出すことはできない。

フルツはこれでNBA7年目のシーズンを迎えるが、1年を通してフル稼働できたことはほとんどない。昨シーズンは60試合に出場することができた。平均29.6分出場、14.0得点、5.7アシストはすべてキャリアハイの数字。少なくともフルツ個人は、ケガとイップスに悩まされてきた長い低迷期を抜け出した。次はチームで成功をつかむ、と気合いが入っている。

フルツは言う。「毎朝、目覚めた時にどこも痛くないだけで僕は幸せだ。毎日みんなと一緒にコートに立って競争し、ハードワークしている。サイドラインに座って見ていた頃と比べると本当に楽しいよ。トレーニングキャンプが始まって5日、チームは毎日向上している。全員が良いエネルギーと正しい集中力を持ち、失敗すればそこから学ぶ。そんな姿を見ていると自信が沸いてくるんだ」

ガードが多すぎるロスターについても、フルツはポジティブにとらえている。「たくさんのガードがポジションを、プレータイムを争っているけど、みんな良い関係にある。コート上ではベストを尽くして競い合い、コートを離れればお互いをサポートして応援する。ガードはたくさんいるけど、複数の役割をこなせる選手が多い。これがチームの強みになるはずだ」

「驚くような変化があるわけじゃないし、これまでのチームが未熟だったと言うつもりでもないけど、今回は誰もが『何か特別なことをしたい』という気持ちを持っている。そのエネルギーがあればチームは変えられるはずだ。僕らはもう大きな一歩を踏み出していると思う」

マジックはこれまでとは違うチームだとフルツは言いたいのだが、それは言葉で伝えるものではなく、実際に行動して、結果で示すしかない。東カンファレンスはNBAファイナルに進んだヒート、大型補強のバックスとセルティックス、チーム内にトラブルを抱えながらもタレント豊富なセブンティシクサーズばかりが話題となるが、そんな雰囲気を今シーズンこそ変えられるとフルツは信じている。