昨シーズン、琉球ゴールデンキングスはBリーグ初となる悲願のリーグ優勝を成し遂げた。リーグ屈指の観客動員を誇る稼ぐ力と合わせ、競技面、ビジネス面の両方でリーグを牽引する琉球の屋台骨となっているのが、チーム創設時から在籍する安永淳一ゼネラルマネージャー(GM)だ。NBAネッツの球団職員として10年以上に渡りスポーツビジネスの最前線にいた知見、行動力で琉球を日本バスケ界の顔となるチームへと成長させた。日本バスケ界随一の敏腕フロントに昨シーズンの振り返り、今シーズンへの意気込みを聞いた。

「選手だけでなくスタッフ、職員の給与水準も上げないといけない」

――マクヘンリー新コーチなど、選手だけでなく年々、コーチやトレーナーなどスタッフ陣も充実している印象です。

今年、僕たちはスタッフの数がたくさん増えました。人数を増やして12名、13名の選手たちと丁寧に接しないと、試合に勝っていけません。そのためにコーチ陣も体制強化を行っています。今はスカウトやドクターといった部分も充実させようとしていて、実際にそれができつつあります。

モデルとしているのはNBAですね。シューティングコーチ、スキルコーチ、ビッグマンコーチ、 アシスタントコーチ、アソシエイトヘッドコーチなど、コーチがたくさんいて、NBAにいた時は『みんな何をやっているの、暇なんじゃないの?』と感じていました。今になって分かるのは暇という言い方は怒られますが、余裕があることが大切ということです。コーチも日々の仕事に追われていると、新しいことを学ぼうとか、いつもと違うアプローチで接してみようなど、余裕が持てません。また、コーチの人数が少ないとどうしても主力選手たちのケアが優先されて、控えの選手たちは後回しになってしまいがちです。僕たちはチームで戦うので11番目、12番目の選手たちも蚊帳の外にならない、そんなスタッフ体制が必要です。

――ビジネス面の話題も聞かせてください。2026年から始まる新たなリーグのフォーマットでは、サラリーキャップが導入される予定です。率直な感想を教えてください。

まず、選手の人件費ばかりにお金を使って、球団職員などの待遇が良くならないのはいけない。バスケットボール界が発展するためには、もっとバランス良くお金を使うべきで、そのためにサラリーキャップを導入という考えには賛成です。僕がネッツで働き始めた当時、給料はそれこそ月収10万円くらいでした。副社長から「(スター選手の)デリック・コールマンと大型契約を結んだからお金がない、我慢してくれ」と言われて、僕はそれがプロスポーツなんだと思いましたが、それが当たり前なのは良くないと今は考えています。

また、サラリーキャップの金額がどのレベルになるのか確定しておらず、僕たちが使い切れない金額になる可能性もあります。キャップの中身に関係なく、選手だけでなくスタッフ、職員の給与水準もより多くの人が働きたいと思うように上げないといけないです。それができないと、琉球ゴールデンキングスで働きたいと思う人がたくさん出てこないですし、僕たちが成長するのも難しくなってきます。例えばプロバスケットボール選手を目指していたけど、ケガなどがあって無理となった人に、スタッフになりたい、プロバスケットボールチームで働きたいと思ってもらえる環境整備は本当に大切だと思います。

「アジアの国際リーグが成熟する時には、他のチームよりも一歩先を歩んでいたい」

――先日、キングスは『沖縄を世界へ』という新たなスローガンを発表し、特にアジア市場への進出を目標として掲げました。その上で、昨シーズンに続いて出場するEASL(東アジアスーパーリーグ)など、アジアでの戦いへの意気込みをお願いします。

昨シーズン、僕たちは日本一になりましたが毎年、優勝を目指して戦っていくチャレンジャーのところは変わらないです。ただ、2023年に関してはキングスが日本一の看板を持ってアジアと戦っていくことが大事だと思います。昨シーズンのEASLはチームの調子が悪い時と重なったこともあり、結果を出せなかったです。ただ、次にやる時には負けない自信を得ることもできました。リーグ連覇、天皇杯で初優勝も本当に大切な目標です。それと同じく、東アジアNo.1のタイトルも重要です。例えばヨーロッパでは、レアル・マドリード、バルセロナ、オリンピアコス、パナシナイコス、CSKAモスクワなどいろいろなチームが名門の地位を得ています。だけど、アジアではこれまでクラブ間の国際大会が活発に行われていないこともあって、ヨーロッパのようにはなっていません。だからこそ今、ここで頑張って這い上がってEASLでしっかり結果を残し、アジアを代表するチームの地位を獲得したい。アジアの国際バスケットボールリーグが成熟する時には、他のチームよりも一歩先を歩んでいたいと思っています。もちろん、目の前の1勝をつかむために全力を尽くしていますが、同時に常に先を見据えて戦っています。

――アジアで強豪の地位を確立することは、キングスが目指す海外からのお客さんを呼ぶという目標にも繋がっていきますか。

はい、キングスとしては沖縄県の観光に寄与したいです。台湾やフィリピンといったバスケットボールが人気スポーツの国の人々に、日本のバスケットボールに興味を持ってほしいですし、キングスの試合を見てもらいたいと本気で思っています。例えば僕らが広島に出張に行ったら「原爆ドームを訪れ、スケジュールが合えばプロ野球の広島東洋カープの試合を見たいね」といった会話をするように、「沖縄に行ってマリンスポーツを楽しんだら夜はキングスの試合を見ようか」という人を増やしていきたいです。観光業は沖縄県を代表する産業の1つです。沖縄のチームとして、観光業に寄与することは最も大切だと思っています。商売でいったら観光、それ以外では子どものため、この2つがチームの存在意義です。この両輪がうまくはまって進んでいくことがキングスのやるべき活動です。

――台湾で元NBAのスター選手であるドワイト・ハワードがプレーし、大きな注目を集めました。同じように元NBAのスター選手を獲得し、国際的にも話題になることはできると思いますが、可能性としてありますか。

ドワイト・ハワードのような選手の獲得は考えていないです。それこそ僕の付き合いで「引退する前に、キングスでプレーしてほしい」とお願いしたら来てくれるNBAのスター選手はいるかもしれません。昔だとビンス・カーター、ジェイソン・キッドのような選手たちと交渉することはできたと思います。ただ、ハワードのような存在に頼ってお客さんが増えたり、注目度を上げることができても、これは一過性のもので持続性を期待できないです。僕たちが目指しているのは逆でアメリカ人選手なら、ギリギリでNBAに入れなかったけどNCAAですごい活躍をして生きのいい若い選手を連れてくる。身体能力が高くて、元気の良いプレーを日本のコートで見せてもらうことが、日本のバスケの繁栄に繋がってくると思います。

――最後に、今シーズンはどんな戦いを見せていきたいかを聞かせてください。

ありきたりかもしれないですけど、1秒たりとも気を抜かない戦いをする。それができることでお客さんを試合に釘付けにできます。だからこそ、僕たちはタイムシェアをして常にコートに立っている5人が最高の集中力を発揮するスタイルで戦います。これをとことんやり続けることで、お客さんに感動を与えることができる。それによって勝つだけでなく、負けたとしても拍手をしてもらえる、琉球ゴールデンキングスらしいプレーを貫いていきたいと思います。