ロードマネージメントに対する抑止力としての効果を疑問視する声も
NBAの巨額の収入を支えているのは放映権収入だ。近年はTV局だけでなくAppleやAmazonといった新たな企業もNBAの試合配信に興味を持っており、NBAとしては収入をさらに拡大できる絶好のチャンスとなっている。
このチャンスを最大限に活かすために大事になってくるのは、試合のクォリティーをどれだけ担保することができるか。中でも、スター選手が出場するかどうかは試合配信のクオリティーにおける最も重要な要素だろう。熱心なNBAファンはさておき、一般的なスポーツファンがNBAを見ようとした際、例えばレイカーズ戦なのにレブロン・ジェームズ、ウォリアーズ戦なのにステフィン・カリーが欠場しているのが分かった上で、そのまま試合視聴を続けるのかといえば疑問だ。
特にここ最近のNBAでは、ロードマネージメントの一環として、各チームの主力選手たちがコンディション調整を理由に連戦を避け、試合を欠場する機会が増えている。巨額を投じて放映権を獲得する側からすると、視聴率に大きな影響を与えるスター選手の欠場が珍しくない現状は、値段の引き下げ材料でしかない。NBA側もこの点については問題視しており、例えば2023-24から導入される新労使協定においては、リーグMVP、守備MVP、オールNBA、新人王などの主要アワードは65試合以上出場の選手が対象とするなど、スター選手の出場を促す措置を講じている。
さらにNBAは、スター選手がさらに欠場を減らすための策として罰金処分の導入を考えている模様だ。『ESPN』のエイドリアン・ウォジナロウスキー氏によると、NBAの競技委員会は全国放送での試合における選手の休養、複数のスター選手が同時に休養することへの厳しい処置を取るガイドラインの導入を目指している。最初の違反で10万ドル(約1,500万円)、2回目で25万ドル(約3,700万円)、さらに追加で違反するごとに100万ドル(約1億5,000万円)の罰金となる内容を提案した模様だ。また、『The Athletic』のシャムス・カラニア氏は、このスター選手の定義について「過去3シーズンにおいてオールスター、もしくはオールNBAに選出にされた選手たち」と伝えている。
この罰則はかなり重いものと言えるが、一方でどこまでスター選手のロードマネージメントに対して抑止力が働くのかは疑問だ。NBAに所属するほぼすべての主力選手たちは、過密日程を乗り切るためにどこかしらに痛みを抱えながらプレーしている。彼らが医師の診断書に基づき欠場すれば、リーグは処罰を下すことはできない。また、今のNBAには『COVID-19(新型コロナウィルス)に関連しない病気』という欠場項目があり、これを用いることで罰金の対象を回避できると見られる。
NBAの収入が増えることは、サラリーキャップの増加にも繋がり、選手全体の利益アップとも関係している。とはいえ、すでに大金を勝ち取っているスター選手たちにそのための犠牲を強いることは間違っている。一方でレギュラーシーズンを短縮することはそのままリーグ全体の収入減を意味する。現状、この問題に解決策を見つけることは至難の業だ。