渡邉裕規

文=丸山素行 写真=鈴木栄一

栃木のゲームプランに沿った『我慢比べ』で敗れる

栃木ブレックスと千葉ジェッツによる天皇杯決勝は、40分間で決着がつかず延長にもつれる、稀に見る激闘となった。

リードチェンジを繰り返す中、延長残り17秒にはライアン・ロシターがフリースローを2投成功させ、栃木が1点をリードした。だがラスト3秒で放った富樫勇樹の3ポイントシュートがリングに吸い込まれ、千葉が土壇場で逆転勝利を挙げた。

スコアが示すように、両チームの実力に差はなかった。それでも勝者と敗者には天と地ほどの差がある。勝敗を分けたものは何だったのか──。そう質問された渡邉裕規は少し考え、「オフェンスリバウンドを取った時に、もうちょっと決めきる力だったり、(リバウンドを)取り切る力だったりというところ。本当にあとちょっとだったと思います」と答えた。

栃木はロシターやジェフ・ギブス、竹内公輔らインサイド陣の強みを生かし、オフェンスリバウンドで23-10と圧倒した。だが栃木が1点リードして迎えた残り1分30秒すぎの場面では、3度もオフェンスリバウンドを奪いながら、それを得点に繋げられず、ポゼッションの数では上回ったものの、セカンドチャンスを生かせない場面が目立ったのも事実だ。

45分間で10ターンオーバーとミスも極力抑えられており、ロースコアゲームに持ち込んだという点を見ても、栃木のゲームプランに沿って試合が展開していた。渡邊も「ウチのプランで進んでいたと思う」と認める。こうした接戦、我慢比べの展開に滅法強いのが栃木なのだが、今回はあと一歩のところで千葉に敗れた。

何が勝敗を分けたのか、渡邉も懸命にその原因を探したが、単なる結果にしか行きあたらない。「なぜですかと言われたら、決めきれなかった、取れなかったと言うしかないです。いろんなコールをすれば良かったとか、もうちょっとコートを広く使ってとか、振り返れば何個でもあります。だから決めきれなった、取り切れなかったということです」

渡邉裕規

「最後に決めた富樫君が偉いということ」

「決めきれなかった」栃木に対し、千葉は苦しいゲーム展開で粘った末に、富樫が「決めきった」ことで接戦をモノにした。それでも栃木は持ち前の堅守を発揮し、どのチームも抑えることが難しい富樫を40分間0点に封じていた。それだけに、ラストショットが外れていれば、英雄から戦犯へと評価は変わっていたはず。それでも渡邉は富樫をリスペクトする。

「あそこはタフショットで、打たせてよかったシュートです。だから、最後に決めた富樫君が偉いということ。そこが僕と富樫君の差、僕の力不足でした」

1本のシュートが勝敗を分ける。その言葉通り、どちらに転んでもおかしくない接戦だったのだから、『力不足』という言葉は決して適当ではない。だが渡邉がその言葉を選択したのは、「こんな偉そうにしゃべってても僕は0点なので」、「0点だからアレですけど」と、自身が無得点に終わったことを戒めるためでもあったようだ。

わずかな差で優勝を逃した栃木だが、準優勝という称号以上に、この負けという経験は生きるに違いない。渡邉もそれを確信している。「(初年度に)優勝した時も、ジェッツさんに大敗して優勝しましたし、負けて得るものが大きいと思います。僕たちはそれで成長してきました。勝って自信をつけることもありますが、こういった競った試合に勝ちきれないことを自覚して、自問自答して、それぞれが成長できる良い機会なんです」

「もちろん今日勝ったとて負けたとて、向上しなきゃいけないのは間違いないですから。負けて得るものもあるし、これで成長しないなんてことはあり得ないので、悔しさを糧にブレックスらしく頑張っていきたいです」

悔しい敗戦だったのは間違いない。だが渡邊が言うように、負けたことで得られるものもある。負け惜しみで終わるか、その言葉を体現できるかは、これから先の結果次第。栃木と渡邉にとっては、それを証明していくシーズン後半戦となる。