『多様な攻略法』を持ち味とするラトビア代表が大躍進
大会直前にクリスタプス・ポルジンギスがケガで欠場することになり、全く注目されなかったラトビアですが、グループリーグでフランスに続いてスペインも倒し、ドイツには逆転を懸けた最後のシュートが外れて敗れたものの、順位決定戦でイタリアとリトアニアに勝って5位でワールドカップを終えました。試合を見れば見るほど、さらに見たくなる魅力のある最高のチームでした。
ラトビアの特徴は相手の強みを消し、弱点を狙うなど、対戦相手や試合展開に応じた戦い方ができることです。ディフェンスではどのポジションでも守れるロディオン・クルッツを中心に相手のやりたいことを封鎖していき、ドイツ戦ではデニス・シュルーダーに迷いを誘う駆け引きを繰り返してフィールドゴール成功率15%に抑え込んだかと思えば、リトアニア戦では3ポイントシュートを打たせないことにフォーカスして19%の成功率に抑え込みました。アメリカを下した両チームの長所でさえラトビアは短所に変えたのです。
オフェンスでも202cmのアンドレイス・グラジュリスがハイポストで起点にもなれば、3ポイントシュートで相手のリムプロテクターを引き出し、かと思えばゾーンの隙間に飛び込んでゴール下を決め、スクリーナーとしても奮闘するなど、ハードワークと柔軟性を発揮し、ディフェンスの弱点を突き続けました。自分たちの強みよりも、相手の弱点を使うのが上手いチームですが、それは多様な攻略法を持っていることがベースになっており、オフェンスの引き出しの多さも見事でした。
そんなラトビアで抜群のインテリジェンスでチームオフェンスを組み立てたアルトゥールス・ジャガルスは、5位決定戦となったリトアニア戦でワールドカップで1試合の最多記録となる17アシストを、なんとターンオーバー0で達成しました。大会を通して7.4アシスト、2.0ターンオーバーに加え、3ポイントシュート成功率42%と堅実なプレーぶりで魅惑のオフェンスを構築しました。
スピードやジャンプ力、フィジカルといった身体能力の強みはなく、驚くようなハンドリングといったスキルを見せることもないジャガルスですが、広いコートビジョンとディフェンスを動かしてギャップを作っていくイマジネーションに優れ、相手を翻弄しました。力感のない立ち方で絶妙なタメを作ってから繰り出されるパス、チームメートへのパスコースを探す視線から突然のプルアップ3ポイントシュート、ブロックに来るディフェンダーのタイミングを外すステップワークなど23歳とは思えない巧みな駆け引きには、何度も何度も感嘆の溜め息が漏れました。
人口188万人の小国であるラトビアは、代表チームとは思えないくらい選手間の意識が共有されており、多彩さと柔軟さと戦略性で勝利の可能性をこじ開けていく様は、美しいストーリーで描かれた映画を見ているようで、世界のどの国よりも輝きを放つバスケットでした。