文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

我慢の展開を耐えた千葉が、好機を迎えて一気に走る

オールジャパン決勝を制したのは千葉ジェッツだった。過去にはベスト8に一度入っただけと、実績では見劣りした千葉だが、昨年の準優勝チームの栃木ブレックス、前年王者のシーホース三河、そしてNBL王者の川崎ブレイブサンダースを破る『完全勝利』でトーナメントの頂点に立った。

立ち上がりは両チームともプレッシャーからかボールがやや手に付かなかったが、どちらも積極的なアーリーオフェンスを展開して打ち合いの様相を呈する。第1クォーター、オン・ザ・コート「2」の川崎に対し「1」の千葉にとっては我慢の展開。十分に注意していても得点を挙げるニック・ファジーカスの働きで川崎に流れが傾きかけるところを、激しいディフェンスとリバウンドで耐える。さらにはライアン・スパングラーに対してマイケル・パーカーが巧みなディフェンスで仕事をさせなかった。

そして攻撃では富樫勇樹のピック&ロールが川崎に対応されるが、中に入れないと見るや外に切り替えた富樫が3ポイントシュートを沈めるなど、何とか食らい付いてこのクォーターを17-19と2点のビハインドでまとめた。

そしてオン・ザ・コート数が入れ替わった第2クォーター、途中出場の伊藤俊亮がドライブからの得点でつなぐと、中盤から千葉が走り始める。伊藤がつないだ時間帯にベンチで一息入れた小野龍猛がリバウンドから一気に走って21-21と追い付くと、タイラー・ストーン、ヒルトン・アームストロング、そして阿部友和の3ポイントシュートで一気に突き放す。

このランを演出したのは阿部だった。第1クォーターにポイントガードを務めた富樫はアグレッシブにプレーしたが、攻め急いでターンオーバーを連発してもいた。阿部は流れを落ち着かせるとともに、必要なタイミングで速攻を繰り出し、メリハリのあるオフェンスを展開。なおかつチームディフェンスを先頭で引っ張り、千葉に流れを呼び寄せた。

川崎は得点源のファジーカスにボールを集めて打開を図るが、千葉はここを徹底的にマーク。同じくシューターの辻直人にも石井講祐や原修太が常に張り付き、簡単には打たせなかった。3ポイントシュートについてはセカンドユニットの栗原貴宏にもきっちり対策し、試合を通じて封じ込めた。第2クォーター、千葉はファジーカスをわずか1得点に抑え、36-26と2桁のリードを奪って前半を折り返す。

アームストロングのファウルトラブルが試合を大きく動かす

後半も富樫の3ポイントシュートから始まり千葉のペースで推移するかと思われたが、残り8分38秒のところでアームストロングが3つ目のファウルを犯し、ファウルトラブルでベンチへ。ここまでファジーカスを抑えていた『番人』が消えたことで、川崎は一気に勢いづいた……はずだった。

だが、ここでファジーカスにボールを集める川崎の攻めが機能しなかった。アームストロングはファジーカスにボールを受けさせた後、いかにゴールを向かせないかというアプローチで守っていたが、ストーンやマイケル・パーカーはそれとは異なり、ファジーカスに入れるパスを積極的に狙った。この対応に手間取った数分のうちに、千葉の3ポイントシュートが爆発する。富樫が、石井が、そして小野が一本も落とすことなく立て続けに3ポイントシュートを沈めて50-36と一気に差を広げた。

大野篤史ヘッドコーチは、最大の勝因をこの時間帯だと語った。「マイク(パーカー)を始め激しくディフェンスしてくれて、富樫がそれをプッシュしてくれました。伊藤がこの時間を支えてくれたことも大きいです。10点差にされたら変えようと思っていたところを、逆にリードを広げてくれました」

千葉の守りの変化にようやく対応した川崎が反撃に出るも、リズムは完全に狂っていた。千葉のアグレッシブなプレッシャーでボールを奪われては走られ、リバウンドを取られては走られ。第3クォーター残り1分のところでは藤井祐眞からスティールしたパーカーにそのまま独走を許し、バスケット・カウントの3点プレーで突き放された。

大量リードにも集中を切らさない千葉がしっかりと勝ち切る

59-46で迎えた最終クォーター、千葉は川崎のゾーンディフェンスに対して時間をたっぷり使って時計を進めつつ、15点前後のリードをキープする。川崎は集中力が切れ、ファジーカス頼みになってしまった上に、ファジーカスがゴール下でのシュートを次々に落とす『らしくない』プレーを見せる。その間もストーンの3ポイントシュート、リバウンドから走ってのパーカーのダンクなどで千葉がリードを広げていった。

大量リードにも集中を切らすことのない千葉に対し、川崎は気ばかり急いてイージーミスを連発。持ち味である終盤の勝負強さを発揮する機会のないまま66-88で試合終了のブザーを聞いた。

栃木戦と三河戦に続き、試合開始の瞬間から100%の集中を保ったことで優位に立った千葉が、そのまま勝ち切る試合展開。キャプテンの小野は「第1クォーターからハードにディフェンスして、というのが13連勝からみんなで意識できるようになりました」と勝因を語る。

敗れた川崎では、大黒柱のファジーカスがゲームハイの27得点を記録しながらも、イージーなレイアップを何度も落とすなど本調子にはほど遠い出来。やはりファジーカスの爆発がないと川崎は波に乗れない。そういう意味では最大の敗因だった。

北ヘッドコーチは「ニックには連戦の疲れがまずありました」とエースを擁護する。「インサイドでどの選手からも激しく当たられるしフォローも来るし、その当たりがボディーブローのように効いて、力が出なくなってしまったし、カッカしてしまった部分もあった。本来であればニックに入れて、そこからパスをさばくプレーをもっとやるべきでしたが、周囲もニック頼みになってしまった」

千葉はこれで大会初優勝。オールジャパンの歴史に名を刻むとともに、クラブ史にも大きな成果を残した。