井上宗一郎

「チームとして戦うことができれば、ヨーロッパのチームにも勝てると思います」

8月19日、男子日本代表はスロベニア代表との強化試合に68-103と大敗を喫した。これで日本代表は70-88で敗れた一昨日のフランス代表戦に続いての連敗で、1週間後に迫ったワールドカップ本大会を迎える。

もちろん、この2試合は強化試合で、あくまでも本番に向けた準備の一環だ。それでも、今回も日本代表の生命線である3ポイントシュートは46本中わずか10本の成功と沈黙した。また、守備でも相手の素早いパスワークに翻弄され、オープンシュートを何本も許すなど多くの課題が見つかった。ただ、ポジティブな部分もあり、中でも前から当たりに行くなど、豊富な運動量を生かした平面での激しいディフェンスで、試合のリズムを変えることができた。

フランス、スロベニアと、自分たちよりもサイズと巧さを併せ持つ相手と対峙してあらためて痛感させられたのは、オフェンスだけでなくディフェンスでも受け身になってはいけないこと。自分たちから仕掛けて強度の高いプレーを保つには、当然のようにタイムシェアが欠かせない。特に絶対的エースの渡邊雄太は右足首の捻挫によって、大事な強化試合3連戦をすべて欠場し、ぶっつけ本番でワールドカップを迎える。また、股関節の故障で約1カ月に渡り離脱していたジョシュ・ホーキンソンも、プレータイムを増やしているがベストの状態ではない。

本来なら30分から35分は起用したい2人にコンディションの不安があることで、ベンチ入り12名の総力戦で戦う必要性はより増している。だからこそ、ビッグマンの井上宗一郎には、限られた出場時間の中でも得意の3ポイントシュートを決めて試合の流れを変える、『Xファクター』として期待したい。

フランス戦、スロベニア戦を井上はこのように振り返る。「フランス戦に関しては良いところ、悪いところがフィフティフィフティで、最後に自分たちのシュートが落ちて流れがつかめなかったです。スロベニア戦に関しては、本当に3ポイントシュートが入らなかったのが大きな敗因でした。3ポイントが入れば自分たちのリズムを作れて、トランジションも出せますが、それができなかったです」

そして、自分たちがやるべきプレーをすれば、格上相手にも対抗できると手応えも得ている。「アジアと比べると個々の遂行力、チームの完成度はともに大きく違います。ただ、その中でも戦えないわけではなく、チームとして戦うことで相手を抑えられる。それができればヨーロッパのチームにも勝てると思います」

井上宗一郎

「日本人ビッグマンが活躍できると胸を張れるように頑張りたいです」

井上個人で見ると、スロベニア戦は10分のプレータイムでシュートアテンプト数はゼロと、代名詞である3ポイントシュートを打てずに終わった。「自分から打ちにいくというより、味方がペイントタッチをして、パスが回ってきたら打って決めるのが僕の仕事です。まずはチームメートを生かすプレーをし、その結果として空いたら打つイメージです」

井上はこう語り、自身のシュートアテンプトがなかったことは気にしていない。そこにはチャンスさえあればしっかりと打ち切れることへの自信が見える。「ボールをもらったらまずはリングを見ます。短い時間の中で3ポイントシュートを決めるのはBリーグの時から得意にしていますし、そこは常に狙っています」

前回のワールドカップが行われた2019年、井上は筑波大の学生だった。「4年前はテレビで見ていました。自分もこの舞台に立ちたい気持ちはありましたけど、そこまで現実的ではなかったです。それが正直な気持ちでしたけど、それからチャンスをもらい、いろいろな人のおかげで自分は出場することができます。日本のために頑張らないといけないです」

大学生からプロバスケ選手となり、日本代表にも定着しワールドカップという大舞台のコートに立つことになった。井上は「振り返ればあっという間の4年間でした」と語ったが、実際に選手としてのステータスを大きく高める4年間となった。だが、ワールドカップで爪痕を残すことができれば、さらなる大きな変化を巻き起こせる。

指揮官のトム・ホーバスは男子日本代表の歴史において最もスモールボールを重視している。『ストレッチ4』として3ポイントシュート力を評価され、代表に定着した井上は、まさにホーバススタイルの申し子と言える存在だ。そして井上のプレースタイルこそ、外国籍選手の出場時間が増えるBリーグの中で日本人ビッグマンが生き残っていく指針となるべきものだ。

「僕はそういう責任を感じるほど、結果を残している訳ではないので、あまり考えたことはないです」。こう井上は語ったが、それでも心に秘めた思いはある。「日本人ビッグマンは少ないって言われていますし、大学の同期でプレーする人もどんどんいなくなってしまいます。そんな中でも、日本人ビッグマンが活躍できると胸を張れるように頑張りたいです」

本大会で井上の出番はワンポイントかもしれない。だが、そこで彼が3ポイントシュートを決め、しっかりと繋ぎの役目を果たしてくれれば、それは3得点以上の効果を日本にもたらしてくれるはずだ。