榎木璃旺

高校バスケの集大成として攻守に『大濠らしさ』を発揮

高校バスケ最後の試合となるウインターカップ決勝で、福岡大学附属大濠のキャプテン、榎木璃旺はゲームハイの22得点で97-71の快勝に貢献した。

榎木と勝又絆は去年大会でも主力を務め、優勝に貢献した上で最上級生になっていたが、今年の大濠は2年生の本田蕗以や櫻井照大、1年生の白谷柱誠ジャックと才能ある若手が思い切り力を発揮するチームであり、榎木や勝又、吉岡陽や村上敬之丞、栗原咲太郎といった3年生はチームの屋台骨を支え、下級生が活躍できる環境を作った。

ただ、ウインターカップはやはり3年生の大会だ。準決勝では鳥取城北を相手に吉岡が3ポイントシュート4本成功を含む20得点を挙げて勝利の立役者となった。そして決勝は榎木の番だった。

試合前夜、榎木は自分自身とあらためて向き合う時間を作った。日々の振り返りの記録を読み直し、良かったことも悪かったことも再確認して「これまでやってきたことを信じて、自信を持ってコートに立とうと心に決めました」と榎木は言う。「その強い気持ちが、最後のシュートを決め切る力に繋がったのだと感じています」

前半の榎木は5得点のみ。得点よりも同じポイントガードの佐藤凪をマークし、東山にオフェンスのリズムを作らせない大仕事に力を注いだ。その結果、前半で55-37と大量リードを奪うのだが、第3クォーターに試合の流れが変わりそうな時間帯が来た。そこを榎木は見逃さずに、連続3ポイントシュートを成功させる。

「第3クォーターに入ってチームの集中が切れかけたので、自分が引き締めなければと強く意識しました。シュートを決めた後もすぐにディフェンスだと周りに声を掛けて『もう一度、ここから締め直すぞ』と鼓舞しました」

もっとも、榎木の仕事はそこまで多くない。前半も凪へのディフェンスで良い流れを作るとすぐに櫻井照大に引き継ぎ、この時もすぐに村上に出番を譲った。次に流れが悪くなった時に立て直すのが榎木の仕事だったが、チームメートはそのシチュエーションを作ることなく、大濠優勢のままで試合は進んだ。

榎木璃旺

「大濠の勝敗はすべて自分の双肩に懸かっている」

76-56と20点差をキープして迎えた第4クォーター、コートに戻った榎木は3ポイントシュートを3本連続で成功させる。東山が最後の反撃に出て、凪の連続シュートでオフェンスに勢いが出そうなタイミングだったが、榎木の連続得点で逆襲の機運を消し去った。それでも大濠は最後まで手を緩めない。残り1分48秒で榎木はコートに戻り、試合を締めた。

榎木は言う。「試合前に先生から、東山に対して最大限のリスペクトを持とう、という話がありました。結果がどうあれ、40分間敬意をもって全力で戦い抜く。下級生が少し浮き足立っても3年生がしっかりリーダーシップを発揮して、チームを落ち着かせることができたと思います」

試合のクロージングを任されたのは、榎木、勝又、栗原、吉岡、村上の3年生ラインナップ。これは片峯聡太コーチが「まさに3年生への感謝の意」と表現した、下級生のジャックや本田に注目が集まるチームを支えた3年生に花を持たせる粋な選手起用だった。

片峯コーチは榎木のオフェンス爆発をチームの成長として受け止めていた。「今日は久しぶりに榎木があれだけ入って、そこを周りが尊重したところが成長だと感じました。『榎木が良いなら俺もやれるぜ』となると、歯車が狂ってしまいます。それが開志国際との試合であったのですが、そういった大会の中での学びを大事なゲームに落とし込んでくれたのも素晴らしかったです」

榎木は3年間、ポイントガードとしてチームを引っ張ってきた。「最初は責任の重さに逃げ出したくなる時もありました。でも先生から『このチームのガードはお前だ』と言い続けていただいたことで自分に自信が持てました。『大濠の勝敗はすべて自分の双肩に懸かっている』という覚悟を持って、この1年を戦い抜きました」

結果として、決勝では本田やジャックがチームを支える側に周り、3年生を盛り立てた。その舞台で榎木は3年生を代表して、攻守両面で大濠らしいバスケを遂行した。高校バスケ界屈指の名門校である大濠にとっても、ウインターカップ連覇は初めてのこと。榎木たち3年生はその栄誉を手にして、高校バスケに幕を下ろした。