バスケットボール男子日本代表(世界ランク36位)は8月25日から開幕するFIBAワールドカップに臨む。グループステージではドイツ(同11位)、フィンランド(同24位)、オーストラリア(同3位)という強国との対戦が同チームを待ち受ける。2019年のワールドカップ、一昨年の東京オリンピックでそれぞれ全敗を喫した『AkatsukiJapan』は今回、どこまで世界との距離を縮め、1つでも多くの勝ち星を挙げられるのだろうか。

日本代表は2021年秋より、女子日本代表を東京オリンピックで銀メダル獲得に導いたトム・ホーバスヘッドコーチの指揮の下、『ファイブアウト』、『ストレッチ4』など身長の不利を補うべく様々な策を講じながらチーム作りを進めてきた。ホーバスヘッドコーチはまた、アナリティックバスケットボールを標榜し、3ポイントシュートをより多く狙い効率良く得点するといった、データの側面でも相手を上回ることを考えた戦い方を打ち出している。

日本代表やワールドカップを観戦するファンにとって、こうした数字やデータを理解することで、大会をより深く楽しむことができる。そこで今回、日本バスケットボール協会・技術委員会テクニカルハウス部会の部会長で、ワールドカップには男子日本代表のテクニカルスタッフとしてチームに帯同する冨山晋司氏に話を聞き、観戦歴の浅い人も含めた幅広いファンへ向けて、ワールドカップで日本代表の勝利の鍵を握る『注目すべき4つのポイント』を紹介してもらった。すでに始まっている強化試合も含め、観戦の際には参考にしてもらいたい。

3ポイントと2ポイントの割合を五分に近づける

──ホーバスヘッドコーチになってからの日本代表では3ポイントシュートを多く打ち、得点効率を上げるという話がメディアを通してよく出てくるようになりました。まずこの3ポイントと2ポイントの試投数を最初に挙げていただきました。

バスケットボールは本質的にはシュートの確率とシュートの数を争うスポーツなので、この2つ以外に目指しているところはないわけです。シュートには3ポイントと2ポイントがありますが、期待値(入る確率)の高いシュートをどれだけ数多く打てるかということに集約されます。ディフェンスの側からするとその逆で、いかに確率の低いシュートをいかに数多く打たせるかとなります。3ポイントと2ポイント以外ではフリースローもあります。フリースローは期待値が一番高いシュートになるので、これをどれだけもらうかというところもシュートの確率に結びついているわけです。

それに関連してオフェンスリバウンドとターンオーバー(次の項目でも触れる)も重要で、2つとも攻撃回数を増やすこと、シュートの数を増やすというところに結びついています。結局、この4つ(3P、2P、オフェンスリバウンド、ターンオーバー)の数字はすべてシュートの期待値とシュートの数に結びついているんです。なので、これらの数字がゲームの勝敗に大きく影響するというのはすごく当たり前の話です。

トムさんにしても、ディフェンスでターンオーバーを誘発して相手のシュート数を減らす。オフェンスならテンポを上げてかつオフェンスリバウンドを取ってシュートの数を増やしたい。頭の中ではそういう脳みそになっていると思います。彼はオフェンスではペイント内からか3Pかと言っているので分かりやすいです。なぜそう言っているかといえば、そこからのシュートの期待値が高くなるからです。バスケットボールにはいろんな数字がありますが、最終的にそこの数字を大事にすることはブラさないほうがいいと思っています。

ワールドカップで日本戦を楽しむという目線でいうと、オフェンス側では自分たちの3Pと2Pの比率にまず注目していただければと思います。ワールドカップともなると相手のディフェンスレベルも高くなりますが、こちらの3Pの試投数が多すぎると、それはペイント内を攻められていないということにもなります。

トムさんになって、前任のフリオ・ラマスさんの時と比べて3Pを打つ数は圧倒的に増えたんです。1試合の平均では10本くらいは増えています(2019年ワールドカップ・アジア地区予選では平均18.1本、2021年東京オリンピックでは同28本、今回のワールドカップ・アジア地区予選では同36.2本)。トムさんが女子代表で銀メダルを取った時の3Pと2Pの割合は、だいたいフィフティ・フィフティでした。 ただ、男子代表がオーストラリアと試合する時はちょっと3Pの試投数が2Pよりも多くなってしまうのです。そういう時はだいたい相手にすごいリムプロテクターがいたりしますね。もちろん、3Pが40%くらい入るとそっちのほうが効率が良いということになるんですが、やっぱり目指しているのは、まずは3Pを打ちたいというわけじゃなくて、ペイントにアタックすることと、フリースローをもらうこと、これを先にやりたいと思っています。フリースローについては、具体的な目標値を言うのは難しいですが15、6本は打ちたいです。10本くらいしか打てないようだと、苦しいゲームをしているという気はしますし、15、6本なら良いゲームができている可能性が高いと感じます。

☆男子日本代表の直近の国際大会での2P/3P試投数


2019年W杯アジア予選2019年W杯2021年東京五輪2022年アジアカップ 2023年W杯アジア予選
2P平均試投数44.941.645.029.628.8
3P平均試投数18.118.828.040.236.2
男子日本代表

ターンオーバーの数を減らせ、「ミスと失敗」の違いとは?

──ターンーオーバーが重要だというのは誰しもが知っているかと思いますが、具体的にどれくらい少なくすればいいのでしょうか?

はい。ターンオーバーを減らすことは重要で、日本代表としては10個以下に収められたら……と言いたいところですが、世界大会で10以下は相当難しいので12以下くらいでしょうか。15を超えると、苦しい試合になってくるだろうと思います。

──ターンオーバーの種類に「やっていいターンオーバー」と「やってはいけないターンオーバー」というのをよく耳にします。

それは紙の上では判断できないです。ただ、コーチングをする上で、ターンオーバーをゼロにするのは難しいという前提で指導をしています。「やっていいターンオーバー」と「やってはいけないターンオーバー」の基準の分け方として「ミスと失敗」という言い方をします。失敗はしてもいいけど、ミスはダメ。僕もそうですが、育成年代の選手たちへのコーチングではこういう言い方をするのが好きです。

失敗は自分たちができないことをクリアするためににチャレンジすることで、ミスはいつもはできることをケアレスで気を抜いてできないことととらえています。失敗はチャレンジだという前向きな考え方を前提として、ミスはできることができないことになります。ファンの人にとっては、何が失敗で何がミスかを見極めるのは難しいでしょうけども、やっぱりミスの数を減らすということは絶対的に大事なことです。

──2019年のワールドカップや東京オリンピックでの日本代表で、そういった「失敗」によるターンオーバーにはどのようなものがあったのでしょうか。

前回のワールドカップの時、僕はまだチームにいなかったのですが、あの時は八村塁選手にポストでボールをもらわせるプレーがいくつかありましたが、相手もスカウティングをしてくるので、日本がそれをやろうとしすぎてボールが入らないことがありました。また、入るまでに時間がかかりすぎてターンオーバーになることもありましたし、良いシュートにならなかったという場面もあったと思います。

今は当時とは違い、全員がアグレッシブに攻めていくというスタイルのバスケットをやっているので、「ボールをこの人に預けよう」みたいにしすぎてターンオーバーになるというようなことは、その時に比べると少なくなっているのかなと思います。

東京オリンピックではターンオーバーの数は減りました(2019年ワールドカップでは平均14.6、同オリンピックでは同11.0)。ただトランジションで出たターンオーバーが実は一番多く、そこのターンオーバーはもっと減らせるはずだっただろうと。それでも、ハーフコートでのターンオーバーは減りました。

──ボックススコアに出るターンオーバーを見ても「ミス」と「失敗」は分かりませんが、どれが「ミス」でどれが「失敗」かを考えながら観戦するのは面白そうですね。

そうですね。チャレンジは必要だけどケアレスな、普段できているようなことができないのは避けなきゃいけません。先ほども申し上げましたが、ターンオーバーの数はシュートの数に影響するわけです。相手のターンオーバーと自分たちのオフェンスリバウンドがシュートの数を増やすことに影響するので、そこに注目してほしいです。

☆日本代表の直近国際大会での平均ターンオーバー数

2019年W杯アジア予選2019年W杯2021年東京五輪2022年アジアカップ 2023年W杯アジア予選
11.214.611.011.012.4

●冨山晋司(とみやま・しんじ)
1981年5月12日、東京生まれ。bjリーグ時代の岩手ビッグブルズや千葉ジェッツでヘッドコーチを担い、大阪エヴェッサ在籍時にはアシスタントGM兼アナライジングディレクターを務める。2021年から日本協会でテクニカルハウスでスタッフとなった。テクニカルハウス部会は昨年6月に「テクニカルレポート2021」を公開し、東京オリンピックにおける男女5人制、3人制日本代表チームの成果などをデータを用いながら紹介。男子5人制チームについては、2019年ワールドカップから同オリンピックでどれだけ進歩したか等もこれを読めば分かる内容となっているが、冨山氏も作成に関わっている。