2022-23シーズン、若手中心の編成で上位チームに勝利したり肉薄する試合も見せた京都ハンナリーズ。このオフも早い段階から有望な選手を獲得して、移籍市場を賑わせた。2023-24シーズンも若手中心の編成でステップアップが期待される、京都の渡邉拓馬GMに話を聞いた。

「ロイさんの指導を通じてバスケへの向き合い方が根本から変わった」

──GMとしての仕事も含め、昨シーズンの振り返りをお願いします。

GMに就任した2021-22シーズンは、成績も良くなかったこともあり考えさせられるシーズンでした。時代は違いますが、僕が現役時代にいた勝つチームの雰囲気や物事を進めていくやり方などと、自分の中でズレがありました。まず勝てるチームにするために必要なこととして描いていたのが、チームを立て直せるコーチを呼ぶことで、それが最重要事項でした。2021年の年末に動き始めて、2022-23シーズンに向けてロイ（ラナ）さんをヘッドコーチとして招聘するという動きが昨オフの最初でした。僕の中ではロイさん一択で、他の選択はなかったです。僕が来た1年目とその前のシーズンがすごく悪かったわけではないですけど、僕が現役時代に勝っていたチームにいただけに理想とやはり遠かったというところで、やるからにはそういうチームを作らなければという責任もありました。いろいろな難しい判断はありましたが、取っ掛かりとしてロイさんを招聘していくことがスタートでした。

そこからロスター編成やビジョン、メソッドなどいろいろなことを進めてシーズンに向かい、予算もそこまで多くない中でロスターが決まりました。ただ評判通りというかみんなに「京都は大丈夫か？」みたいな感じのところからシーズンが始まりましたが、そこはもう自分としても腹を括っていました。もちろんB1残留は重要ですが、文化を構築することを1からやると決めた自分の覚悟としては、落ちてもいいから「京都が本気だ」というインパクトを出さなきゃいけないと思っていました。

逆に順位とかではなく、ロイさんを招いたことで選手やスタッフの人生が変わるようなきっかけを作ってあげたいというのが優先でした。結果的に開幕戦はボロボロでしたけど、シーズンが進むにつれて「京都が変わった」とみんなが振り返って見てくれるようなインパクトを残せ、僕とロイさんが考えていた目標は達成できたシーズンになりました。

──確かにレギュラーシーズン22勝38敗で西地区7位という結果よりも、島根スサノオマジックや名古屋ダイヤモンドドルフィンズに勝ったり、千葉ジェッツや広島ドラゴンフライズを終盤まで追い詰めたりと健闘を見せたシーズンでした。シーズンを通じて成長できた要因は何だったのでしょうか？

もちろん、コート上のことはロイさんを信頼し任せていますが、コート外のマネジメントに関してもロイさんは素晴らしく、初めて練習に来た瞬間から3秒で空気が変わったような感じでした。選手はもちろん、スタッフやトレーナーも含めて「あ、この人は違う」という感覚になっていました。選手に対しては1人の大人として信頼しているので、細かいチームルールを設けていないですが、ルールがなくてもロイさんの指導を通じて仲間やバスケへの向き合い方が根本から変わったというのが大きかったです。技術的なことを言えば、ディフェンスのルールが細かく、徹底すれば実績のない選手でもチームに貢献できるというのはありました。やはりチーム内のコミュニケーションや向き合い方が変わったことがインパクトを残せた要因でした。

「情熱や覚悟を持った選手が来てくれたのはうれしい」

──ロイヘッドコーチがチームを変えたという印象を持ちましたが、他のコーチと違う点はどこでしょうか？

ロイさんは個人的に選手とLINEでもコミュニケーションを取っていて「こういう選手を参考にしよう」とNBAの映像を選手に送ったり、個別で一緒にコーヒーを飲みに行ったりと関わりが深いです。それは選手だけでなくトレーナーともメニューの相談をしたり、仕事以外のプライベートで困ったことがあったら寄り添った話をしたりと、人として成熟していて魅力的です。僕もそういうことがうまくできる人じゃないとチームを立て直すのは難しいと思っていたので、そこは予想通りでした。ただそういうコミュニケーションはバスケ界に限らず今の日本で大事なことかなという風に思いましたね。

──このオフも動き出しが早く、移籍市場を賑わせました。昨シーズンからの継続選手が4人で新加入選手も多く、外国籍選手は全員が入れ替りました。編成のポイントを教えてください。

やはり残すべき選手を残して、昨シーズンにやったことを継続していくことが重要だとロイさんとも話しました。ただ1つ変えたいと思っていたのが、日本代表クラスの選手を取りたいということです。スターになりうる候補として、昨シーズン途中から僕とロイさんで独自のスタッツを出してリストアップし、岡田（侑大・信州ブレイブウォリアーズから移籍）選手を獲得することにしました。チームの編成とフロントの意向、さらに京都というホームタウンにゆかりがある選手という三角形がうまく合致した選手はなかなかいないので適任ではあります。そこの動き出しが最初だったんですけど、ロイさんや社長の熱意も通じて岡田選手が動いてくれました。

──岡田選手を軸に編成を考えたということでしょうか？

岡田選手が決まる決まらないでまた変わってきたと思います。岡田選手が入ってきて、継続性をどう持たせようかという話が進みました。正直、予想していたよりも移籍した選手はいましたが、結果として選手は変わったものの、継続性という意味ではステップアップする選手が揃ったので、ロイさんも僕も「これだったらいいんじゃないか」という判断に至りました。岡田選手が決まって、迷いなく前田（悟・川崎ブレイブサンダースから移籍）選手、澁田（怜音・新潟アルビレックスBBから移籍）選手、ラシード（ファラーズ・千葉ジェッツから移籍）選手をチョイスしていったという流れですね。西地区というタフな地区を戦う上で、インサイドは課題だったので、慎重に数字やいろいろな情報を収集してCJ（チャールズ・ジャクソン・横浜ビー・コルセアーズから移籍）の獲得にも至りました。

あとはロイさんのコーチングにみんなが魅力を感じて「変わりたい！」、「本当にチームのためにやりたい！」、「勝ちたい！」いう情熱を持った選手が決断してくれたので、そこは昨シーズンと同じ思いでビジョンも変わっていません。情熱や覚悟を持った選手が来てくれたのはうれしいですが、僕自身、この編成に対して現段階では評価できず、あくまでここからがスタートです。