渡邊雄太

「日本人NBA選手として、日本の子どもたちに対してできることはたくさんある」

7月15日、サンズの渡邊雄太が自身の主催によるバスケットボールクリニックを東京都内のバスケットボール部に所属する高校生40名を対象に行った。

「自分が現役のNBA選手であるうちに1回目をずっとやりたかったです。コロナ禍もあってずっとできなかったのがようやく今年の夏に実現できました」

このように渡邊は語り、現役のNBA選手としての還元を強く意識している。「日本にいてNBA選手と触れ合う機会はなかなかないと思っています。自分も小さい時、NBA選手に会ったことは一回もなかったです。日本人NBA選手として、日本の子どもたちに対してできることはたくさんあり、今日はその1つに過ぎないと思っています」

熱望していたクリニックの開催に際し、「今回は手探りの状況で、自分がやりたいことをリストアップして今日のメニューになりました」と明かした渡邊は、今回の参加者は『ファミリー』であると一体感を強調した。午前中はスキルクリニックとして、まずはシュートフォームの指導から開始。さらにキャッチ・アンド・シュート、ポンプフェイクからのドライブ、フローターやユーロステップにキックアウトなど、オンボールの動きについてのメニューが続いた。また「オフボールの動きはすごく大事。1対1だけでは点は取れない」と、バックドアといったオフボールの動きについても熱心に説明する。途中に設けた給水タイムの時には、NBAにまつわるクイズを出すなど、参加者たちを楽しませようといろいろと工夫をこらしていた。

シューズの選び方についてのトークコーナーでは、履いた瞬間の第一印象を大切にし、次のこだわりがあると明かす。「最初に履いた時、なんとなくこのシューズが合う、合わないのか。その後で靴紐をぎゅっと縛ることができるのか。靴の重さは軽いけど軽すぎない。そういったことを大事にします。足のサイズは30.5cmですが、使っているシューズのサイズは32cmです。普段は靴下を2足履いて使います。爪先に余裕がありますが、そこはしっかり紐を縛っているので足が動くことはないです」

そして、ランチタイムでは参加者と一緒の席で食事を取って交流を楽しむと、午後はパフォーマンスを発揮するための食事をテーマにした座学を実施。そこから参加者同士でのシューティングやドリブル、フリースローによる勝ち抜き戦とゲーム形式のメニューを行った。

渡邊雄太

「大学4年間はめちゃくちゃ大変だった。でも俺の努力がアメリカ行きを正解にさせた」

左ふくらはぎに若干の痛みがあるため大事をとって本来のメニューに比べると強度を落としたが、渡邊は自身のシューティングのワークアウトを披露。次々とシュートを沈め、参加者たちが唸らせたが、最後にワークアウトを見せたのは渡邊の次の思いがあった。

「自分自身も何かを言う立場として、自分が雑なことをやっていたら響かない。自分がやっている姿を見せて『やっぱりNBA選手は違うんだな』と感じてもらった上で話したいと思っていて、その流れを考えていました」

そしてクリニック最後のスピーチで渡邊は「NBA選手になって次は6年目です。3年、4年と言われているNBA選手の平均寿命を超えました。外から見ているとNBAは華やかな舞台で、苦労はないかと思うかもしれないです。でも俺の人生、苦労の連続です」と、自身の歩みについて高校生に語りかけた。

「今でこそアメリカに行くのが良い選択と見られているけど、俺が行く時はいろいろな人に反対されて、アメリカ行きは大犯罪を犯すかのような感じでした。英語がしゃべれない。身体も細いし、技術的にも足りない。ただ、ダメになって帰ってくるだけと言われました。でも身近な人たちが背中を押してくれ、周りのサポートもあって大学4年間を一生懸命頑張って今、NBA選手になれました」

「これから高校を卒業して就職するのか大学に行くのか、大きな選択がみんなの前に迫ってくると思う。今でこそNBA選手になれているから、『あの時アメリカに行って良かったね』とか正解だったねとか、いまだに言われる。正直、俺からしたら大学4年間はめちゃくちゃ険しい、相当に大変だった。結果的に正解だったけど、その時その時を考えたら全然正解じゃなかった。でも俺の努力が、アメリカ行きを正解にさせた。みんなもこの先、いろいろと大事な選択をしていかないといけない。でも、その選択が正解だったかどうかより、その先の過程が大事になってくる。いろいろ悩むと思うけど、何を選択するというより、選択した後に何をするかが大事になってくる」

渡邊雄太

「このキャンプをもっと大きいものにして、もっといろいろな子達が参加できる形に」

このように渡邊は自らの歩みを振り返ると、「仮にNBA選手になれていなかったら『アメリカ行きは失敗だったね』って言われていた。でも俺はちゃんと努力してきたから、NBA選手になれていなくても胸を張って絶対に日本に帰ってきたと思う」と、そう言い切れる理由をこのようにに続ける。

「それだけ自分で努力できたかなって感覚はあるかな。この先みなさんも大変なことがあります。楽しいことだけじゃないけど、今日の楽しい時間を思い出しながらいろいろな選択肢の中で何が自分にとって一番良いのか、自分の努力した先に何が待っているのかを考えて、過程を大事にしながら生活してもらえたらなと思います」

最後の心に響くスピーチを含め、本当に盛りだくさんの内容の密度の濃いクリニックとなったが、渡邊にはもっとやりたいことがある。時間や体育館の確保など、いろいろな制約はあるが、彼の理想とするクリニックは次のようなものだという。「5対5への参加など、自分自身も子供たちと一緒にバスケットをやりたいです。日数でいうと、土日をしっかり使って初日はスキル、2日目は実戦形式。レベルも高いレベル、単純にバスケを楽しんでやりたい子と分けてやりたいですね」

冒頭でも触れたが、今回は渡邊にとってあくまで始まりに過ぎない。「今後、このキャンプをもっと大きいものにして、もっといろいろな子達が参加できる形にしていきたいです」と、さらなる発展に意欲的だ。

彼のような傑出した才能と社会貢献への高い志を持ったアスリートが、日本バスケットボール界にいてくれることの有り難みをあらためて感じずにはいられない今回のクリニックだった。そして、この取り組みが本人の望み通り規模が大きくなることで、一人でも多くの子どもが渡邊と触れ、一生の宝物となる体験ができるようになってもらいたい。